階層950・知らないけど知ってる
「ゲンゾーさん。起きてください。」
「起きろゲンゾー!!」
「んにゃ。」
もう朝かよ…結局痛みのせいで全然寝れなかった…
「別に良くね…こんな早くに起きなくて…バファ!?」
「よくないですよゲンゾーさん!金髪のエルフを探しに行くんでしょう?」
な、殴んなくてもいいじゃないか…ってあれ?俺、ミリンの魔法に掛かってない?
ミリンは今、俺に起きろと怒っている。心の中も同じはずだ。じゃあなんで俺は起きない?
「ミリン魔法を制御できるようになったのか!」
俺は飛び上がってミリンに聞いた。
「あ~…え~と…お、教えてくれたじゃん。」
教えた?何を?
「私の魔法・望む未来は、私にとって都合のいいように作用するんでしょ?」
ん?どゆこと?
「今ゲンゾーさん起きたでしょ?この起き方が一番都合がよかったんじゃないかな~って。私、まだ魔法とかわかんないし…」
「そゆことね。ミリンにとって俺を殴ることが一番都合がよかったんだね!いやーよかったよかった。元気になってくれてさ。」
「な、、、ふざけないでよ!!」
ミリンがゲンゾー殴ってる。なんか変な気分。
「何やってるの二人とも。僕とゲンゾーとミリンでエルフを探しに行くんでしょ?早く行こーよ。」
「あ…」
「ごめんねピヨッシーそうだよね。早くエルフを探さなくちゃだね!」
「右腕…感覚…無くなった…」
このあと、俺はエルフを探した。エルフはまだこの階層にいるはず。いなかったとしてもさらなる階層への道が開けているはずだ。
もう一度村に戻ってみるか。村長さんの体調も心配だしな。
「ミリン!」
「お父さん…」
「よく帰ってきてくれた…ゲンゾー、ミリンをギソから救い出してくれてありがとうございます。」
「あ、はい。」
「僕も頑張ったんだぞ!!」
・・・これは、本当に村長さんなのだろうか。ミリンの魔法に掛かり、こんな風に振舞っているだけなのではないだろうか。ダメだな…どうしても疑心暗鬼になってしまう。
「お父さん…私、ゲンゾーさんと旅をするって決めたの…」
「ゲンゾーと…旅だと。」
「だから…お父さんと会うのはこれで最後かもしれない。でもね、私、いつか絶対帰ってくるから!赤ちゃん連れて帰ってくるから…」
赤ちゃん?
「ゲンゾー。」
「・・・・」
「ゲンゾー!!」
「ファ!?ハイ!!」
やべ、気づかなかった…
「ミリンを、私の娘を頼んだぞ。」
「はい。ミリンさんは僕が護ります。安心して待っていてください。」
「僕も護るからね!ミリン!!」
「ありがと、ピヨッシー。」
「今日は祝杯を上げよう。あまり良いものは出せないが…」
へへ。
「村長さん。この俺の背中にはドラゴンの腹の肉が括り付けられています。」
「なんと!ドラゴンの肉だと!」
「この肉で祝杯を上げましょう!!」
そして、祝杯が上がった。
村の皆、笑顔で話している。これはきっと魔法じゃない。本物の心だ。
「ゲンゾーさん。」
ミリンか。
「よ、もう村の人と話さなくていいのか?」
「もうイッパイ話しました!ホント、ゲンゾーさんのおかげです!」
・・・
「源蔵、お前のせいで…」
「源蔵…お皿洗うの…手伝ってくれない?お母さんと一緒に…」
「源蔵、あなたは大人になったら何になりたいの?」
「俺はね、科学者になるんだ!科学者になって、タイムマシーンを開発するんだ!!」
何だ…これ…この人は…誰だ?なぜ俺は科学者になんかになりたいんだ?
てか、これ…俺なのか?
俺は拒絶するかのように目を閉じた。
「ゲンゾー?大丈夫?頭が痛いの?」
は!?
「ここに、階層900に通ずる"道"があります。」
誰だ?誰の声だ…男だ。男の声だ。聞いたことない声、でも、聞いたことがある。どこかで…
「ギソの基地。君とミリンの初めて会った場所。そこに”道”がある。」
「誰だ…お前…」
「僕ですか?僕は…」
「ミリンです!私は…ミリンです!!大丈夫ですかゲンゾーさん…起きてください…」
その日、俺は夢を見た。こことは違う世界。夢の世界。そこで俺は…何をしていた…何を…