11
ガタンガタン。
曇った薄暗い空の下、電車は進む。
昨日リョウと別れ、そのまま真っ直ぐ家に帰った私はバタンとベッドに倒れこんだ。
何故か何もする気が起きなかった。
肌触りのいいシーツの感触を頬に感じながらリョウの言葉を思い出す。
あの町の住人は今、想像以上に悲惨な日々を送っているに違いない。
政府にたてつくなという見本として捕らえられ、刑罰を与えられる。
リョウの話ではまだ多数の人が潜伏していたり逃げたりしているようだが、リョウが私に対して執拗に接近してきたように、おそらくしつこく追跡されるだろう。
―――父と母は無事なんだろうか。
今まで考えないようにしていた疑問が頭に浮かんで離れない。
先日あの町と両親の夢を見てから、認めたくはないけれど、頭のどこかでずっと気になっていた。
そんな中リョウに言われた「家族は大丈夫なのか?」という問いかけ。
悟られないよう平常心を装ったが、心の中を見透かされた気がして内心ドキっとした。
この先二度と会うこともできなくなるかもしれない。
今が最後のチャンスなのではないだろうか。
そう思うといてもたってもいられないような、大声で叫び走り回りたくなるような衝動に襲われた。
会いに行こう。
一晩眠れずに寝返りをうちながら、私はそう結論を出した。
そしていつも通りに野田が出勤したのを確かめると、急いで家を出て電車に飛び乗ったのだ。
駅を降りて町へとノロノロ歩く。
あの町には電車の駅がない。
なので一番近い駅からバスに乗り換え、更にその終着駅から徒歩で町へと向かっていた。
懐かしい景色。懐かしい匂い。
捨てたはずの故郷へと続く道に、幼い昔へタイムスリップしたかのようだ。
一歩一歩と足を踏み出す毎に、確実に鮮明になる門を見つめるうちに記憶の中にある門とは少し形状が違う事に気付いて立ち止まる。
それはニュースで見た通り、高く頑丈なバリケードが作られていたのだ。
ひとつため息を漏らし再び足を進めようとした時、視界の端で何か光ったような気がして私は目を細めた。
そこには数台のテレビカメラと、レポーターと思われる人々が町からは死角になる位置に腰をおろしていた。
確かに、住人を見つければスクープになるだろうと納得し、私は門に近づくのをやめて迂回する道へと進路を変える。
そのまま道なりに進むと、私は周りに誰もいないことを確認した。
町を取り囲むように建っている壁を眺め、少しだけ色が薄くなっている部分に直角になるように設置されているマンホールの蓋を開ける。
下水が流れているような普通のマンホールだが、その奥で町に繋がっていることは、組織の人間なら誰でも教えられている事だった。
慎重に中から蓋を閉め、全力疾走した後のように早く打つ心臓を押さえながら私は進む。
やがて再び地上に上がるハシゴを見つけ地上に顔を出した時、久しぶりに故郷を目にしたのだった。