階層1000・草原に佇む悪魔
塔の中には雲一つない美しい空、美しい草原が広がっていた。
風が吹き、草が舞い上がっている。
外の景色とはまるで正反対だ。
「ピヨッシー!!ーーー!!」
動物かな?聞いたことのない鳴き声だ。
「ピヨッ!ピヨピヨ!ピヨッシー!!」
後ろ?
俺は後ろを振り向いた。
「え…」
俺は初めて気づいた。
入ってきた扉がない。
どこを見ても草原が広がっている。
「ピヨッピー!!」
足元を見ると、一匹の小さな鳥のような生き物が翼を羽ばたかせながら鳴いていた。
その姿はまるで鳳凰のごとく、美しい翼を存分に見せつけてくる。
「君、どこから来たんだい?」
俺の手は無自覚に可愛い頭を指で撫でていた。
「ピヨピヨピヨッシー!!」
お?小鳥は俺の肩に飛び乗ってきた。
なんだ?俺になついてんのか?なんもしてないんだけどな。
まあいいや。
「今日からお前の名前はコスワキミだ!よろしくな!コスワキミ!!」
一人で旅することになると思っていたけど頼もしい仲間ができてよかった。
でも、なんでこいつは俺になついてんだ?
「ピヨッシー!!」
コスワキミが草原に佇む一本の大木を翼で指した。
あそこに行きたいのかな?
よし!じゃ行くか!!
俺はコスワキミを肩に乗せたまま走った。
てか、コスワキミって呼びにくいな…
いや、なんで俺はこんな名前を付けたんだ?
「やっぱお前の名前はピヨッシーだ!」
こんなこと言っているうちに、俺らは大木の陰に包まれた。
「着いたぞピヨッシー。」
ん?なんだ、ピヨッシーがブルブル震えている。
どんどん顔が青白く変化していく。
「ピヨッ!!!」
あ、逃げた。ピヨッシーが逃げたぞ!!
「待てピヨッシー!」
俺が追いかけようとした瞬間、ピヨッシーが逃げた理由が分かった。
大木は悪魔の形相を示し、枝は鋭い槍となり、葉は空に舞う幻想的な刃となった。
地面が揺れる。大木が動いている!!
俺は咄嗟に剣を握り、飛んでくる葉を切り刻んだ。
コイツは木だ。木は大体、炎で焼けばイチコロだ。
「炎の剣」
へ、炎は俺の一番得意な属性だぜ。
剣に炎が纏わりつき、渦を巻いている。
渦を巻いた炎は、周りに舞っている葉をすべて燃やし尽くした。
「これでお前を消し炭にしてやるよ!」
炎を纏った剣は、飛んでくる葉は塵となり、槍となった枝を炎を散らしながら切り刻んだ。
無数に飛んでくる葉と枝の攻撃はゲンゾーには効かずに、その数を減らしていった。
「相手が俺で悪かったな。哀れな大木さん。」
そしてついには、葉は燃え尽き、枝は切り落とされ、大木は自分を護る術を無くした。
「ピヨッピ!!」
ピヨッシー!戻ってきたのか!
ピヨッシーは紅く、透き通る翼を大木に向け、剣を振るように翼を横に動かした。
「ニヒッ!任せろ!!」
大木は何もせず、何も発さず、俺に切り倒された。
切れた断面には無様に焦げた跡がくっきりと付いていた。
大木が倒れると、草原の奥から、大量の動物たちがドスドスと歩いてきた。
今思うと、動物はピヨッシー以外居なかったな。
辺りが暗くなり、焚火を作った。
ここ、本当に塔の中なのか?
草原は無限に続くように見える。そして動物も住んでいる。
俺はどこに行けばいいんだ?
そして、暖かい動物に囲まれながら朝を迎えた。
夢じゃないないな。
「あ…」
大木の切株の前に、塔を入る前に見た、美しいエルフが立っていた。
「アラナ サカイ ダラク」
また呪文を唱えている。
俺は剣とカバンを持ち、立ち上がった。
「ピヨッシー!!」
ピヨッシーが高く飛び、俺の肩に乗ってきた。
俺はニコッと微笑んでエルフのもとに走った。
「ネコロ」
切株が地面と共に二つに割れ、辺りには大きな地響きが起きた。
「待て!エルフ!!」
エルフは割れた地面に飛び込み、姿をくらました。
そして、俺とピヨッシーはその後を追って割れた地面に飛び込んだ。