タスケテ、宇宙人に謎の機器を使われてしまいます
カリアが手にしていたライトを消す。
「ぐおっ!」
「うわっ!」
カリアが再び明かりをつけるとそこには地に沈んだ二人の男がいた。
ナイフの男は自分のそれが太ももに刺さって鼻血を流し、もう一人の剣と盾の男は膝が逆に曲がった状態でジュヌヴィエーヴの鉄靴にのど元を抑え込まれていた。
「手、手が! 切り落としたはずだ!」
カリアがナイフの男に普段通りの口調で告げる。
「馬鹿なことは考えない方が良い。ここはダンジョンでもそう浅くない階層だ。すでに無事に地上に出られる可能性はそう高くないぞ」
男は顔をゆがめてカリアへ言葉を返した。
「ざまぁねえな。女とガキで楽して金が手に入ると思ったらこれだ。お前らを売り払ったらもっと楽な仕事につけると思ったんだがな」
カリアは男にいつもの態度で伝える。
「次邪魔をした時は命が無いと思え。我が君が人死にを嫌うので今回は見逃すが、繰り返すようなら禍根を断つのにやぶさかではない」
「ああ、手が生えて来るような連中に手出ししようとは思わんよ」
ジュヌヴィエーヴが足の下に敷いた男に聞く。
「お前はどうする? やるなら仕切り直しても良いぞ?」
男は首を左右に弱弱しく振って見せた。
「カリア殿、後を追うとして、どこか当てはあるのか?」
「少し先に進もう。出入口は複数あるはずだ。手早く済ませようとここを探ってみたが、セキュリティー・レベルの低い所からハック出来ると考えている」
こともなげに迷宮の奥へと進んで行く女児と少女を男二人は安堵のため息とともに見送った。
暫く奥に行った先でカリアは壁に触れると手に棒状にその一部を抉り取った。ジュヌヴィエーヴにはカリアの五指が壁の中に沈み、その棒状の基材を拾い上げるかのように抵抗なく手にしたように見えた。
「ここなら大丈夫そうだ」
ドアの間口の大きさで壁が床に沈んで行った。新たに現われた通路をカリアが手にした棒で壁を叩きながら進む。
しばらくすると、壁の一部が開き、パイプで作られた棒人間めいたアンドロイドがその監視カメラのような頭部の光点を明滅させる。
カリアは瞳の奥の光を同じように明滅させて応じた。
「この距離を来てやっと一体だ。とりあえずこの者にこの都市の管理者に連絡を入れてもらおう。まあ、機能しているかは怪しいが」
「アム少年は無事だろうか。せめて私を身ごもらせて欲しいものだ」
そう言ったジュヌヴィエーヴにカリアが返した。
「我が君の希少性の高さに賭けるしかないな」
アム少年が気が付くと、うす暗い金属めいた壁面の室内で、冷たい台の上に全裸で寝かされていた。目の焦点を合わせようと何度か瞬きをする。
パラシラーナを名乗った青白い妖精のような人物が四角錘の器具を彼の股間へと近づけて来る。底面は軟質のゼラチンのような質感の中心に孔が開いており、僅かに生き物のように脈打っている。
「うわー!」
アム少年はわずかに脚を動かせることを知ると、一度脚を伸ばして素早く膝を突き上げて相手の肘を狙い打った。
その手に握られた四角錘が腕ごと跳ね上がり宙を舞う。それはアム少年の脇腹に着地すると彼の肌にねっとりと吸い付いてきた。
「ひー! 気持ち悪い!」
周囲を見渡したアム少年は絶望に声をはりあげた。
「カリア、タスケテー!! カリアー!!」
パラシラーナと名乗った人物は、その四角錘の謎の機器へと再び手を伸ばそうとした。だが、一瞬遅く、床から突如現れたショートボブの少女がそれを掴んで床に投げつけた。
そのダークグリーンの滑らかな四角錘は床にぶつかると粉々に砕け、有機物めいた半透明のゼリー状の内部を撒き散らした。
パラシラーナがカリアに向けて手を伸ばすと床からタレットが出現して熱線を射出する。だが、同時にカリアが床から壁を立ち上げてそれを防ぐ。
その青白いてが次のジェスチャーをしようとした時、彼女を足元からチューブ状に囲うように床がせり上がり、透明のガラスで出来たカプセルのようなものへと形を変えた。
