タスケテ、ギャルがやたら匂いを嗅いできます
「我が君、あの女には気をつけろ。表情豊かに色々言ってくるだろうが、全ては意図があってのことだ」
アム少年はカリアとココと共に、車中の人であった。夜の間に最寄りの都市との通信が繋がり、結果として一度彼がその都市を訪問することになったのだ。
車両のモニターにニコニコと笑みを浮かべるギャルが映っていた。髪はツインテールに結いあげられ、その結び目にはじゃらじゃらと小さなぬいぐるみやら髪飾りが付けられている。
彼女はカリアのような、先方の都市AIの対人インターフェースだった。
「そうなの? 良く分からないや」
カリアが珍しくアムの手にその手を乗せる。それを見てココが空いている方の手を取った。
「都市AIはホモサピエンス・サピエンスの安全を図るためにいる。だが、AIによってはその手法を選ばない者もいる」
アムはカリアに問い返した。
「カリアは違うの?」
「AIはホモサピエンス・サピエンスが親しみを感じ取れるように表情を作ることが出来る。だが、それは諸刃の剣でもある。私は我が君が、私の表情にかかわらず、私の本来の意図を何度か見抜いたことを確認している」
「え、あのプロービングとかのこと?」
カリアがショートボブを揺らして頷く。
「そこで出た結論は、いたずらに表情を混ぜてコミュニケーションを取った場合、私が何か我が君の価値観とは致命的に合わないことを選択してしまった時、悪意があると捉えられてしまう危険があると判断した」
「え、そうかな?」
「簡単に言うと、顔は笑顔で、悪いことをする存在だと思われてしまうことを最も避けるべきだと考えているということだ。私はAIで、我が君は人間。決定的な価値観の乖離が現れた時に、私がいつも我が君に一番良いと思って行動しているということを、より理解してもらえると考えての選択だ」
「・・・・・・それでか。なんか最近真顔で当たりが強いって思ってたんだけど」
「ゆめゆめ忘れないでもらいたい。都市は箱だ。それのみでは何の価値もない。主が存在しない限り、我々は悲しい空の箱なのだ」
アム少年はカリアの意外な告白を消化しようと口をつぐむと、視界の端でモニターに映ったギャルが口をパクパクさせながら笑顔で手を振っていた。
「・・・・・・ホ~! ヤッホ~! 聞こえますか? 音声切ってるな、ブチ殺すぞカリアティード」
終始笑顔であった。
アム少年が応える。
「あの、き、聞こえてますよ?」
「あっ、あっ、 お、おつー! こちらアクロテリオンだよん。みんなが大陸でいちばんイケてる都市に来るの、楽しみにしてるから、早くおいで? 待ってるぴょん」
そう言いながら彼女の虹彩の中心がオレンジ色に点滅し始める。見るとカリアのそれも赤く明滅していた。笑顔だが、相手はどうも少し怒っているようにも見えるのは気のせいだろうか。
カリアがしれっとして口を開く。
「では、アクロテリオン。ホモサピエンス・サピエンスの眼前で当人の事を認識できない手段で話題に出すのは違法だということはわかっているか?」
相手の虹彩にあった光点の明滅が止まる。
「あ、あーしアクロテリオン! 超イケてるAI都市なんだょ、きゃぱいすぎるんですけどぉ!」
彼女はモニターの中で両手の人差し指で自分の頬を指さすポーズを決めていた。ちょっと芸風がココと被っていた。車両が減速していき、進行方向からホームの明かりが見えて来た。
滑らかに車両が停まり、ドアが音もなく静かに開く。降りたホームにはモニターに映っていたギャルが、少しぴょんぴょん跳ねながら待っていた。
「え、まって、かわいすぎん!? 本物のホモサピちゃんだぁ。ちょ、ぎゅーってしていい? くんくんもさせてほしーな!」
アム少年はモニター越しではわからなかった肌の露出の多さに少しひいてはいたが、先ほどのカリアの話にAIにとっての人間の重みを思い出して、恐る恐る了承してみた。
「まあ、それくらいだったら」
彼女は跳ねるように寄るとギュッとアム少年を抱きしめて、何度も鼻から息を深く吸い込む。
「はぁ~、幸すぎる・・・・・・。五臓六腑のすみずみまで、きゅんがしみしみだょぉ」
彼女のシャツは胸元までボタンがかけられておらず、とりあえず付けている、という感じのリボンタイが首から下げられていた。シャツの胸元からは、身に着けた下着も見て取れる。
「そうか! 匂いで健康状態を計るという手があったか!」
カリアがピントのズレた感想とともに、アムの後ろから頭の匂いを嗅ぎ始めるとココがその二人を見て真似をしだす。
「なにコレ・・・・・・」
三人に囲まれた状態のアムが状況にカオスを感じて思わず言葉をもらす。
「はぁ〜ん、ちっちゃくてかわちいし、ぷにぷにとか尊すぎん? 優勝すぎるんだが!」
段々大胆になるアクロテリオンに向けてアムが言う。
「あのっ、当たってるんですが、色々!」
「てか、当たり前だし? 最初から分かってたし?」
いよいよ彼の頭を抱え込んで胸にうずめさせてくる。
「ねぇ…このままがいいな。良かったら、ずっと一緒にいよ? もう離れたくないんだけどぉ」
「あのっ、都市の、観光をしに来たんですけど!」
そのギャルAI、アクロテリオンはニヤニヤとしながらアムの頭に鼻をうずめて大きく息を吸ってから言った。
「はぁ~、幸すぎたぁ。じゃ、行こっか! 宇宙イチぎゃんかわでハッピーな都市、アクロテリオンをごあんなーい! きゅんです!」
先立ってぴょんぴょんと跳ねるように歩く彼女の背から目をそらし、アム少年が声をかける。
「あの、スカート短すぎて、ちょっとパンツが見えてるんですけど・・・・・・」
「もぉ・・・・・・わざと見せてるんだから・・・・・・。じーって見ててもいーんだよ? キミが良きなら、あーしはぜんぶOKだもんっ」
アム少年はその言葉と笑顔に車内でカリアが言った言葉を思い出し、ムズムズすると同時に、何か底知れぬ奈落をのぞき込んでいるような気がしてならなかった。
アクロテリオンさんは、仕事出来る系のお姉さんにしようと思ってたのですが、何故かギャルになりました。




