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大人の常識、大人の純情  作者: 篠宮 英
しーくれっとⅠ:婚約編
16/22

Secret.16

 なんてこと!?どうしてこんなトコロで遭遇しちゃうのよ!!


 今日はゴールデンウィークも直前な土曜日。

 私は日頃の積み重なったストレスを発散する為に、朝早くから真っ赤なスタイリッシュな車に乗って、買い物と言う名の散策に繰り出していたんだけど、その先で例の恋人同士とうっかりご対面をしてしまった。


 場所は最近オープンしたアウトレットモールの一角にある映画館。そこで上演されていた映画は、非常にマイナーな青薔薇モノ(つまり、男性同士の許されざる禁断な恋愛映画よ)で、私がその映画を選んだのは、少しでも婚約者となってしまった神崎課長の心を理解出来ないかと考えたからで、決して彼らのお楽しみの時間を邪魔しようと思っていたワケじゃないの。


 お願いだから、それだけは信じて!!


 最初は見間違いかとも思ったわ。

 だって最近は自分達がそう言う人間だってカミングアウトする人達が出てきているとはいえ、彼達は大企業に勤めている、世間でいえば結婚相手としては優良物件な立場にいるのであって、そんなにオープンにしたって得られる利益なんて限りなく少ないんだもの。


 でも薄闇な映画館の一室と言う、ある意味完全な密室で何度もちらちらと盗み見した結果、私は彼らだと不幸な事に確信してしまったのよね。


 だから私は高い料金を払ってまで見ようと思っていた映画を途中退席することに決めたのに、はいそうですかと、問屋は簡単に卸しちゃくれなかったわ。


 そっと立ち上がり、そろりそろりと足音も出来るだけ立てない様におさらばしようと思っていたのに、その日だけに限って、私の携帯が大音量でその暗い一室に鳴り響いてしまって。


 ただでさえ慌てていた私は、その場にいた係員さんに注意を受けて、それでも何とか部屋の外に出ようとした時だった。


 場面はまさに男性同士のねっとりとした濃厚な情事のシーン。


 幾ら恋愛経験がそれなりにあるとは言え、私はまだ恋愛初級者。

 そこまで深い関係になる前には別れてしまっているから、免疫があまり無い。それなのに男性同士が愛しあい、一時の快楽に昇り詰めるシーンは、私の脳内の運動系列を止めてしまった。


 もう、何も考えられないどころか、腰が抜けてたのよね。その時は。

 だから係員さんに嫌な顔をされながら、暗い部屋から出された時はホッとしちゃって、ついつい本音を溜息と一緒に漏らしちゃったのよ。


「ないわ。って言うか、ホント、無理。あんなの絶対無理。望まれても私には無理。出来っこないわ。」


 人間、気を抜くと失敗する生き物なのよ。

 

 私はあまりの刺激的な映像を初体験してしまったが故の興奮状態にいたからなのか、その気配に気づく事に遅れてしまって、肩を叩かれた時には手遅れだった。


「――心配しなくとも、貴女にはあそこまでは求めませんよ?萌さん?」


「っひィえ、」


「酷いですね。まるで人を獣かお化けのように見ないで下さい。」


 て、手を離して下さい。

 と言うか、後ろから抱きしめないで。




 って、あ~~~!!




 心の中で絶叫した私は悪くない。

 

 私は何処までもバカだった。

 自分が何処にいるかもっと弁えるべきだった。

 ガヤガヤと賑わうオープンしたばかりのアウトレットパーク。

 そこには誰がいたっておかしくないワケで。


 公衆の面前で、休日モードの課長から後ろから抱きしめられた事で羞恥心により顔を赤らめていた私は、突き刺さる様な痛い視線を感じ、その先で見てしまった人の顔に、恐怖を感じた。


 怖い。

 恐い。

 コワイ。

 こわい。


 嫉妬に燃える、綺麗な女性の顔だった。

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