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大人の常識、大人の純情  作者: 篠宮 英
しーくれっとⅠ:婚約編
15/22

Secret.15

 ついついうっかりしちゃってたけど、忘れてた訳じゃないわよ?ただ、あまりにも濃い日常生活でアナタ達の事を放置していただけなのよ。

 そんな言い訳にすらならない事を胸の中に抱えつつ、そろそろ教育的指導も佳境に突入した筈のひよ子達に5日ぶりに相対してみれば、全く何ら成長を遂げていなかった。


 アナタ達、一体何様のつもりなのよ。

 会社だって暇じゃないのよ?

 遊びに来てるの?それとも給料泥棒かしら?


「神崎課長、一体彼らはここへ何をしに来たのでしょうか。」


「さぁ?昨今はやりの【婚活】ではないでしょうか。人事の方へはウチで使える人間はいないと既に申し送っておきましたから、どうでも良いですが」


「――見捨てるんですか?」


「心外ですね。彼らは自分達のイメージを挽回するチャンスをみすみす見逃した愚者なのですよ?」


 そ、ソウデスヨネ。

 彼らの自業自得ですよね。


 私の不用意な言葉に気分を害した課長から物凄い冷たい視線を頂いてしまった私は、その視線に耐えきれずに、速攻で視線を逸らし、資料を読むふりをした。


 【MIKAGURA】の新人研修はだいたい1部署当り2週間程度。その間、彼らは私や神崎課長の真意を汲み取ることも無く、信用も回復するチャンスをも自分達から悉く潰した。

 そんな事が赦されるのは幼児までなのだから、使えないと判断されたら、その判断が人事へと流されることは必至。 むしろ、今日まで良く神崎課長がこのくだらない無益な研修期間に時間を割いたわねと、驚いている。


 きっと、神崎課長は最後まで少なからず希望を持って接していたに違いない。だから研修の最終日が目前の今日まで付き合って来た。けれど、どんなに口煩く教育しても彼らは学生気分のまま、愚かな振る舞いや言動を改めなかった。


 そっりゃあ、誰だって投げやりになるわよねぇ?

 だって、ただでさえ忙しくて恋人とデートも出来ないのに、新人教育でしょ?特別に手当てが出るとしても、普段の仕事と並行しなくちゃいけないんだから、呆れたくもなるわよ。


 トントン、と、読んでいた資料をテーブルの上で軽くまとめた課長は、ホワイトボードに自習と大きな文字で書くと、まだ資料を読んでいるふりをしていた私の左手首を掴むと、そのまま私を椅子から立ち上がらせると、何も言わずに会議室から抜け出した。


 そして。


「今年の歓送迎会は必要がなくなりましたと報告しなければいけませんね。」


 大変神々しい威圧たっぷりの笑顔で断言をなさり(敬語なのは怖いからよ!!)、課長は私の手首を掴んだまま、人事部へと直行して、資料を人事の部長のデスクに叩き付けたの。当然、人事部の部長さんは驚いてたわ。


 だって、普段が普段温厚な課長が、顔が微笑んでいても、瞳の奥が物騒なモノを映し出していたら、怖いモノね。逆らえないわよね?

  

 それでも人事を司る人は流石だったわ。

 思わず惚れそうになってしまったのは秘密よ。


「どうした、神崎。お前にしては酷く珍しいご面相じゃないか。それに天王寺さんまで、珍しい組み合わせだな。」


「今年の新人に限り、総務は要りません。あそこまで使えない人間は会社にとって害悪しかなり得ません。」


「・・・そ、そうか。水瀬さんもダメだったか。」


「えぇ。確かに彼女は真面目でしたが、人を外見で判断し過ぎな上、同僚もフォローしない様な人間は弱肉強食な社会生活には向いていません。僕が何度それをさり気無く窘めたとお思いですか?自分だけは違うという気概と雰囲気は今は良くとも、その内やっと築き上げた協調性をも乱してまいますよ。それで損ねた利益は誰が補填するんですか?僕なら心底遠慮したいですね。そんな無駄な仕事は。」


 その厳し過ぎる考え方は、理解出来ない訳でもなかった。確かに水瀬さんと言う女性は真面目だったけれど、真面目すぎて臨機応変が出来ないタイプで、言い訳も多かった。


 「でも」とか「だって」とか。

 そうやって言い訳だけして、いつか困るのは自分なのに。

 

 時は無限にある訳じゃない。有限だからこそ、自分自身が選んで後悔しないように生きなきゃならない。そのチャンスを彼女は少なくとも総務では掴み損ねてしまった。


 言い方は悪いけれど、彼女の代わりは誰だっている。

 不況の世の中だからこそ、彼女より必死になって、自分の為、会社の為に働いてくれる人はいる。


 私はそう結論付け、人事部の部長さんに乞われるがままに、今年度の新入社員の評価表を渡したのだった。


  

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