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大人の常識、大人の純情  作者: 篠宮 英
しーくれっとⅠ:婚約編
2/22

Secret.2

 ある人はそれは「貴女の試練だから」と、他人事のように私に微笑んだ。

 また、ある人は、「それは災難だったね、でも、それが君の運命なんじゃないのかな?」と慰めにも似た言葉を。


 そして、いつも能天気な後輩には。


「夢でも見てたんじゃないんですか?」


 と、全否定された。



 

************


 ここ、株式会社【MIKAGURA】には、四天王と言われ、全女子社員から絶好の結婚、又は浮気・不倫相手として狙われている不憫で哀れながらにも、実に羨ましい男性陣がいる。

 その中でも、とりわけ人気がある総務の若き課長・神崎 みちる氏は、一度も女性と噂になった事がなく、特に清純派ないつまでも夢を見ている女性達に高い支持を得ていた。


 いつの時代でも、やはり女性は自分だけを見ていて欲しいのだろう。

 けれど、今日の仕事の終業後、偶然彼の秘密を垣間見、その事実を知ってしまった私から言わせて貰えれば、彼は高望みレベルではなく、絶対に手に入らない人だと断言できる。


 出来るのに、それを私は言えないでいる。



 彼は男性にしては同年代の人達と比べても細く、指は細く長く、瞳には穏やかな光を宿し、サラサラな髪はいつも丁寧に後ろ側に撫でつけられ、知性と色気を併せ持ち、それを色濃く窺わせるメガネのフレームはシルバーのセルフレーム。


 これで異性にモテないワケがない。

 恋人がいないワケがない。

 彼女がいないワケがない。


 そう。彼には、神崎課長にはちゃんと恋人がいたの。

 でもその恋人の性別が問題だったのよ。


 私がそれを目撃してしまったのは、人生最大の悲劇だと言えるわ。


 だって、だって、どうして私があんなシーンを、二次元でしかあり得ない(実際にはいるんだろうけど)シーンを見て、正気でいられるかしら?


 答えはNoよ。

 無理だわ。

 えぇ、いくらなんでも無理だわ。

 例え差別だろうと注意されようが、声の限り罵られ様が、私には無理。


 なんでよりによって私だったのかしらね。

 私は無駄に人の蔭口や噂話を流すタイプではないのよ。

 そんな事に時間を割いてる暇があるのなら、資格試験の勉強に回すわ。




 ――四天王の一人でもある課長が、同性愛者だったなんて、誰に言えるって言うの・・・?




 私がもし仮に誰かにその事実を漏らしたとして、誰が信じてくれるって言うのよ。

 いいえ、秘書課の皆は信じてくれるだろうけど、課長のファンクラブの人達には完全に敵扱いされるわ。間違いなくね。


 もしかして、下手したら消されちゃうかもしれない。



 カロン、カロンっと、グラスの中の氷が解け、軽やかに踊る音が今は非常に有り難いわ。

 適度なアルコール摂取は心を落ち着かせると言うしね。


 なのに、なんでここに来ちゃうの?

 なんで私の心のオアシスに、そんな如何にも、『情事の後です』って言う態度と雰囲気でここに来ちゃうワケ? 


 あぁー、もう、男同士でイチャつくな気持ち悪い。

 ただでさえつい3時間前の濃厚なキスシーンでこっちは胸やけの上、鳥肌モノだって言うのに。


 よし、こうなったら、奥の手よ!!


「マスター、御馳走様。つけておいて。」


 寡黙なBarのマスターは、私のお父さんの友人。

 だからこれくらいの我儘はいつでも通る。そして、私が理由もなく無銭飲食しない事も知っているから、事情をすぐに察してくれる。


 寡黙なマスターが私の言葉に頷くのを確認して、私はBarの裏口から課長たちが椅子に座る前に、店を脱出して、辛くも遭遇を逃れたと思い込んでいた。

 

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