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「ごめんなさい。もう二度と会わないから」
じんじんと痛みが走る頬を押さえて許してもらおうと必死に謝った。
けれど野田の怒りは収まらず髪をつかまれ、立て続けに二度三度と頬を打たれた。
「野田さん!」
光のない野田の目がだんだん怖くなり、叫ぶように彼の名前を呼ぶ。
「以前、嘘をついて男友達の家に泊まったことがあったけど覚えてる?まさか同じ男じゃないだろうな?」
「・・・・・」
「答えろ!」
再び頬に衝撃が走って口の中に血の味が広がった。
そうだ、確か以前リョウの家に泊まったところを写真に押さえられた時も今ほどではないにしろ、野田は人格が変わったように私のことを責めていたっけ。
だとしたらこういう野田も、普段は見せないだけで野田の素の一面なのかもしれない。
「・・・同じ人だけど、あの時も話した通りただの友達で・・・」
「好きなのか?」
冷え切った視線に射抜かれて勢いよく顔を横に振る。
「好きじゃない・・・」
「俺のことは?」
「・・・好き」
無理やり言わされたような「好き」だったが、野田は満足したのか私の髪をつかんでいた手を離した。
ほっと安堵の息を吐き、思い出したかのように涙が溢れた。
崩れるように床にへなへなと座り込む私を見て、野田は言った。
「バイト、行かなくていいから」
「え?でもバイトは」
「行くな」
あのクラブのステージは小さいけれど、私がどれだけ大切にしているか野田は知っているはずなのに。
そう抗議しようと野田に視線を向けると、そこには有無を言わせない、支配者のような目をした野田がいて、私は今更ながらに気付く。
彼は上に立つ事を当たり前とした人間なのだ。
そして私は残念なことに、彼よりずっと弱く、成り上がるのも諦めるのも彼の一存にかかっている人間だという事をまざまざと認識させられた瞬間だった。