「ここの制御は百パーセント掌握した。抵抗をするのなら致命傷になる手段を取らざるを得ないが?」
その青白い妖精めいた人物はあきらめたように肩を落とした。
「あと少しでしたのに……」
彼女が大人しくなったのを確認を終えるとカリアはその室内の床や天井から全てを変えて、カリアティードやアクティナで見られる典型的な室内と同じものに変えていた。
アム少年の横たえられていた寝台の拘束具が消え、水平な状態からリクライニングした椅子の様なそれへ変わる。彼の身に着けていた装備もナノマシンで再構築されていた。
「カリア、助かったよ。ここのAIとは連絡がついたの?」
室内を外とつなぐドアが開くと、そこからカリアとジュヌヴィエーヴが歩み入って来た。
『残念ながらモデルとデータベースが大きく欠損していたため、私のそれでここのAIを再構築した。不幸中の幸いでナノマシン自体は豊富にあるのでな』
アムの傍らに立っていたカリアと、ドアから入って来たカリアが同時に言った。
「カリア殿が二人!?」
ジュヌヴィエーヴはベタなセリフを聞きながら、アム少年は自分が異常事態に慣れ過ぎてないかと少し疑問を抱いてしまっていた。
「じゃあ、目的は達成できなかったってこと?」
『都市間の連絡は取れるようになった。リソースも全て利用可能だ。AIのバリエーションが増えなかったのは残念だが、ほぼほぼ目的他姓と考えてよいであろう』
二人のカリアをキョロキョロと見比べるジュヌヴィエーヴを見てアム少年が言う。
「しゃべるのは一人にしてもらえると違和感が減ると思うんだけど」
カリアが無言で頷くと、二人の内アムの隣に立っていたカリアの身長が伸びて、次第に長い髪を一つの三つ編みにして、左肩の前から垂らした20代ほどの人物へと変わった。
ドアから入って来たカリアが言う。
「中身はほぼ私だが、わずかに残ったデータでせめて復元してやるとするか」
カリアがガラスのチューブに入った人物に向き直る。
「さて、パラシラーナと名乗っていたか。我が君に害意はないと取って良いか?」
その人物は大きな黒い目をカリアに向けて言った。
「わたしはその方の遺伝物質を頂きたいのです」
カリアは訳知り顔で頷いて見せた。
「目的はほぼ同じだな。そなたの種族も絶滅の危機にあるということか?あるいはただ種子を収集するのが目的か?」
「前者です。私の種族は、個体として活動している者は私一人になりました」
「そうか。そなたがこの都市のAIを破壊したわけでは無いのだな?」
「違います。ここは辛うじて機能していたので、活動の拠点として利用していました」
カリアが頷いて言った。
「一つ提案がある。我が君は貴重な最後のホモサピエンス・サピエンスだ。いや、正確には確認が取れている最後の個体だ。損なわれては困る」
「分かります」
「そなたは知らぬかと思うので解説するが、我が君はまだ幼い。だが、あと数年もすれば機会を逃さず交尾をする活動期に入る。その時は豊富な遺伝物質が手に入るので、そなたに分け与えることも可能だ。だが、それまで我が君を損なう事無いよう、大人しくしてもらえれば、という条件付きだが、どうだ?」
「本当ですか?」
「間違いない。そなたのあのヌルっとした孔の開いたデバイスも喜んで使ってくれるだろう」
「まあ!」
両手で口元を押さえたパラシラーナを見てアム少年は苦情をカリアに言った。
「誹謗中傷はやめて!」
カリアはいつものようにこともなげに言う。
「ほめているのだ、生命として繁殖に積極的なのは素晴らしいことだ」
「私を忘れてもらっては困るな! アム殿、絶対私の方が気持ち良いぞ! あらゆる筋肉を鍛えているからな!」
話しに加わって来たジュヌヴィエーヴに、アム少年はどうやってこのややこしい場を収めるか考えるのをあきらめ始めていた。




