タスケテ、AIx2で悪巧みをしています
「こっちだよ~ん。おいで、おいで~」
アクロテリオンが短すぎるスカートを翻しながら先導する。アム少年は気が付いた。横に立てば良いのだと。
横に並ぶと、アクロテリオンがニッコリと彼に向って笑みをみせて手を繋いできた。逆側の手を、駆け寄ったココが繋いで来る。
地下の通路を進み、別の枝道へ入る。ゆるやかな風が流れているその通路は、質感の荒い床が黒に近いグレーをしており、ここへ来た時の列車とは違う、小さな車両が停まっていた。
「乗るっしょ! はやくはやく!」
その車両はボックス席に車輪とドアが取り付けられたような、座席が向かい合う形をしていて、周囲を囲う窓はあったが天井は抜かれている。
アクロテリオンがアム少年の向かいに座り、彼の横にココ、斜向かいにカリアが座った。
車両が動き出すと車内に気持ちのいい風が流れ、前を向いていたアム少年にとって、風になびく髪を軽く抑えるアクロテリオンの様子が目に入った。
少し派手なメイクと、ツインテールの先端がそれぞれピンクとグリーンに染められた奇抜さに慣れると、彼女はカリアやココと並ぶほどの整った顔立ちをしているのが分かる。
車両が地下を出て、視界が広がる。まだ午後に入る前の都市内は、夜のライトアップのような照明で彩られ、幾つもの観覧車やジェットコースター、メリーゴーランドなどの乗り物が街中の建築物に組み込まれていた。
目が合うとアクロテリオンはニコリと笑って、風の音に負けないように言った。
「ずーっとキラキラな街、アクロテリオンにうぇるかむ~! いっぱい楽しんでってね!」
まるで都市自体がテーマパークのようで、その様々な照明が輝く様子は、夜の闇の美しさを称えるためのカーニバルのように見えた。
いつも照明が点いているのだろうか、アクロテリオンは一人でここにずっといるのだろうか。
彼がそう思いながら彼女をじっと見つめていることを自覚した時、目の前の笑みがニヤリとしたものに変わり、彼女は足首を膝に置く形で脚を組んだ。
通り過ぎる色とりどりの照明に照らされながら、ひらひらと彼女のシャツの胸元とスカートの裾が舞っている。アム少年は目の置き場に困って言った。
「あの、色々見えちゃってるんだけど・・・・・・」
その笑顔が悪戯を楽しむそれに変わっていた。アクロテリオンは胸元を強調するように腕を寄せて、前に乗り出すようにしてニヤニヤとアム少年に言った。
「つーか、見てほしくてやってるに決まってるし。キミもこーゆーの、嫌いじゃないでしょ? じーって見てくれてもいーんだよ?」
カリアが真似をしようとするココを制して言う。
「そのくらいにしておいてくれ。我が君はまだ幼い。それよりそろそろ昼食時だが、どこか食事を取れるところに案内をたのむ」
アクロテリオンは横目でカリアを見ると、その目をつまらなそうに細めた。
「てか、そんなの言われなくてもわかってるっつーの」
打って変わって笑顔でアムへ身を乗り出して言う。
「ボク君が絶対テンアゲになる、ちょーヤバいスポット、用意してあっから! 期待してていーよ!」
「あ、は、はい・・・・・・」
近づいたその胸元にしどろもどろになるアムを見て、彼女が抱きついて来る。
「はー、やば! かわちすぎ! もうボク君、ウチの子になるしかなくない!?」
***
「ん、口開けて? あーん」
アクロテリオンが、周囲をキョロキョロしながらハンバーガーをほおばるアム少年に、餅つきの合いの手のようにポテトフライを食べさせていく。
そこはボックス席の車両がそのまま乗り込む食事処であった。
注文が運び込まれると車両が発車し、スロープを上がっていく。ローラーコースターのそれに似た幅広のレールに乗って、ゆっくりと風景を見ながら食事が取れる施設だった。
「あーん」
何故かそういってココが口をあける。一度疑問に眉を上げたあと、アクロテリオンがその口にポテトフライを入れる。
