タスケテ、無理矢理勇者にされてしまいます
「どうしてこうなった?」
アム少年は取ってつけたような剣士の装いで、馬車の手綱を取っていた。隣には赤いランドセルに黄色い帽子、白いブラウスと紺色の吊りスカートのカリアが、脚をブラブラとさせながら座っている。
荷台の幌の中には魔女の衣装を身に着けたアンと、僧侶のそれを身に着けたココがいた。アム少年に言わせると、ハロウィンのコスプレのようなそれが妙に二人に似合っていたが、周囲から浮いていることこの上なかった。
そして、その後ろには鎧の胸当てがボッコリと凹んだ、ココやアンと年頃の変わらない少女が目を回して寝転がされていた。馬車の後ろにはその少女が乗って来た馬が繋がれ、ゆっくりと進む馬車について来ていた。
***
その日、アム少年は久々に訪れた人里にワクワクしていた。取ってつけたような衣装を着せられたことは少し気恥ずかしかったが、久々にたくさんの人が行き交う場所だったからだ。
ただ、右手を魔女のコスプレをしたアンと、左手を女僧侶のコスプレをしたココが握ってさえいなければ、と思わないでもない。
この世界ではかなり浮いたデザインと色使いで、まだアムの記憶にある前世の方がしっくりとくるだろうタイプのそれだった。
また、両手を二人とつないだ様子が、ぱっと見、囚われた宇宙人の写真に見えないだろうかという考えも、彼に少しだけ座りの悪い感覚を与えていた。
カリアは三人の前で先導しており、帽子、ランドセルと吊りスカートの三点セットに小さな旗を加えて四点セットになっていた。そこには『アム様ご一行』という呑気な印字が見て取れる。
その恰好をした彼女を見ると彼が反射的にニコニコしてしまうのを見て、もしかしてカリアはそれがアム少年に評判が良い装いだと捉えたのかもしれない。
「ここだな」
そう言ったカリアが三人に振り返る。
「ここは観光名所で、勇者の剣とやらがある場所だ」
「へー、そうなんだ!」
食いつくアム少年にカリアが提案する。
「岩に刺さって抜けないとのことだが、いくらか払えば記念に触れさせてくれるらしい。触ってみたいか?」
「いいね! 寄ってこうよ!」
この外遊を提案したのはカリアだが、曰く、アムが社会貢献活動をすれば光魔法を持つ者の地位が向上するという理屈を言われた。
アム少年としては随分と気の長い話だと思ったが、AIとは時間の感覚が違うのかもしれないと考え、あえて外に出られる提案を否定することもないと考えて黙っていた。
その街の中心近くには広場があり、そのさらに中心の公園のような場所が柵で仕切られていて、入口とその横におそらく受付のような用途の建物が立っていた。
その建物に近づくと、中の女性がニコニコとほほ笑んで声をかけて来る。
「今日はお姉さん達と一緒に来たの? いいわね」
彼女から見れば、小さな子が姉達に手を引かれて遊びに来たように見えるのだろう。アム少年はすこし気恥ずかしくなり、曖昧に答えた。
「あ、はい」
四人分の費用をカリアが背伸びしてその受付の料金トレーに載せると、女性は四枚の紙の切れ端を渡してきた。
「どうぞ、楽しんでいってね」
にこやかに手を振って見送ってくれる。
中は手入れの行き届いた中庭のようになっていて少し日陰もあり、そこでくつろいでいる人たちもいる。
さらにその奥の中心に行くと円形に敷かれた石畳があり、中央に大きな岩と、その岩に刺さった立派な剣が見て取れた。
岩の後ろに職員と見える中年の男性が、機嫌が良さそうな様子で立っていた。
「おっ、坊主! 勇者になりに来たか?」
アムは少し気恥ずかしくなっていた。
「あ、はい。せっかく来たんで」
その中年の男性はニコニコとしてココとアンを見ていた。人当たりの良い人物だとアムは思っていたが、もしかしたら単にコスプレをした美少女二人を見て機嫌が良くなっただけなのかもしれない可能性に気が付いた。
岩の後ろは幅全体が丁寧に階段状に削られていて、簡単に登れるようになっている。立つ場所までが平らに整えられ、いかにもわざと剣を刺してあるように見える。
あまりにも整えられた場に少し期待がしぼんでしまったアム少年だたが、気を取り直して剣に手をかけてみた。
「気張れー、坊主ー!」
