Secret.14
――時は先制攻撃翌日、場は天王寺家リビング。
神堂家には2人の息子に三人の娘がいて、神崎課長は実はそんな新堂家の長男だったりするする。だけど前回、今回と立て続けに神堂家の長男たる課長が天王寺家との縁談に名乗りを上げさせられたのには、課長の交遊関係と神堂家の裏事情にある。
神堂家にとって、古くから続き今でも名士であり続けるのに、異性との付き合いを感じさせない課長は、家名を貶め、泥を塗るだけであり、このまま彼に神堂家の家名を名乗らせる利益が見出せなかった。
よって、神堂家は手っ取り早く厄介払いする手段として、前回・今回と天王寺家との縁談を利用しようと試みた結果、前回は敢え無く失敗、そして今回は課長の強引な策略によって神堂家にとっては、成功したと言えるかもしれない。
けど、考えても見て?
それはあくまで神堂家と課長だけの成功であって、私にとっては悪夢に等しい事柄。
なのに、私の両親のはしゃぎっぷりには、正直なトコロ、殺意さえ覚える。
「どう?みちる君。萌ちゃんが作ったカレー、美味しい?」
「みちる君、将棋は得意か?」
「はい美味しいです。将棋は学生時代に少しだけ齧ってました。」
和気藹々とした雰囲気に、私だけが取り残されている状態。でも、そこで私がそれに降伏してしまえば、愛の無い結婚生活になってしまうじゃないの。
それだけは避けたいのよ。
何が何でも結婚相手だけは妥協できない。でも心の中の冷静な私は告げる。
――愛情だけを求める結婚は失敗して、必ず破綻を迎える
って。
確かに結婚相手に愛だけを求めるのは間違ってるかもしれない。それに私は天王寺家を背負って行く存在なのだから、将来の為にも是が否にでも子供を作らなければいけないし、他企業や他家との繋がりもよりよくしていかなければいけないのだから。
「どうすればいいの・・・」
深皿の中でカレーをグチャグチャに混ぜながら悶々とする私に、今回の仕掛け人でもある男性は、極上の笑みを浮かべ、爽やかに、なおかつ、簡単に言い退けた。
「悩まずに素直に私との結婚を承諾をすればいいんですよ。」
「そんなの無理よ。第一、課長は私のコト、抱けるんですか?無理でしょ?」
「抱けますよ?」
「ホラ・・・って、え?」
今、何て仰いました?
今の、絶対に私の聞き間違いよね?
そうじゃなきゃ困るわ!!
だって、だって、課長が女性を抱けるって知ってしまったら、私・・・・っ。
そこまで考えた時、私の緑色の瞳と課長の瞳があわさり、視線が絡み合い、私の顔が熱くなって段々と火照っていくのが自分でも判って、急いで視線を逸らし、皿の中で悲惨な状況になり果てていた夕食を猛然とした勢いで食べ、片付けて、とりあえず安全な筈な自分の部屋へと避難した。
これを勇気ある撤退だと私は思っていたけれど、後に私は両親から課長の思惑を知る事となった。
両親曰く――
『めぐちゃん?男の人はね、狩猟本能と可虐趣味を持ち合せている事が殆んどなの。だからね?諦めなさい』
貴女はあの日、あの時、逃げた事でもう既に負けを認めていた様なモノなよ、と。
こうして私は、測らずとも無意識の内に不戦敗し、自分の首を自分で締めてしまった事に気付かず、ベッドの中で丸まっていた。