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それからリョウとは頻繁に会うようになった。
似た者同士の空気がそうさせるのか、居心地はいつでもかなり良かった。
友達はいらないと友達付き合いを絶ってきたけれど、
こういう気を使わなくていい友達ならいても悪くない。
一緒にいて分かったのは、普段の彼は至って普通の人だということだ。
毎日毎日柄の悪い仲間とたむろって敬われていたから、勝手にリーダーだと思い込んでいたし、
実際そうなんだけれど、彼の方は周りに集まってくる男達を仲間だと意識していないようだった。
いつか噂されていたようにケンカは確かに強い。
キレると弱った相手でも容赦しない事も事実。
そんなリョウを見て、中途半端にイキがる男共は彼と仲良くなりたがった。
リョウはそんな彼らにはあまり興味がないらしく、誘われれば応じ、
結果毎日同じメンツと出かけていることが多いと私は知った。
そんなリョウが突然女連れで歩くようになったから、
彼の周りの人々は私の事を彼女だと思い込んでいた。
そしてその事を突っ込んで聞いてくる人もいなく、私もリョウもわざわざ否定しなかった。
それに彼女というのも当たらずとも遠からずではない。
リョウの家で過ごすことが増えた頃から、私とリョウは寝るようになっていたから。
お互い恋愛感情なんて当然ないが、2人の雰囲気から付き合っていると想像する人もいたんだろう。
初めてセックスをしてみて、私は更に愛というものの無意味さを知った。
好きな人とするものだと声高に言われているけど、
愛がなくてもできる事だという事が身をもって分かった。
実体は単なるコミュニケーションのひとつ。
なのにそんな愛の行為のような固定観念を植えつけるから、
できる事なら2人の子供が欲しいなんて安易に考える馬鹿な輩が出てくるのだと思う。
『愛とは相手を幸せにしたいという事だよ』
小さい頃、海を見ながら両親が言っていた言葉を思い出す。
(…嘘つき)
私は思い出の中の両親の影に背を向ける。
幸せにしたいのは、誰だって自分以外に考えられないはず。所詮、愛なんて偽善者の綺麗事だ。
しかし、ある日私に小さな事件が起こった。
相変わらず外ではバイト、家ではピアノに明け暮れ、合間にリョウと会う日々の中、
いつものようにリョウの家で私は雑誌を読み、奴はテレビを見ていた夕方のことだった。
「好きだ」
と、突然リョウが言った。
なんの冗談かと私は面倒な気持ちを抑えて振り返る。
でもそこにあったのは、いつもの無関心な彼の目ではなかった。
らしくもなく、優しさの満ち溢れるような目で私を見ているのを目の当たりにして、
私は呆気にとられた。何も言葉が出てこない。
混乱した私はそのまま無言で立ち上がり、リョウの家を後にした。
彼の言葉に嬉しいとか悲しいとか怒りとか、全く何も浮かんではこなかった。
そして。
数日後、私は誰にも告げず上京した。
ダンボールに1つに収まる程度の荷物と、ピアノ配送の手配だけして。




