人生の再確認
俺の名前は木本源蔵。無職。一応昨日30歳の誕生日だったんだぜ…
昔、俺の夢は儚い科学者だったんだ。昔は夢見る可愛い少年だったんだぜ?でも今は人生に絶望してパソコンと一日中向き合っているちびでデブで馬鹿でメンタル弱者で…なのに無駄なプライドは有って…俺だってこんなことしたくねえんだよ!!俺だって何回も職に就こうと頑張ったんだ!!
・・・何してんだろ、俺。
パソコンに向かって叫んで、嘆いて、推しにお小遣い全部投げて…
本当は今頃、世紀の大発明の一つや二つポッと出してるはずだったんだけどな…
トントン
「ゲンちゃん。ちょっといいかしら…」
おふくろか。
俺は重い体を持ち上げ、床のごみを踏んずけた。
「何の用だ。」
ん?おふくろ何持ってんだ?茶色い封筒…
「これ、お父さんの今月の給料…」
茶色い封筒を俺の手に無理やりねじ込まれた。
「なんで親父の金を俺に渡すんだよ…」
俺は分かっている。ついにこの日が来たんだ。
俺がこの家から追い出される日が。
「お母さんとお父さんは引っ越すことにしたの…」
そう言っておふくろはドアを閉めた。
俺は金をもらっても何も変わらなかった。
一日中推しをみて金を投げていた。今日はいつもより金がいっぱいある。いつもよりいっぱい投げて推しに喜んでもらおう。
いつもは千円ちょっとぐらいしか投げれなかった。だが今は一回で投げ銭の最高額五万円まで投げれる。投げるたび俺に反応してくれて名前も呼んでくれた!!最高だぜ!!Fooooooooooooo!!
ふとパソコンの右下を見て時間を確認した。
21:38
もうこんなに時間経ってたのか…
てか、飯取るの忘れてた。濡れたティッシュを足の裏で踏み、ドアを開けた。
無い。飯が無い。俺が飯取らなかったからおふくろに飯持ってかれちまったか?
俺はドアを閉めてパソコンにまた向き合った。
腹減った!!!もう限界だ!!
俺はドアを開けておふくろに叫び散らした。
「飯寄越せよ!!!クソババアが!!!」
・・・何も反応が無い。いつもなら死にそうな声で反応してくれるのに…
もしかして…もう引っ越したのか!?
俺は八年ぶりに階段を降りた。
ははは。誰もいねえや。誰もいないどころか冷蔵庫もテレビも何もない。
この家どうなっちまうんだろ。もしかして売られてるとかはないよな…
キッチンを見ると何か書いてある紙がおもちゃの車の下に挟まれていた。
「お金を使って新しく家を借りなさい。そして仕事をして、一人で暮らしなさい。」
ふざけてやがる…
俺は自分の部屋に戻り封筒の中身を出してお金を数えた。
37万…
今の時代はものすごく便利なものだ。後払いという借金を簡単に誰でも借りれる。
俺はもう30万は使った…残りは多くて7万。
・・・無理だろ…
俺は何も食わずにベッドに横になった。
ピンポーン
ピンポンピンポーン
誰だよこんな早くによ!!
俺はふらつく足で階段を降り、玄関を開けて叫んだ。
「朝っぱらからうるせえんだよ!!とっとと失せろ!!」
俺は何を思っていたのだろうか。
何も覚えていない。唯々ムカついていた。
外はまだ太陽も昇り切っておらずまだ薄暗かった。
「俺は〇〇不動産から来ました御蔵伊里と申します。」
こいつは俺に名刺を渡してきた。変な名前だな。だけど…すげえイケメンだ…
俺とは違う。こいつはきっとエリート中のエリートだ。
猶更ムカついてきた。
「不動産会社が何の用だ!!この家は親父が建てた家だぞ!!」
言った後に思い出した。おふくろと親父は引っ越したんだ。
この家はもう、俺の住める所じゃない。
あいつの言った話だと俺はあと二日でこの家を出て行かないといけないらしい。
二日と言わずこんな家今日出て行ってやるよ。俺はやるときはやる男だ。他のニートとは違うんだ。
俺は封筒とスマホをもって颯爽に外へ駆け出した。
無駄な脂肪が足をつくたびにバウンドしてくる。家を出て三秒で俺は息を切らした。
久しぶりに見たぜ…銀座…
そうだ。俺はずっと忘れていた。俺は銀座に住んでいるエリートなのだと。
俺はすぐにハローワークへ向かった。
俺は年収500万で週三日休みの仕事を要求した。なぜこんな好待遇なのかって?そりゃ俺は銀座のエリートだからだよ。他のニートとは一線を画してんだよ!
