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終わる、世界  作者: 美咲
第4章
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それからはまさに毎日、同じような日々の繰り返しだった。

ピアノの向上という点で考えれば、他の事に気を回さなくていいという理想的な状況。

けれど人間らしい生活かと言われれば疑問が残る。


ある朝野田が仕事に出かけた後、コーヒーを淹れにキッチンへ遠征したついでに思い立ってテレビをつけてみた。


久しぶりのテレビからは変わらない朝の情報番組が流れていた。

画面には番組の特集なのか、とあるエリートの成功の秘訣が図で解説されている。

そういえば中学を卒業してから、この手の成功術のテレビ番組や本を飽きることなく見ていたっけ。

少し懐かしくなり、私はその特集をぼんやり眺めた。


あの頃は純粋な心で何かヒントを得ようと足掻いていたけれど、上京して様々な人を『MB』で見ているうちに気付いてしまった。


シンデレラストーリーのような成功は、このご時勢にはないんだという事を。


そんな事を思いながら冷めてしまったコーヒーを口に運んだ時、聞き覚えのある単語が耳に入ったので、ふと画面に意識を集中させた。


それは私が記憶から抹殺した町の名前。懐かしい入口の門が映し出され、レポーターの男性がわざとらしく眉をしかめながら淡々と手持ちメモを読み上げている。


『政府はこのテロの町に住む住民全員の身柄を確保することを決めたようです』

『事実上の逮捕ということになるでしょう』

『処分は会議が開かれ』

『刑罰も』

 

よく見ると門はバリケードのように大型家具などが積み重ねられ、簡単に乗り越えたり壊されないように補強されていた。

中を窺わせないその物々しさが、カルト教団という言葉と相乗効果を生み、暗く重々しい雰囲気が町全体を覆っているように見える。


何でこんなに大ごとになっているんだろう。

刑罰という単語が出てしまうような行動を起こしたのだろうか。


そこまで考えてハッとする。

脳裏に浮かんだのは『あの町は反社会派の巣なんだ。国のトップの暗殺を目論むような、そんな集団の町なんだよ』と言うリョウの声。


あの時あいつは何て言っていた?

私は目を閉じ、記憶をひっくり返していく。


そうだ、確か政府が何人か住人を捕まえて取り調べをしているとか言っていたような。

『裏がとれ次第…』と不自然に言葉を切ってこちらを窺うようなリョウの顔を思い出し、ぶるりと背筋を震わせる。


縁を切ったはずの両親の顔が頭の隅をかすめた。

反射的にギュっと目を瞑る。

もう関係ない、そうやってここまでやってきたのだ。

私には心配をする資格もない。


すっかり温くなったコーヒーを飲み干し、逃げるように私はピアノの部屋へ向かった。

今すべき事はカルト集団の行く末を案じる事ではない。

それだけははっきりと分かっていた。



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