隣界の旅人 邪心との共存は可能なのか
「隣界の旅人」シリーズはメインの「雷宝」シリーズの過去編、またはif世界の話になります。補足の時もあります。
この話を読む前に同じ「隣界の旅人」シリーズの「灰色の追憶」をご覧下さい。その方が作品をより理解できます。
私はGONER-ヘプタ、GONERになってまだ10年の新人だ。
私は今、第2世界層の魔界で鳳天極夜と邪教徒の掃除をする仕事をしている。本当は極夜1人でやる予定だったらしいが私も戦いの練習として連れてきたらしい。
私たちは邪教徒たちが集まる廃墟に到着した。すでに信者が8人集まっていた。そこに極夜は正面から堂々と入っていき、私もその後を追うように進む。
「やあ邪心仰者諸君!いきなりだが君たちには死んでもらうよ!」
そうバカが言うと空中から青く光る物体が出現し、信者の体を貫く。
「やあベラガ、死ぬ前に少し質問していいかな?邪心は見えたかい?」
そう極夜が負傷した信者の問いかける、信者はなぜ自分の名前を知っているのかと驚いていたが、問に答える。
「俺たちは神を見た…だからこうしてここに居る…」
「そうか、邪心を見たんだな、それではさようなら。来世は何もないといいね。」
そう言うとベラガの頭を拳銃で撃ち抜く。
喋らなければ10秒もいらない。簡単な作業に見えてしまう。
「練習で連れてきたのに私1人で終わらせてしまったね。戦いたかったかい?」
「いや、あいつらただの一般人だろ、戦闘技術もない奴らを殴っても楽しくない。」
「たしかに一般人だけどちゃんと彼らは魔人だよ。戦闘能力は君より高いよ。君みたいなまだ10年しか死んでない人にはパッと見で戦闘力が分からないか〜ごめんね〜。」
「そうかい。」
私こいつ嫌いだわ。ぶっ殺すぞ。
「俺の国で一体何をしてるんだ?」
背後から男の声が聞こえ銃を構えながら振り返る。
そこには…イケメンとしか言えない高身長のイケメンが立っていた。
「おや、これはこれは魔王様、お久しぶりですねぇ。」
極夜が銃口を左手で塞ぎながら魔王と呼んだ男の方に歩く。
「そこの魔人8人が雷宝軍になにをしたのか聞きたくてね。答えてくれないか?」
私は恐怖を感じた。過去にこの魔王に殺されたと錯覚するような恐怖。錯覚?
「いや、君には…まぁ今後関係があるね、魔王代理人に協力されては我々としても2代目としても困るので。」
「ほう?魔王代理人と2代目魔王?一体どこの情報だ極夜、実眼か?」
実眼、それは真実を見る眼。鳳天極夜が持つ能力眼で過去現在未来そして分岐した平行世界すべてを見ることも操作することもできる眼。
「実眼でみた未来さ、このまま分岐先に移動しなければ君は外世界からの捕食者に対抗するために誰にも何も言わずにこの世界から一時的に消えなければいけない。その間魔界を誰に任せるかであの男に一時的に政権が移るがその時に2代目になろうとして彼ら、『邪心信仰者』と手を組まれると困るんだよね。だから先に潰してるのさ。」
何を言っているのか分からなかった。この先の未来の話なのだろう。外世界からの捕食者?邪心信仰者?何を言っているんだ?
「…なるほど、俺が居ない間に魔界が支配されるからそれを防ごうと…ふむ…まぁいいだろう。話は変わるが、そいつは何者だ?ただの人間じゃないだろ?まさか噂の『GONER』ってやつか?」
魔王はそう聞く。私は身構える。GONERという組織は関係者以外に存在を知られてはいけない。存在を知るものは排除しなければいけない。だが、この男、魔王とは戦ってはいけないと魂が言う。
「全世界最強最悪の魔王に聞かれては答えるしかないですねぇ…」
この男にGONERの存在を教えるのか?知られてはいけないルールを作ったのはお前なんだぞ極夜。
「答えはNOです。GONERなんて組織存在しませんよ?この子は私の実験で不老不死になっちゃっただけで他は普通の人間と変わりませんよ?」
「なるほどな、お前が嘘を言ってないのも分かった。じゃあ俺は帰る。気をつけろよ、極夜とサラス。」
そう言って魔王は消える。
「…サラスねぇ。」
極夜は私を見る。サラスは私の生前の名前だから。
…邪心、いつまで俺に干渉し続けてくるんだ。
俺は邪心との関係を断ち切りたかった。過去の惨劇、邪心を崇拝する邪心信仰者が魔界軍と大規模な戦争、『邪心侵略戦争』が始まったあの日、俺はあの戦争で誰も救えなかった。邪心が悪であることを彼らに信じさせることが出来なかった。なぜなら俺が邪心を所有し彼らにそれを見せてしまったから。
邪心、それは生物の魂に入り込み負の感情を周囲から喰らい力を蓄える実体が無い存在。邪心は力を蓄え己の階級を上げていくことが最大の目的であり、それ以外の事には興味が無い。故に寄生した生物に力の一部を一時的に分け与え殺人や破壊などをさせ周囲から負の感情を喰らう。宿主に用が無くなれば即座に切り捨て違う宿主に移る。そんな存在を信仰する宗教があるのだから恐ろしい。
その邪心を一匹保有してしまっているのが俺、初代魔王ダイヤモンド・スカーレットだ。俺は『滅』と名乗る邪心を俺の魂で飼っている。俺の魂が強大すぎて滅は出ていくことも支配することもできない。言ってしまえば唯一邪心を飼い慣らしている。
この滅はこの世界で最初に生まれた邪心で俺はこいつの最初の宿主だ。こいつと契約したのは…やめておこう。この話は。あの日は思い出したくない。
まぁとにかく、俺はこの邪心を戦争中に見られてしまった。この滅は負の感情ではなく他の邪心を喰らうことで力を蓄えることが出来る。邪心侵略戦争では大量の邪心が居たから滅も我慢できずに出てきてしまったのだ。
俺は滅を見られてしまったから。当然邪心信仰者もその時前線で戦っていた軍人も全員消した。ただ一撃。誰一人として残さずに。
だから死んだのだ。あの兄妹が。
その日から俺は邪心との共存は不可能だと結論付けた。
「……俺があの時否定したら邪心は生まれなかったのか?滅。」
「……そうしたら道は違ったかもな。お前のその極眼で平行世界を見たらどうだ?ワシは今の半分の数に収まってるに賭けるぜ。」
「何を賭けるんだ滅、その貧弱な魂で。いつ俺に喰われるかわからねぇのによ。」
滅は黙り込んでしまった。
「はぁ…さっさと死んでくれねぇかな滅。」
そう言い俺は極眼で全ての平行世界を眺める暇つぶしを再開する。
「邪心との共存は可能なのか」はこれで終わりです。
「隣界の旅人」シリーズは本編の「雷宝」シリーズとは別に私が書きたい、書きたくてしょうがない過去編、if世界を書くためのシリーズです。本編にそんなに関係がある訳ではない場合が多いですが、本編で補足できない設定を書くために書いてる事もあります。
今回は今後も本編や番外編で出てくる邪心について書きました。作者としても邪心は正直めんどくさい存在ですが便利な存在ではあります。
今後も作品を投稿していきます。