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それからもその集団は頻繁に来店したが、前のように無遠慮に騒ぐ事はなくなった。
そして何度も顔を合わせるうちに、オーダーのついでや通路ですれ違う時に、リョウとはよく話をするようになった。
天気の話だったり、下らない冗談だったり、どうでもいい些細な話。
集団、中でも特にリョウはどこにいても目立つものらしい。
更衣室では暇なバイト仲間が彼らの良くない目撃談が囁かれるようになっていった。
「こないだケンカしてるところ見たよ」
「すごい無表情で殴ってた」
「相手が土下座して謝っても容赦しないんだって」
そしてリョウと談笑する私まで好奇の目で観察される。
バイトで仲間と仲良く馴れ合う気のない私にはどうでもいい事だったけど。
興味津々といった顔で「どういう関係?」だの「怖くない?」だの詮索されるのが鬱陶しかった。
どうせ何を言っても噂話上、都合のいいように解釈されるのがオチだ。
だから無難な答えを毎回しておいた。
リョウがどんな人間だろうと知ったこっちゃない。世間話はするが、ただの客だし興味もない。
それは紛れもない本心だが、ただ、時折見せるひどく冷め切った視線。
それが自分の持っているものと似てる気がして、内心私はリョウに親近感を感じていた。
ある日、私は外の町を暇つぶしがてら歩いていた。
この頃はもう自分の生まれた町なんて1秒でも居たくなかった。
何も用がなくても外の町の人通りの多い道でボーっとしたり、適当なカフェで空気も読まずにコーヒー1杯で何時間も居座る、そんな日々を過ごしていた。
両親とは相変わらずまともに口もきいていない。
たまに中学までの友達とすれ違っても、極力うつむいて声をかけられないように足早に通り去った。
だからといって外の町に仲の良い人がいるわけではないが。
どこへ行っても1人。
とても気が楽だ。
「何してんの?」
行く当てもなくふらふらと歩いていると、見知った顔。
「あ。こんにちは」
リョウだった。
この人が取り巻きも連れず1人でいるところを見るのは初めてな気がする。
「・・・1人なんですね」
つい声に出してしまい、慌てて口をつぐむ。下手に機嫌を損ねたら厄介そうだ。
しかし予想に反してリョウは口元を歪めてにやりと笑った。
「1人だよ、俺は。どこにいても」
自嘲気味な言葉。
自分と重なる台詞にますます親近感を覚える。
「今日はバイト?」
「いえ。休みです」
「じゃあ飲みに行かない?」
「・・・え?」
この時、私はまだ16歳かそこらだ。飲みに行くなんて発想はしたことがなかった。
「いいですよ」
なのに、そう答えてしまったのは単にヒマだったから。
お酒という言葉に魅力を感じる年頃でもあった。
そのまま、まだ夕方なのに安居酒屋に入り、飲み慣れないお酒を飲みながら意外にも話は盛り上がった。
けれどそこで分かったのは、一緒にいる空間が割と居心地が良かったことくらい。
お互いどうでもいい話ばかり話題にして、どちらもあえて深いところには突っ込んではいかなかったから。
多分リョウも私の中の孤独には気付いていたのだろう。
似ている部分が多いのも勘付いていたに違いない。
でも残念ながら、私達は他人の心の中には正直あまり関心がなかったようだ。
それでも何かに満足した私達は、お互いのアドレスを交換し、いつも通りのテンションでその夜は上機嫌に手を振って別れた。