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大人の常識、大人の純情  作者: 篠宮 英
しーくれっとⅠ:婚約編
10/22

Secret.10

 私はよくよく不運に愛され、恵まれているらしい。


 時刻はお昼の空気も抜けて来た14時半過ぎ。

 場所は普段は誰も足を踏み入れないと言われている資料室という名の別名【倉庫】。

 その倉庫は日中にも関らず、窓がないせいで薄暗く、長年のつもりにつもった埃やカビのせいで居心地のいい空間とはお世辞でも言えない。


 では何故そんな所に私が出向いているのかと言えば、それは「一昨年前のデーターが気になるから持って来てくれ」との私が主に補佐している専務からのお達しだからで、好きでこんな薄暗い所に来たわけじゃない。更に言えば、ここにいたのは私の方が先であって、決してあちら様方が先ではない事は確かよ。


  

 えぇ、私が先よ。

 何と言おうと私の方が先にいたのよ。(大切だから3回断言したわよ。)



 素晴らしく察しの良い人がもし私の隣にいてくれたのなら、その人はきっと私の不運に同情し、きっと共感してくれると思うの。


 だって、だって、だって!!


「っみちるっっ・・・、ぁっ・・・はぁ、はぁ、」


「なんだ、もうイッタのか?」


「っく、仕方ないだろ!!」


 酷く淫猥な音が薄暗い部屋の中に響く。その音共に聞こえる会話が、私の耳と頭の中を混乱させる。

 

 そう。

 私が埒もなく平静でいようと時間を気にしてみたり、自分の居場所を自己確認してみたりしていたのは、この二人のせいなの。


 知ってはいたわよ。

 見ちゃったこともあったわよ。

 でもね?流石に本番一歩手前な場面は見たくもないし、聞きたくもないの。

 そんなの二次元限定でいいのよ!!でなきゃ、ホテルでやりやがれ!!


 ドクドクと先程から休み無く動き続けている心臓のある左胸は痛くて、あまりの色気と艶やかさの雰囲気と空気に吞まれた身体の芯は、自然の摂理のせいか熱くなって仕方がない。


 このまま最後まであの二人がやってしまったのなら、私はどうなってしまうのだろう。


 一度熱が燈った身体をどうしていいか持て余していた時、その音は聞こえた。


 重たい鉄の扉が押しあけられる音は、代わりに薄暗かった部屋に光をもたらし、その光が届く前に正に抱き合う寸前だった二人は離れ、カチャカチャとベルトを締める音が聞こえたかと思いきや。


「ここにいたんですね?課長ったら、ダメじゃないですかぁ~。かおりぃ、探したんですよ?」


 やけに甘ったるい人工的な花の香りが資料室とは名前ばかりの倉庫内に広がり、その香りと同じくらい甘くねちっこい女の子の声がした。その女の子が課長に絡みつく様な仕草で言い寄っている隙に、課長の恋人は無言で退散した。その際に自分達の邪魔をした女の子を睨む事を忘れる事無く。


 ――と、とりあえず、助かったの?

  助かったのね?


 ホッ、良かった、これで一安心と、私の気が緩みかけた時、その言葉はまるで何かを企んでいるかのように、私の耳に届いた。


 いや、企んでいたのだろう。

 だからこんなにも私は緊張しているのかもしれない。


「課長?さっきの人と何してたんですかぁ~?」


 女は時に鬼より恐ろしく、何者より狡猾な生き物となる。

 そう言い聞かされ、祖父に教育されてきた私だからこそ、彼女の企みから彼を守れるんじゃないかと思った。

 だからこそ私は隠していた姿を自ら現し、気付いた時には言葉を発してしまっていた・・・。


 ――神崎課長は私の探し物を一緒に探していてくれただけよ。



 と。

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