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終わる、世界  作者: 美咲
第2章
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帰宅した私は野田の名詞を眺めていた。

あの後何度かステージのために席を空けたけど、野田はずっと私を隣に置き、演奏中はじっと演奏に耳を傾けてくれた。

そして席に戻ってきた私に必ず演奏を褒める言葉をくれる。

それが嬉しくて、昨日の私の演奏は過去1,2を争うくらいの力のいれようだったと思う。

聞き手がいるといないとではこんなに違うものなのか。

単純な思考回路の自分が滑稽に思えてくるほど、私の中のモチベーションは上がりきっていた。

少なくとも、野田は私を気に入ってくれている。根拠はないが直感だった。


あの純朴そうな男のことだ。上手にアプローチすれば、きっと私を好きになってくれるだろう。

そうしたら私はたくさんのお金と、社長の恋人という地位を手に入れられる。

結婚制度が廃止になった今、本命の恋人という肩書きはひとつのステータスだ。

それを手に入れるために、まず何をしたらいいだろうか。


化粧を落とそうと鏡の前に立ち、自分の顔をじっと見つめた。

釣り目気味のせいか、きつい顔をしていると自分でも思う。

男がきっと好きであろう女らしい顔立ちではない、気の強そうな顔。

でも決して醜くはない。


もし可愛らしい笑顔が似合う女の子だったら、私の人生は変わっていただろうか。

もっと簡単に欲しいものを手に入れられていただろうか。

そう考えてすぐにやめる。

もしかしたらなんて考えは人生において無意味なのだから。


ただ、高慢そうなこの顔も、私は嫌いではない。

冷たそうな外見だけに、笑顔を向けるとそわそわする男もたくさん見てきた。

ギャップに弱いのは男も女も共通だ。

これはひとつの武器になる。

有効利用できるものは遠慮なく使っていかなければ。


化粧を落とし終わるとまた今夜のバイトのためにすぐにベッドにもぐりこんで目を瞑るが、眠気が全く襲ってこない。

珍しく少しテンションが上がっているらしい。

しばらくベッドの中でじっとしていたが、冴えきった頭に根をあげ、私は起き上がった。

机に放り出してあった、購入したばかりの楽譜を手にとってピアノに向かう。


強引に実家から持ってきたグランドピアノは私の大切な宝物だ。

年に数回の調律は欠かさないし、面倒臭がりの私だけれど手入れもきちんとしていて、黒い身体は毎日キラキラと輝いている。

そんなピアノを一通り優しく拭き、椅子に腰掛けて1番上に置かれていた楽譜を手に取った。


『ラヴェル:ソナチネ』


以前聴いてとても感動した曲。いつか弾いてみようと思っていた。

ラヴェルの曲は透明感があり独特な曲調が特徴だ。

ざっと楽譜に目を通す。入り組んだ音符の群れに、良い曲だけれど簡単には弾けないなとため息をつく。

けれど眠くなるまで譜読みをしようと、私は楽譜を読みながらゆっくりと鍵盤に指を落とし、音を拾い始めた。




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