タスケテ、帝国と戦争になります
「国などないではないか!」
悲嘆の声を上げたのはジュヌヴィエーヴだった。彼女はカリアの言葉に乗せられて捌くまで戻ったアム達についてきたのだった。
「あるとも。国民はこれからだがな」
カリアがそうが早いか静かな地鳴りのような低い唸りが響き始める。砂漠の平地に幾つもの砂丘が盛り上がり、その中から高層建築が顔を覗かせ始める。
「カリアティードの手前にこの移民受け入れ用の都市を配置して、ここで実際の市民権を与える相手をふるいにかける」
地面から現れ続ける高層建築と道路などのインフラの様子にジュヌヴィエーヴはひどく驚いてはいたが、かといって彼女の中の疑念が払拭されたわけではないようだ。
「しかし、砂漠まで人が来る理由はあるだろうか。ここまで来るのはかなりの労力だ」
「基本市民権のある者は課税なしだ。光魔法の素養があるものは、衣食住も保証される。もちろん、この条件はこちらで検査をしてそれをパスした者にのみ適用されるが」
アムはそれが何であるかを具体的な指摘は出来ないものの、二人のやり取りの内容に何か静な侵略が行われているような気がして問いを挟んだ。
「人を集めるあてはあるの?」
カリアが答える。
「何はともあれ、思い当たる方法は全て試す。ジュヌヴィエーヴ嬢の知る光魔法の素養のある者に声をかけていくのもそうだが、アクロテリオンの協力で各地に我々の対人インターフェースのアンドロイドを派遣して誘致する考えだ」
アム少年はカリアが述べたその冗長な計画を文面通り受け取ることが出来ず、知らずに何か座ってはいけない物の上に座っているような不安を覚えていた。
「何か企んでないよね?」
「我が君は何か勘違いをしているようだ。私はその時々でベストと考えられる選択肢を選んでいるだけで、何かことを起そうとしている訳ではない。光魔法の地位は低い。他の魔法の素養を持つ者に比べて良い職に就ける場合が少ない。より良い生活を保証できれば、自ずと移住をして来るはずだ」
アム少年はカリアの表情を読もうとしたが、さすがにAIのポーカーフェイスから何かを読み取ることはできなかった。
朝食の席でジュヌヴィエーヴがもじもじとしてアムに聞いて来た。
「アム少年、どうだろうか。私としては結構際どい恰好をしていると思うのだが、ここを、こう見せると良いと聞いたのだが!?」
アムはドレスの裾を思いっきり捲ってみせるその様子にむせて咳き込んだ。誰がそそのかしたのかと思い三人の顔を見たが、誰の入れ知恵か解明することは出来なかった。
アムがジュヌヴィエーヴに言い聞かせていると、AI支援ロボット通称お助け君が手に書簡を持って現われた。
羊皮紙にようるスクロールだ。アム少年はその紫色の蠟の封印と金の装飾がついた縁を見て、ただならぬ文章で、恐らく帝国からの者ではないかと予想した。
「カリア、それ何の手紙?」
お助け君からそれを受け取ったカリアはぞんざいにその封をはがすと書面を斜め読みした。
「保護条約の提案だな」
「保護条約?」
カリアがアムの質問にしれっと答える。
「要は属国になれということだな。軍事的に保護してやるから、富は全て帝国が好きする、という条件だ」
カリアが虚空に手を差し出すと、空中から羊皮紙が徐々に実体化し、リボンと蝋風でそれが閉じられる。お助け君がその単純なC字型のマニピュレーターでそれを受け取ると、踵を返して部屋を出ていく。
「なんて返事したの?」
「馬鹿め、だ」
「えっ?」
「馬鹿め、と返しておいた」
アム少年は先日の嫌な予感が的中したのを全く喜ぶことができなかった。
「それ、戦争になる奴でしょう!」
ジュヌヴィエーヴが少しソワソワとして嬉しそうに言う。
「なるほど、戦って帝室の権力を手に入れるというやり方もあったな! 腕がなるな!」
「何言ってるの! ここの国王って僕でしょう!? 僕の名前で帝国と戦争になるんでしょう!?」
カリアが一ミリも表情を動かさずに嘯く。
「何我が君よ、安心するといい。カリアティードとアクロテリオンの二大都市の機械化兵団にホモサピエンス・シムラクラムの軍隊が叶うはずもない。戦争にすらならん。一方的な蹂躙だ」
アム少年が困り果てた表情で言う。
「どうしてだろう、カリアの言う通りなんだろうけど、全然安心できない。人的被害を出さないようにできる?」
「フム。ゼロは無理だが、航空兵団を送り込んで皇帝とその側近をピンポイントで鬼籍に入れるという手もあるな」
被害者の人数は減っても身も蓋も無さはそのままだった。
「それって戦争っていうか暗殺でしょう!」
ジュヌヴィエーヴが話に付け加える。
「皇帝陛下とその側近だけでは宮廷内の対抗勢力が中枢を掌握するだけではないかな」
カリアが冷静さでジュヌヴィエーヴの冷静さに返した。
「とりあえず何回か繰り返せば良いだろう。それで話が進まないようなら次の手を考えよう」
「そうだな!」
元気の良いジュヌヴィエーヴの声にアムが一縷の望みを託して言う。
「ジュヌヴィエーヴは帝国の人でしょう? カリアを説得しないの?」
ジュヌヴィエーヴがこともなげに言う。
「今の帝室は好かん。祖父をだまし討ちにした連中だからな。私に力があれば自分でやりたいくらいだ」
アムは意図せずに頭に浮かんだ『戦争脳』という言葉が、否定したくても出来ない事実であることに困惑することしか出来ずにいた。
書いてる間、よろしい、ならば戦争だ、のモンティナ・マックス少佐の演説を思い出しましたw




