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終わる、世界  作者: 美咲
第2章
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演奏会の日を私は指折り数え、楽しみに待った。

楽しみなのは一流の演奏を聴くことも、野田と店の外で会うことも両方だ。

何を着ていこう。どんなことを話そう。

そんな恋する女の子のような自分が気持ち悪くて面白い。

久しぶりの浮ついた気分の中、毎晩バイトに行ってステージに上がり、帰って泥のように眠る。

そして起きたらピアノの練習をし、その繰り返し。


そんな擬似恋愛のようなドキドキも飽きてきた頃。

ようやく件の演奏会当日がやってきた。

最近の私の日ごろの行いが良いからか、カーテンを開けると痛いくらいの晴天の空が広がっていた。


待ち合わせのコンサートホールに着くと、野田はすでに待っていた。

あんな穏やかな性格で笑顔がよく似合うのに、真顔で立っている彼からは凛としたオーラが漂っていることに気付く。

いつもスーツ姿に見慣れてるせいか、ダウンコートを着てカジュアルな姿の野田は、店で見るよりも若く見えた。


「待たせてごめんなさい」


私はすまなそうな表情を作り、しおらしくお詫びの言葉を口にする。


「いや。張り切って早めに着いちゃったから」


そう言う野田と並んで歩き出し、その腕に自分の腕を絡ませようとして、やめる。

女性にあまり免疫がなさそうな野田にはそういうことをしてはいけない気がした。


「やっぱり店とは雰囲気違うね」


まじまじと見つめられて少しくすぐったい。

当たり前だけど今日は赤いドレスなんて着ていない。

黒いシンプルなコートと、その下に襟ぐりが開いた黒いニット。

それに小さく柄の入ったマーメイド型のスカート。

色々迷ったが、結局いつものオフ時の格好だ。


「…変?」


笑顔を引っ込めて私を見る野田に聞く。


「似合ってるよ。赤じゃない方が俺は好きだなぁ」


赤は自分でも大して似合ってると思わない。あれは戦闘服のようなものだから。

だから、その彼の言葉に思いがけず心が暖かくなった。




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