声を掛けられ思い切り力を入れたアムは、スラリと抜けた勢いで後ろに倒れそうになるのをココとアンに支えられた。
「おわっ、て、あれ?」
あまりにも簡単に抜けたので一瞬戸惑ったが、剣が抜ける所までが観光アトラクションなのかもしれない。でなければ、まるで紙ででも出来たように軽い訳がなかったからだ。
「へー、これって記念に持って帰って良いんですか?」
「え? あ、はい・・・・・・」
さっきまで意気揚々としていたその中年の男性は、何故か急に大人しくなってアムを見ていた。顔色が悪く見えるのは気のせいだろうか。
階段を降りて出口へ向かう間、やけに周囲がこちらへ視線を送って来るのが気になったが、出口まで行ってその理由が判明した。
「あの、あー、ちょっとお待ちいただけますでしょうか?」
来る時はニコニコしていた女性が、この世の終わりのような顔で迎えてきた。
「すまぬが、この後の予定があるのでな」
旗を持ったままのカリアが無下に女性の依頼を断る。
「あの、もうちょっとしたら責任者が来ますので!」
「責任者がいない状況で抜いた剣を持って行ってはいけないという決まりはないはずだが」
女性が申し訳なさそうに言う。
「おっしゃる通りなのですが・・・・・・」
「もう来るというなら、まだその辺にいるであろうから、そちらから出向いてくれ」
にべもないカリアに女性は判断に迷い、その場を後にした。
「あの、すぐ戻りますので、出来れば、待っていてください!」
アム少年はまさかと思った疑念を口にした。
「この剣が本物、ってことは無いよね?」
いつの間にか串焼きの屋台から買ってきた串をアンが配りだした。
片手に観光の旗、片手に串焼きを持たされたカリアがこともなげに言う。
「勇者の剣はそれ一振り限りのはずだ。レプリカはあるが、欲しいならあそこの店に行けば手に入るぞ」
アムは自分が持った剣を見て、カリアが旗で指し示した建物を見ると、店先に様々な刃物や金物が置いてある店であった。
剣をもう一度振ってみる。やはり紙のように軽い。
「・・・・・・何で抜けたのかな?」
カリアがこともなげに言う。
「ここは辺境だが、帝室の人間が十五になると一人で来て剣を抜きに来るという試練があるそうだ。いまだ一人も成功したことがないらしいがな」
アムには一つだけ思い当たる節があった。
「もしかして、光の魔法と関係ある?」
「ある。そしてここにはもう用が無い。次の目的地へ向かおう」
アムは串肉と旗を構えるように持ったカリアについていきながら、アムはふと気が付いた。カリアが言っていた社会貢献活動というのは勇者になる、ということなのではなかろうかと。
カリアは決して悠長な手を打っていたわけではなく、おそらく一番の近道をとるべくして、今日ここに彼を連れて来たのであろう。
アムはその片手に持った剣を捨てたら怒られるかどうかという考えがをぐるぐると頭の中で巡らせていた。
それは馬車に乗り、街を出て道をしばらく進んだ後であった。遠くから声がする。
知り合いがいる訳でもない土地なので気にしていなかったアムだが、その声はこちらへ段々と近づいて来るようであった。
「そこの馬車、まてーい!!」
若い女性の声だ。
アムがその声がこちらに向けられているのではないかと気が付く頃には、その声の主は馬車の前に回り込んで行く手を阻んできた。
「待てと言っている!」
鎧を身に着けた白馬に、これもまた鎧を身に着けた金髪碧眼の美少女であった。鎧は鏡のように磨き上げられ、丁寧に編み込まれた金色の髪が傾いた日の輝きを返して神々しくすらあった。
アム少年は進路を塞がれたため、馬車を停めるしかなかった。
「この汚らしい盗人め! 我が帝室に代々伝わる勇者の剣を良くも盗んでくれたな!」
その言葉が終わるか終わらないかのタイミングでカリアが立ち上がり、普段からは想像が出来ないスピードで宙を舞った。
「ぎゃん!」
先ほどまでの戦乙女の胸当てにカリアの旗が吸い込まれ、彼女は変な声とともにうつ伏せに落馬していた。
カリアが軽やかにその馬の鞍に着地する。右手に旗、左手に串焼き、その佇まいはまるで二刀流の剣豪のような風格さえあった。
おや・・・、やっと異世界ものらしくなってきた?




