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階層900・長い一日の終わり

「げ、ゲンゾー…なに…してるの…」


「ミリン?どうかしたか?」


「いや…どうかしたかって……」


「ミリン!早くゲンゾーを助けてヨ!」


俺を助ける?何言ってんだよピヨッシー?


「俺は別に何ともないぞ。」


俺が答えると、ミリンは何も言わずに、静かに走り出した。

なんか俺やったか?なんかやった記憶ないけどな…

ミリンを追うように、ピヨッシーとサイエンがその場を後にした。


「行っちゃったね…」


「あぁ。」


「私と一緒に、心理平和協会に行こっ。ここだと、私怖いよ…いつ攻撃されるかわからないから…」


確かに、ヨアケにとってはここは敵の基地の中だもんな。


「行こうか!」


ヨアケの顔は、誕生日ケーキを目の前にした子供のような無邪気な表情を浮かべた。







「ミリン、どうして泣いてるの?」


ミリンは、テーブルに頭を伏せている。


「逃げちゃった…」


「逃げちゃった?」


「うん…話せば…話せれば…」


ん?話したら何かあるのかな?


「うぐッ…ううぅ…話せれば…何か…わかったかもしれない…」


「なにがわかるの?」


僕が聞くと、ミリンは声を出して泣くようになった。

このあと、僕とサイエンでいっぱい慰めた。でも全然泣き止まなくて、結局、その日はずっと泣き続けただけだった。







「ゲンゾー。あの建物が、心理平和協会の本部です。」


「けっこうでかいんだな。こんなに目立つ建物なのに攻められたりしないのか?」


「大丈夫です。この国は平和を謳っています。他の国から戦争を吹っ掛けられても戦わずに負ける国です。」


まじかよ…せっかくすげえもんいっぱいあんだから戦えばいいのによ。


「私、ユウグレは、あなたと共に人生を歩むと誓います。」


「俺はユウグレよりヨアケの方が好きだけどな。いや、ユウグレ、お前は嫌いだ。」


「もう、どうしてですか!」


ユウグレが嫌いな理由はいくつかあるが…


「その眼だ。その眼を見るたび怒りがこみあげてくる。」


「そうですか…悲しいです。私はゲンゾーが好きなのに…嫌でも好きになっちゃうのに…」


嫌でも?……ああ、そういうことか。ユウグレとヨアケは記憶が共有されてんだ。まあ同じ体だから当然か、でも記憶だけで好きになるか?感情も多少共有されてんのかな。


「あなたも私のことを好きになってください。」


「いや~…」


「私の残りの眼も潰してくれていいですから!何も見えなくなってもゲンゾーがいる。それだけで私はいいんです。それだけで、幸せなんです。」


俺の手は、また自然とユウグレの目元に向かっていた。

指先がユウグレの肌に触れた瞬間、俺は手を止めた。何とか踏みとどまった。

いや、俺が踏みとどまったのではなく、ヨアケに人格が変わり、淡く透きとおった瞳に変わったから手が止まったのだろう。


「ヨアケ…今日からよろしくな。」


「うんっ!」







「この世界は塔の中!?」


「だから言ったでしょう。言ったら腰を抜かすって。」


「ちなみに、私はこの上の階層から来たんですよ!」


「僕は上の上の上?わかんなくなっちゃった!」


ミリンはやっと泣き止んだ。泣き止んで何を話すかと思ったら訳の分かんないこと話し始めちゃったよ。

この世界が塔の中の世界?そんなわけないじゃん。この世界には無限に広がる宇宙がある。百歩、いや、千歩譲ってこの世界が塔の中だとしても、この世界は最上階だ。こんなに広い世界が塔の途中にあるわけがない。最上階なら…どこでも同じか。


このあと、ミリンとピヨッシーから、旅の話を聞いた。とてもだが本当のことには思えない。だけど、本当なんだろうな。あの二人の眼を見てると嘘とは思えないほどピカピカ透き通った眼をしているからね。

…今日がミリン達と会って一日目。なんかもう一月ぐらい経った気がするよ。今日だけで色々なこと起きすぎ。今日はぐっすり眠れそうだよ。


おやすみ。

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