10
ここではマズいからと強引に連れて来られた寂れた喫茶店に腰を下ろし、リョウはあっさりと切り出した。
「最近ニュース見てる?」
「…人並みに」
奴が何を言いたいのか予測はつくが、あえてしらばっくれて答える。
そんな私の様子を見て何を思ったか、リョウはにやりとした笑みを一瞬浮かべた。
「あの町、今大変なことになってるけど、瑠璃の家族は大丈夫?ちゃんと連絡とってる?まだ結構な数の住人が隠れてるらしいし」
「…家族なんていないから」
表情を変えないように気をつけながら、私はブラックのコーヒーをなんとなくかき混ぜる。
ぐるぐる、ぐるぐる。
表面の泡が渦をまくように狭いカップの中を行き来する。
「住人には刑罰も考えてるらしいし。まあ、似たような組織が増えても困るから、多分見せしめで何人かは処刑されるんじゃないかな」
私の返事は見事に無視して、リョウは世間話でもするかのような気楽な口調で話し続ける。
しかし内容はその口調とは裏腹に、とても重いものだったが。
「お前がどう思ってるかは知らないし何があったかなんて分からないけど、子供が可愛くない親なんていないよ。昔からそう言われてるだろ?実際子供を虐待する親だっているけど、これだけずっと言われ続けるんだから、それはきっと正しい感情なんだよ」
突然のリョウの言葉に少しだけハッとさせられたが、おそらくはカマをかけてるだけに違いない。
だからそのまま無関心を決め込んでコーヒーを眺めていた。
そんな私の様子を見て、リョウは静かに、けれどちゃんと聞こえるボリュームでため息をひとつ吐いた。
「守るべきはずの娘もいない、自分達が属してる生きがいだったはずの組織も壊滅状態。それはそれで親御さん達も可哀想だと俺は思うけどな」
「…何が言いたいわけ?」
まるで良心に訴えかけるような芝居がかった言い方にカチンとくる。
何も知らないくせに随分な言い方じゃないか。
「話はそれだけ?悪いけど忙しいんだよね。もう帰っていい?」
私は千円札を財布から取り出し、机に置く。
それをちらりと見やり、リョウは言った。
「…多分お前は俺が何を言っても、もう聞く耳なんてないんだよな。俺もこんな形じゃなくて、友達同士で再会できたあの時に戻りたいよ」
「………」
リョウの言葉に心の中で頷く。
リョウとはこんなギクシャクした関係ではなかったのに。
むしろ貴重な昔からの友達だったはずなのに。
今更そんな事を言い出すなんて。
悪いのは全部リョウじゃないか。
寂しいなんてお互い様だ。
言いたい事は胸に溢れていたが、私はそのまま何も言わずに立ち上がった。
「瑠璃」
名前を呼ばれて、リョウと目を合わせる。
そこでやっと、今日まともに彼と目を合わせるのが初めてなのだと気付いた。
「もしかしたら俺達、もう会う事はないかもしれないから言うけど。俺はお前のことが今でも好きだよ。…何かあったら連絡くらいして来いよな」
そう言って不器用に笑ってみせたリョウは、私の知っている古くからの知人のリョウに他ならなかった。