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ようやく自分のベッドに潜り込んだ時には、精神的にヘトヘトになっていた。
寝室を別にしてもらって正解だったなと高級そうな布団に包まりながら天井を見つめる。
もちろん別にした理由は、私は夕方バイトに出て朝方帰ってくるが、野田は全く逆の生活をしているという、お互いを気遣うものなのだけれど。
過去、リョウの家で過ごした時にもこんなに気疲れしたことはない。
リョウと野田じゃ格が違うのだから当然か、そう思って不意にさっきのメールを思い出して頭が急速に冷え渡った。
野田に感づかれないように、そっと部屋を出て、ピアノの部屋に投げ出した携帯を取りに行く。
『この間から何なの?あの街と私は関係ないよ』
ぬくぬくと布団に包まりながら、もうリョウとは連絡をとることはやめようと決意して、強めの口調でメールを送信した。
下手に出たら足元を掬われる、そう思った。
すると待っていたかのように数分でメールの着信を知らせる音が部屋に響いた。
『大丈夫。誰にも言わないよ。瑠璃の彼氏にもね。ただ協力してほしいことがあるんだけど会って話せないかな?』
カマをかけただけではないという事か。
リョウの自信満々な口調から、本当にどうやってかは分からないけど、私の故郷を突き止めたらしい。協力してほしいという事は、偶然知った訳でもリョウ個人の興味で調べた訳でもないに違いない。
すごく嫌な予感がするが深く考えることを拒否するように頭が動かない。
関わらない方が良い、と頭の中で警笛が鳴った。
リョウは私がここに住んでいることは知らない。
だとしたら、どうすればいいのかなんて簡単だ。
私はじっと手の中の携帯を見つめる。
そう、この携帯さえ閉じてしまえば、接点がなくなることを私は知っていた。
電話帳を削除しますか?
確認メッセージを見ながら、ほんの少し躊躇する。
それは中学を出たばかりのリョウとの記憶が、唯一の人間らしいものだからかもしれない。
リョウとは損得関係なく、似ているという居心地の良さだけで一緒にいたのだから。
それでも。
これから先、穏やかに暮らしていきたいというエゴだけを胸に、私は削除実行ボタンを押した。
唯一心置きなく話ができる友達を、私は自らの手で抹殺した。
携帯はあっけないほど簡単に、私の手の中で光を失くした。