タスケテ、アブダクションされてしまいました
前回の話は重くなってしまったので、内容を修正しました。元々軽めの話にしたかったので軌道修正ということで。
「本当に大丈夫なの?」
アム少年が光魔法で周囲を照らしながら言った。
「我が君よ、その点は心配ない。アクロテリオンに留守を頼んだからな。帝国が馬鹿を晒しに来ても適当に追い返してくれるだろう。だがその際にはまたペナルティを課さねばならないな」
「えっと、そっちじゃなくて、このダンジョン? 面白そうだと思って来てみたけど、なんでダンジョンなの?」
口を開きかけたカリアにアピールに必死なジュヌヴィエーヴが被せるように言った。
「私がいるのだ、この白百合の紋章にかけて君は守って見せる。君を危険にさらす訳にはいかないからな!」
相変わらずな彼女に愛想笑いを見せるアムへカリア答える。
「幾つかの都市に連絡を入れて見たが返信が無い。ここはダンジョンと言われているが、実際は都市構造へ通じる地下通路だ。万一網膜認証やDNAがセキュリティー・キーになっている場合を考えて同道してもらっている訳だ」
「都市って全部地下にあるものなの?」
カリアがダンジョン内の壁面に触れながら言う。
「本来は地上設備だ。ホモサピエンス・サピエンスの絶滅以来、基本休眠状態のため地下に格納されているはずだ」
カリアが壁面から手を放して続けた。
「ここはダメだな。奥へ行こう」
カリアが先頭に立ち、ジュヌヴィエーヴが殿で先に進む。しばらく歩くと、二人組の男に出くわした。
「おいおい、女子供だけでここを進むのか、あんたら」
ニヤニヤと笑うその二人にカリアが聞く。
「この先に人工物の通路はあるか?」
剣と盾を持った男が答える。
「あるが、少し先だ。だが、三人ならこの辺りまでが妥当だぞ」
「助言痛み入る」
二人の男は返答したジュヌヴィエーヴにニヤニヤと視線を送りながら片方の男がもう片方に耳打ちをしていた。
出て来るほとんどのモンスターをジュヌヴィエーヴが一刀のもとに切り捨てながら進んで来たアム達はようやく人工的な壁面の露出した通路にたどり着いた。
カリアが片手でその滑らかな壁面に触れた。
「駄目だな、反応が無い。もう少し先に進むとしよう」
幾つか分岐があった所をカリアが躊躇なく進み、行き止まりへとたどり着いた。
「カリア殿、引き返すか?」
ジュヌヴィエーヴが後ろを警戒しながら問うた。
「いや、恐らくここで合っている」
行き止まりの通路の壁にカリアが手のひらを這わせると、丁度カリアの頭上の壁からガラスが前面に使用されて見える長方形のデバイスがせり出て来た。
「網膜認証用だな」
そういってピョンピョン跳ねたカリアだったが、それでは何も起こらないようだった。
「我が君、申し訳ないが、網膜認証をしてもらえないだろうか」
「あ、うん」
答えたアム少年がカリアと入れ替わり、その機器に目を近づける。
アム少年の足元から直系一メートルに満たないチューブが彼を囲うように伸びた。カリアが急いで表面に手を伸ばしたがチューブはそのままで、アム少年が立っていた床が下へ降りていった。
アム少年が床下へ消えると共に、周囲は闇に包まれる。
カリアが手にしたライトを点灯させた時には、盾を背負った男がジュヌヴィエーヴを背後から締め付けるようにして剣を喉元に当てていた。
「つまらない真似はしないことだな」
カリアは男に返して言った。
「こちらはあまり時間に余裕がない。ジュヌヴィエーヴを放してもらおうか」
男は下品な笑いを浮かべて言った。
「こんな所に女子供で来るからいけないんだぜ」
カリアが腰の袋から光る玉を取り出すと、いつの間にかその背後にいたもう一人の男がその手首から先を切り落とした。
「おい、傷物にするなよ!ガキでもこいつなら金になる!」
その陰から現れた男は肩をすくめて言った。
「ガキとはいえど、何をするか分からんからな。死ぬ可能性を失くしたいなら手加減はしないことだ」
***
アム少年はそれがカリアの仕業ではない事をしばらく分からずにいた。確信したのは遅まきながらも別のフロアにたどり着き、目の前に見たことのない人物を目にしてからであった。
「あの、あなたは誰ですか?」
そこには青白く光る人型の生命体がいた。
「私はパラシラーナ」
身長はカリアより小さいくらいで女性と分かる細く華奢な体格に蝶のような羽に見える光が背の後ろに差し、床面から30センチほど浮いているという存在であった。
「貴方にお願いがあってここにお呼びしました」
黒く大きなアーモンド形の目の瞳には白目が無く、瞬きでまつ毛があるのが見える。鼻筋は細く、唇は薄い。
彼女は手に持った道具をアムに見せた。ピラミッドを上方向に引き延ばしたような、四角錐型のもので、表面は磨かれた深い緑色で、僅かに内部が透けて見えていた。
「こちらで貴方の繁殖用の体液を回収させていただきたいのです」
アム少年は反射的に答えていた。
「えっ! いやですよ!」
彼女の顔が困った表情を浮かべるのを見て取れた。
「私が醜く恐ろしく感じるのは分かります。ですので、この回収機を使わせて頂ければ。使い心地は素晴らしく気持ちいいはずです」
「えっ、いえ、あなたはキレイだなと思いましたけど」
彼女は驚いたように羽を瞬かせた。
「まあ、では直接採集をさせて下さると?」
アム少年は自分の失言に気が付いて言った。
「いや、それとこれとは別だから!」
普通の少女に見えるココやアンでも全く違う価値観なのだ、この目の前の人らしからぬ妖精のような人物に彼の言いたいことが明確に通じる前提で話すのは軽率でしかなかった。
「ご心配されることはございません。人間のオスの繁殖用の体液は絶えず生産されていて、日にちが経てば体に吸収されてしまうくらい豊富な資源です。私の必要な分量であればご健康に影響はございません」
「いや、そういう問題でもなくて!」
後ずさったアム少年を見て彼女は前に進むのを止めた。その目が細められ、アムはそれに危険を感じた。
「では、仕方がありません。私も心苦しいのですが、この件で引くわけには参りません」
彼女がもう片方の手をアムに向けて差し出すと、青い光が視界を満たす。その眩しさに目を細めようとする前に、アムは自分の意識が暗闇の中に落ちていくのを感じていた。




