階層900・心理
「く、来るな!!ぐわぁッ!!!!」
ここらはあらかた倒したか。
俺は後ろを振り返った。
俺が通った場所は赤く、幻想的な雰囲気を醸し出している。
そこに、苦しそうに倒れた人々の遺体。まるでアクションゲームをやっているかのような気分だ。
アクション…ゲーム?なんだよ、それ。
「よ、よくも俺の弟を!!!!」
「はッ!」
「許さねえ!!死ねぇ!!クズがぁあああああ!!!!!!」
バンバンバン!!!バババババン!!!!
こいつの攻撃は俺の体にかすりもせず、なぜか怒りが湧いてきた。
「戦場にいる人間に恨みを持つな。」
「あ…あぁあ」
今日だけで何人の命を奪ったのだろう?自分を責めるつもりはない。だが、これからも俺は人を殺すことがあるのだろうか?何のために殺すのだろうか?楽しい。そうだ。敵を殺すのは楽しいことだ。推しだって、敵を殺すの…楽しんで…た?推し?何のことだ…
なんだかんだ考えているうちに、建物の屋上に上がった。
空は綺麗な快晴だ。そして、美しい空を汚すように、飛行機が煙を上げ、落ちてゆく。
「飛行機って戦うための道具だったんだな。移動するためのものだと思ってた。」
サイエンって、意外と怖えやつなのかもな。
あれ、俺以外にも屋上にいる奴らがいんぞ。
避難に遅れた人達かな。でもさあ、それにしては服装がなんか不気味だよな。
黒いローブを深く着ている。俺以外の屋上にいる奴ら全員だ。
「お前ら避難に遅れたのか?」
・・・答えねえ。誰一人答えないぞ?
スゥ
俺に一番近かった人が、静かにローブを脱いだ。
バサッ
「私は世界の心理を知る者。あなたもでしょ?ゲンゾー。」
はあ?今俺の名前呼んだか?
「俺は世界の心理なんか知らねえよ。それに、お前は誰だ!名を名乗れ!!」
女は丁寧な声で話し始めた。
「私の名前はユウグレ・ドキ。心理平和協会の理事長を務めさせてもらっております。」
まじか、こいつが敵の親玉。ここでこいつを殺せば…
「殺すなんて言葉、あまり使わない方がいいですよ。」
「は?」
「倒すって言わないと。」
俺、言葉に出てたか…
「出てないですよ。安心してください。…あ!!そうだ!ゲンゾー、君も私と一緒に働かない?」
は?急に何言ってんだ…こいつは。
「一般の人々とは違い、あなたには良い階級を与えましょう。」
「いや…意味わかん…」
「夢はありますか?私の仲間になれば三日で叶います。そして、一緒に新しい夢を探しましょう!」
ダメだこいつ…とち狂ってやがる…話が…頭に入ってこねえよ…
「俺の夢は…三日で叶えられるもんじゃねえ…生涯を駆けて叶えるもんだ!!」
「そうですか…知りたいです!ゲンゾーの夢、聞かせてください!!」
いや、知りたいって…こいつは何を考えてんだよ…こいつだ…俺の心臓がバクバク脈打つ理由は…こいつだ!!!
「いつからだ!!」
「わざわざ聞かなくてもいいのに。いいですよ、教えてあげます。」
心臓の音が頭に響く。響くたび、目の前が真っ暗になる。
「ゲンゾーが、この世に生を受けた瞬間から。」
何言ってんだよ…マジでさぁ。俺は、お前にあったことがあるのか?
「私は何回もあなたと会い、楽しくお話をしていますよ。」
産まれた瞬間から、俺を見ている。知っている。そんな人間は限られている。俺の母ミコトか、姉キツネビか、召使達か。
「いっぱい考えているんですね。良いことです。」
あ、あの眼…母さんと同じだ…悪魔だ…悪魔が俺を見ている…
「悪魔じゃないよ。」
その冷たい瞳からは哀愁が漂い、場の空気が凍った。
「お母さんだよ。」
はは、違うね。
「お前は母さんなんかじゃないよ。」
母さんは、確かに怖かった。悪魔のような眼をしているけど…その中にも嬉々が隠れていた。
だが、こいつにはない。ただの愛想の悪い眼だ。
「お前の言葉、母さんへの侮辱と捉える。楽に死ねると思うなよ。」
俺の夢は、母の自慢な息子になることだ。いや、違うな。