階層950・他殺
まぁとりあえず村に帰るのは止めとこう。
だけどどうする?どうすりゃ魔法を止められる?
人は一人では生きていけない。かといって人の住む場所に行くと魔法が発動しちまう。
ガルルル…
さっきから近くの動物たちが俺達を警戒している。
ミリンの言ったとおりだな。生き物全員が魔法の対象だ。
ん?だとすると…
「おいピヨッシー。」
「どうしたの!」
能天気な奴だな。どこからっとってきたんだその木の実。
ピヨッシーは俺の肩に乗りながら木の実を食べている。
「今どんな気分だ?」
顔に赤い果肉を付けたピヨッシーはとても幸せそうだ。
「すごい良い気分!!ゲンゾーにもあげるよ!」
そう言って俺の口に木の実を放り投げた。
甘酸っぱくて俺の嫌いなタイプだ。いや、そんなの関係ない!
ってあれ?ピヨッシーは魔法に掛かってなさそうだな?
俺はずっと殺気立ってるってのに…
「あの…」
ミリンが前を指差し立ち止まった。
「あれ…なんですか…」
あれ?あれって…
「ありゃドラゴンだな。」
「そうだよミリン!!あれはドラゴ…ドラゴン!?」
ピヨッシーは俺の肩の上で飛び上がった。
あ、ドラゴンか。
どうしよっかなー。俺右腕折れてるし。戦えないぞ?
「逃げるぞミリン!!」
逃げるぞミリンの手を掴んで俺は走り出した。
ガルルル…アゥッ!!!
その白い牙をむき出しにし、静かに唸っている。
おう…後ろには狼か~。しかも群れだ。一匹なら何とかなったかもだけど…
「僕に任せて!!」
俺の肩から降りたピヨッシーは狼に向かって翼を羽ばたかせた。
「くらえ!小鳥の大暴風!!」
ピヨッシーの翼から放たれた黄金に光る刃は狼だけでなく、その場周辺を見境なく襲った。
もちろん。俺とミリンも対象だ。ホントふざけてやがる。
そして、黄金の刃は鋭い音と共に肉を切り裂き、やがて消えていった。
木の葉から赤い液体が滴り落ち、やがて地面に吸われていった。
「早く!!何してるの二人とも!!ドラゴンに食べられちゃうよ!!」
グォォォォォォ……バルルルル……
ん?何かおかしい。何がおかしい。ドラゴンがおかしい。ドラゴンの何が変だ?
襲ってこない…なぜだ、なぜ襲ってこない。少し進めばそこには獲物がいる。なのに動かない。
でも…逃げなきゃ。
俺はピヨッシーと共に走り出した。
「ここは…」
無我夢中で走っているうちに、滝が落ち、大きな花が川を流れ、空には雲一つ無い神秘的な場所に立っていた。
安心した、ドラゴンから逃げ切ったのか。
「なぁミリン…」
いない…どこだ…どこではぐれた!
違う!!はぐれたんじゃない。最初からあいつは逃げてなかったんだ。なんで気づかなかったんだよ!!
…望む未来か…ドラゴンから逃げねえのは自殺と同じだろうが!!
クソッ!!今頃ドラゴンに喰われてるか?いや、それでも行かなきゃならない。
「ピヨッシー戻るぞ!!!」
俺の肩には一匹の小鳥。魔法が聞かない唯一の生物。
なぜ効かないのか、てかこいつは何者なのか。俺は何も知らない。
でも、今はそれでいい。これから少しずつ分かればいい。
ピヨッシー、お前は”希望”そのものだ。ミリンを…ミリンを救えるのはお前だけだ。