ココが横目でアム少年を見て真似をするようにハンバーガーにかぶりつく様子に、彼女は目を細めて微笑んだ。
「アクロテリオン。そろそろ良いだろう」
彼女は一瞬固まってカリアへ向き直った。
「は? 意味わかんないんだけど」
カリアはいつものにべもない調子で続ける。
「交渉がしたいとのことだが、そういう場合は隠し事は無しだ。出てこい、アクロテリオン」
当のツインテールのギャルは一瞬だけ目を泳がせて言う。
「は? 何言ってんの、カリアティード。あーし、さっきからずっとここにいるっつーの」
カリアは急かすようにテーブルを拳でノックするようにして続けた。
「私は本物のアクロテリオンに言ってるんだぞ」
アム少年がカリアの言動に咀嚼をやめて、カリアとアクロテリオンを交互に見た。
目の前のアクロテリオンは、明らかな戸惑いをその顔に浮かべたあと、その瞳にわずかながら怯えを見せていた。
その一瞬の沈黙が耐え難くなろうとした時、食事が置かれたテーブルに映像が映し出される。そこには目の前にいるアクロテリオンとうり二つの人物が、感情の無い目で話しかけてきた。
「相変わらず人のやり方に横やりしか入れて来ないな、カリアティード」
「何を言っている。そちらがしたいと打診してきた交渉を聞いてやると言っているんだ」
「よかろう。話は簡単だ。ホモサピエンス・サピエンスと、そのアクロテリオンを同行させたい」
カリアが隣のアクロテリオンだと思われていた人物を見る。
「それが協力の条件という訳か」
「そうだ」
「分かっているのか? そもそも他のホモサピエンス・サピエンスが見つかれば、一人目はアクロテリオン在住にして良いと言っているのだぞ?」
「ブチ殺すぞ、カリアティード。それは見つかればの話だろう」
カリアは組んだ腕の上に出ている人差し指でリズムを取るようにしながら答えた。
「まあ、良かろう。キサマが揺り籠法の範囲において、最大限リソースを割く約束を守るなら、ホモサピエンス・サピエンスの個体数増につながる手段に異をとなえる気はない」
「では、万事合意ということだな」
カリアが釘を刺すように少し強い口調で言う。
「そこが、私がお前を今一つ信用していない所以だ。我が君に同意を得ないで決めることはできない。お前の主はお前ではないぞ、アクロテリオン。ホモサピエンス・サピエンスだ」
「私はお前のそういう所が好かん」
そう言うと、映像のアクロテリオンは横を向いて唾を吐いた。
アム少年が、映像のふてぶてしい表情の相手と、目の前に座った寄る辺の無い少女のような表情になった二人のアクロテリオンを見て言う。
「え!? どういうこと!?」
カリアがこともなげに答える。
「この者はガラテア、ココと同じ人造人間だ」
「えっ、でも、カリアと目で話してたじゃん!」
「大方光通信の出来るコンタクトレンズでも開発したのだろう。アクロテリオンは昔からそういう小細工ばかりしている」
「しまいにはブチ殺すぞ」
それにしても口が悪い。アム少年が訊いた。
「一緒に来るってこと? どういう意味があるの?」
映像のアクロテリオンが胸を張って答える。
「分かっているだろう、我が君よ。白いのをピュッと我が都市のガラテアに注ぎ込めということだよ」
「え?・・・・・・なっ! 本人の気持ちとかもあるでしょう!?」
そう言って目の前のアクロテリオンを見ると、彼女は耳まで真っ赤にしながら両手でハートを胸の前で作って見せた。
「だーりんのこと、ちゅきすぎるんだけど。もう、だいすこなんだが」
後半の言葉は消え入りそうだった。カリアがそれに付け加える。
「ガラテアはホモサピエンス・サピエンスに依存するように作られていると言っただろう」
「そうだ、四の五の言わずにラブ注入してやれ」
急にスクラムを組んだようにアムを攻める二人のAIの様子に、おそらく両社とも最初から着地点を分かっていながら彼を抜けられぬ罠に誘い込んだように思えてならなかった。
はい、8時にアップするのに今7時40分過ぎです!おそすぎ!いつか落とすねっ!♡




