階層900・愛と崩壊
「ん、んぅ」
なんなんだろう、変な気分だ。
「はぁ…はぁ…」
頭がフワフワして…心臓が苦しい。
「私、ゲンゾーのこと、ずっと観てたんだよっ。」
あぁ、頭がフワフワする理由がわかった。
頭を打ったんだ…さっき、ヨアケがキスしてきて…倒れたんだ…
ヨアケが俺の上に乗ってるから…心臓が苦しいんだ…
「御母さんの瞳を通して…」
母さんの…瞳。悪魔の…瞳。俺の嫌いな…
「でもねっ、私が直接見たんじゃなくて…記憶で…」
母さんは好きだ。だけど…眼は嫌いだ。あの人の目を見るたび、鳥肌が立つ。悪寒がする。
「でも、今は直接君を見れる。大好きだよっゲンゾー…また、キスしていい?」
俺は静かに頷いた。
「ゲンゾー遅くない?ちょっと様子見てこようよ。」
「その方がいいかもね。相手は敵の大将だし。」
あれ?ピヨッシー…どこ?
「な、何が起こっているんだ!ゲンゾーが敵に襲われているゾ!!」
助けないと!でも…なんで!なんで体が動かないんだ!!
ドアの向こう側にはゲンゾーがいるのに!少し走れば助けられるのに!!
「ふぅ~」
僕の名前はピヨッシー!ゲンゾーのペットであり、仲間だ!!
僕がゲンゾーを助けられないのであれば…他の仲間に任せるまで!!
急いで、ミリンとサイエンを連れてこなくちゃ!!!
「ピヨッシー?どこー!」
「ピヨちゃんどこ~。」
あ、二人の声だ!急げ、早く二人をこの場に連れてくるんだ!!
僕は、ドアに背を向け、二人の元へ翔けた。
「ミリン!サイエン!」
「いた!ピヨッシーどこ行ってたの!」
「それより大変なんだ!ゲンゾーが!!」
「え?まさか、あの女に!」
「混ざっちゃったねっ。私とゲンゾーの唾。夢みたいだよっ。」
これが幸せ、幸福か。頭もだいぶ治ってきた。体もちゃんと動かせる。
「きゃうっ」
俺は両手でヨアケを抱きしめた。
犬を抱いているかのように暖かく、フワフワしている。
「もっと…もっと強く…私を絞めてっ。」
「あぁ。」
俺はさらに力を入れた。これが犬だとしたら、あの細い脚は折れ、内臓は破裂しているだろう。
でも、これでいい。俺が今抱いてるのは犬じゃない。ヨアケだ。ヨアケは俺を受け入れてくれる。そして俺も、ヨアケを受け入れる。
「ゲンゾ…大好き…ずっと…一緒に…居てね…」
直接、俺の体にヨアケの鼓動が響く。ヨアケの荒く、高揚した息が俺に降り注ぐ。
ヨアケには、俺の鼓動は響いているだろうか?俺のこの気持ちは…ヨアケに伝わっているだろうか。
「全部…伝わってるよっ。」
この言葉を聞いた瞬間、力が緩んだ。
「ゲンゾーの気持ち、全部私が受け止める。だから、不安や怒り、愛、全部私にぶつけてっ!」
「ヨアケ…………大好きだ。」
バタンッ
「ゲンゾー!大丈…夫…」
ドアが開き、ミリンの姿が俺の瞳に映った。