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終わる、世界  作者: 美咲
第4章
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リサイタルはちょうど半年後に決まった。


持ち曲は何曲かあるにはあるが、なんせ基礎からやり直しているのだ。

間に合う訳がない。

こればかりは頑張ってどうにかなるものではなく、毎日の練習の経験値がものを言う。

けれどそれを嘆いている暇はない。

ならば最善を尽くそうと私は心に決めた。


斉藤と共にプログラムを打ち合わせし、比較的弾き慣れていて舞台映えのする曲を選んだ。


週を追うごとにレッスンは白熱していき、元々決められていた2時間というレッスン時間は毎回オーバーしてしまっていた。


斉藤もあれ以来野田の話を全くしない。

私に話しても反応が薄くて面白くなかったのかもしれないと頭の片隅で思ったが、一世一代の大舞台を前にして、そんな事は全くどうでもいい話だった。


ある日私は下見も兼ねて、リサイタルを開くホールの演奏会を聴きに出かけてみた。

座席数は約六〇〇席。

大きくもないが、決して小さくもない会場。

どちらかといえば古い建物なのに、内装は何度も工事されているのかとてもキレイだった。


今日の主役は若手日本人ピアニストだ。

特に面識のない演奏者だが、斉藤の門下生だと聞いている。

斉藤の弟子ということはエリート街道まっしぐらの若者に違いない。

そう思って私は若干ドキドキしながら難しい曲が並んだプログラムを眺めた。


演奏は圧巻だった。


斉藤の門下生らしく、ずっしりと重心の定まった姿勢に多彩なニュアンス。

そして澄んだピアノの音色。


堂々とステージでパフォーマンスをし、演奏後に笑みもこぼれるほどの余裕ぶり。

そして客席から湧き上がる拍手。

くしゃりと音がしたので手元を見ると、気付かないうちにプログラムの紙を握り締めていた。


半年後、この拍手喝采が私にも贈られないだろうかと、無理を承知で切に願う。


すべての演奏が終わり、客席のアンコールを求める拍手が鳴り止まない中、私は席を立った。

これ以上ここにいても精神的に辛い。


もう時間も遅いが家に帰って少し練習しよう、そう思いながら足早にホールを背にして歩き出したその時、


「よお。元気?」


後ろから声をかけられた。


「携帯のアドレス変えた?何度電話しても繋がらないし、仕方ないから会いに来たよ」


私は一瞬ぴくりと反応しかけたが、構わず無視して歩き続ける。


「待てって。彼氏がいない時にわざわざ来てやったんだぞ。ちょっとは話聞いてよ」


そう私の前に回り込んできた見知った顔。


「何の用?」


ため息を吐きながらそう聞くと、リョウは唇を歪めてにっこりと笑った。



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