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終わる、世界  作者: 美咲
第3章
34/64

12

斉藤宅にレッスンへ行ってから3日が過ぎた。

私はバイト明けで寝不足のままピアノの前に座り、長い時間ピアノを見つめていた。


「・・・できない」


鍵盤に指を乗せる気にもなれず、ひとつ大きなため息をつく。

毎日使える時間をすべて使って練習しても、教わったことが何ひとつできないのだ。これまでのやり方をすべて捨て、3日でイチから作り直すことなんて簡単にできる訳がない、それは頭では分かっているけれど。


『レッスンの時に以前出した課題がまるでできないようならば、即終了ということでいいかしら?』


先日斉藤に言われた言葉がプレッシャーをかけるようにぐるぐると回った。

次のレッスンまでにこの前言われた課題をすべてクリアしなければ、私の夢もあっさり終わってしまう。

どうにかしようにも気持ちばかり焦ってすべては空回り。

完全に私は自分というものを見失っていた。


「瑠璃ちゃん?こんな朝からどうしたの。寝ないと体力もたないよ」


練習室の外から出勤前の野田が声をかけてくる。


「瑠璃ちゃん?聞いてる?いいから出ておいで」


ガチャガチャとノブが回される音が聞こえたが鍵がかかっているので野田は入って来れない。

心配してくれてるのは分かるが、今は感情に波が立ちすぎている。

私は無視を決めこんだ。


「とりあえず仕事行って来るけど、ちゃんと休んでから練習するんだよ。急がば回れって言葉があるけどその通りだと思うよ」


そしてじゃあ、という小さい結びの言葉が聞こえ、野田の足音は小さくなっていった。

玄関の鍵が閉まる音が聞こえてから寝不足でぼんやりする頭をどうにかしたくて、そろそろとキッチンへ入りコーヒーをいれる。

疲れているのでいつもはブラックのところに砂糖を追加した。


再び練習室に戻ると携帯がメールを受信したと知らせるため、イルミネーションランプを光らせていた。

野田だろうか、心配性なことだ。

コップに口をつけながら受信箱を開き、しかし予想もしていなかった相手に思わず眉を寄せた。


送信者の欄に表示されている名前はいつだったか縁を切ったはずのリョウだった。

私の地元について何かを掴んだというメールを貰い、無視してからだいぶ経つが、忙しくてすっかり忘れてしまっていた。

そういえば着信拒否はしていなかったんだっけと私は苦い気分で舌打ちをする。

地元の町を野田に暴露されることは避けたい事態だが、正直に言ってそれよりも目の前のピアノの課題をどうにかする方が今の私にとっては大切だ。

前回の続きだったらすぐに消去して忘れようと心に決め、メールを開いた。


『久しぶり。今瑠璃の家の前にいるんだけど会えないかな』


意味が分からない。

家の場所は教えた覚えもないし、第一ここは野田名義のマンションだ。

リョウが知っているわけがない。

不思議に思って何度も読み返す。

しかし当たり前だが受信した文字は1文字たりとも変わることはなかった。



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