結果見つからず。俺は怒り狂った。
中央通りを俺の好きなように跋扈していた。俺の周りには誰も近づかず、俺通った後には綺麗な一本の道が出来上がっている。俺はホームレスの空き缶を蹴り飛ばし、たばこの吸い殻をすり潰した。
パラリラパラリラ!
暴走族がバイクを鳴らしている。うるせえ。
あ?目の前には中身の入った缶コーヒーが蓋の空いた状態で置かれていた。
俺はプロ顔負けのシュートを暴走族にぶちまけた。少し俺にもかかっちまったがすげえ気持ちいぜ…俺は
賢者タイムに突入していた。一時間推しを見てオ〇ニーした後の百倍は深い。
人はなぜ推しに金を貢ぐのか。それはきっと親にも兄弟にも見放された哀れな人間が祐逸構ってもらえるからだろう。だが、金を貢いでいる人間に限って”推しのため”だの意味わからん理由を付けてかっこつける。自分のために金を使っていないと思い込んでいる。って何考えてんだ俺?
下を向いた顔を上げると目の前にはコーヒーをぶっかけた暴走族が俺を取り囲んでいた。
「ごめんなさ…」
言うまでもない。俺は殴られた。しかも顔面だ。鼻血を噴き出し、意識が朦朧とする。地面に手が付き、脂肪がブルンブルンと怯えている。
人生終わった…これから俺はボコされて気絶して臓器取られて売られて博物館に売られるんだ…
俺は人間とは思えない速度で立ち上がり、爆速で逃げた。はずだった…
隣には野良猫が俺に体を噛んでいる。
目の前には俺の血が付いたバットを持っている男達。
俺は暴走族にリンチにされたんだ…まだ…辛うじて生きてはいるけど…
ははは…俺は逃げた後、路地裏に逃げたんだ。だけど久しぶりに走ったからすぐに疲れて倒れた。でも暴走族は追ってこなかった。
安心していると、路地裏の奥から一匹の野良猫が走ってきた。安心しきっていた俺、逃げずに猫と戯れていた。
猫はこんなにも可愛いものだったっけ?いままで俺はずっと画面の中のバーチャルを見て、幸せを感じてきた。だが、今生きている猫に幸せを感じている。
いつからだったっけ、俺が引き籠るようになったのは…
俺は高校を卒業した。大学にも行きたかったけど受験に落ちた。でも対してダメージはくらっていなかった。俺は仕事に就くために何回も面接をし、落ちてきた。俺はコミュ障だったのだ。自分の意図をうまく伝えられずに面接が終わる。大学の受験と違って不完全燃焼感が強かった。悔しかった。だから俺は本をいっぱい読むことにした。本を読むことで少しでも話せるようになろうと、そう思った。その時初めて引き籠った。一か月ほど引きこもり生活を送っていた。
やがてパソコンをいじっているとあるサイトを見つけた。
「小説を読もう?」
このサイトには個人が書いている小説が山ほど載っていた。
一つ読んでみると凄くおもしろかった。なんだろう?普通の小説とはなにか違う。すぐに次の話を読みたくなってくる…それに…尊すぎんだろ!?
そのころから本を読むことは止めてパソコンで小説を探す日々になっていった。
今思えばあの時あのサイトを見つけていなければもっといい人生を歩めたんじゃないか?
「無様ですね。」
?
暴走族が俺を囲んでいたはずなのに…
「誰だ…お前…」
目の前には見たことがあるようなイケメンが立っていた。
「忘れちゃったんですか?僕は御蔵伊里です。」
まるで館の主人にお辞儀をしたかのようにこのイケメンは深く頭を下げた。
「どうでしたか?あなたの人生。」
俺の人生?そうだな…そんなの決まってるな。
「やり直したい。やり直して俺の夢を叶えたい。そして嫁さん貰って、暖かい家族をもって…」
妄想がはかどる。もしまた人生をやり直せるなら。
「俺は…悔いのない人生を歩みたい!!」
もう…俺の人生は終わるのか…もし小説のように転生ができるなら…そんなことあるわけないか…
「もし、違う世界で新たな人生を歩めるとしたら?源蔵さん。あなたならどうします?」
は?何言ってんだこいつ。小説じゃないんだから…そんなこと…ないよな?
正直に答えるか…
「俺は、その世界で新たな人生を謳歌する!!」
目の前にはバットを持った暴走族が俺にバットを振り下げている。
今までのは全部幻覚だったのか。
もし違う人生があるのなら。俺は今度こそ科学者になりたい。