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そして待ちに待った発売当日。
私は町の入り口にそびえる門を乗り越え、こっそり外へ出てお小遣いで雑誌を買った。
この町には本屋がない。
その時は疑問に思う事もなかったが町を出て気付いた。
ここには「外」に触れるような本屋のような施設やテレビのようなツールはないのだ。
絵本や小説はいくつか家にあったし、いつ出版されたか分からないような古びたものだった。
おそらく両親が町に越す前に買ったものに違いない。
だから私は本屋やテレビというのは存在は知っているが、
うちのような一般家庭にはあまり関係ない、特別なものだと思っていた。
両親を驚かせようとワクワクしながら手の中のものを大切に抱え、一目散に町へ帰った。
雑誌に載ったと知ったら2人とも喜んでくれるだろうか?
早く読みたい。早く読みたい。
はやる気持ちは好奇心に勝てず、家まで我慢できなくなった私は、
門の内側まで戻ると、目の前にあった防波堤に腰かけ一心に雑誌をめくった。
その記事を見つけた時の衝撃は今でもハッキリ覚えている。
『カルト教団に潜入取材!何も知らない幼き犠牲者!』
そして私のインタビューが、少しだけ捻じ曲げられて載っていた。
(カルト教団?犠牲者?)
聞き慣れない単語を頭の中で繰り返すも、何の事だかさっぱり意味が分からない。
でも、とても禍々しい響きだと思った。
その後もその記事は、私の住む町の恐ろしさを淡々と、
でも人々の好奇心を煽るような印象的な言葉をあちこちに散りばめながら書き綴られていた。
私のいる幸せな世界と雑誌に載っている世界は同じものなのだろうか。
見出しの犠牲者という哀れまれた言葉から奇妙な違和感に襲われて、ぶるっと身震いする。
なにか、大人達は重大な事を隠している。それは直感だった。
その瞬間、私は弾かれたように立ち上がり、
握り締めすぎて皺がついた雑誌を持ったまま、再び町を飛び出した。