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「Happy Milleninum!」
時計の針が0時を指し、誰かが叫んだ。
続いて甲高い女の嬌声やグラスを合わせる音が飛び交い、
店内はお祭り騒ぎのような熱気に包まれた。
西暦三000年の幕開け。
大気、海水汚染や環境破壊によって人類は地球上で生きていけなくなり、
おそらく西暦三○○○年は越せないでしょう、と大昔の学者達は口を揃えて力説していたけど、
現に今、ミレニアム・イヤーはスタートした。
地球は確かに終わりに向かっている。
いや、変わりつつ環境に対応できない人類だけが終わりに向かっているというべきか。
こんな地球にしたのは人類だというのに。
だとしたら当然の報いなのかもしれない。
この数百年で海水はみるみるうちに上昇し、水没する地域も増えた。
ひどい大気汚染のせいで、外に出る時はマスクを着用しなくてはならない。
昔の資料に載っていたような美しい青い地球は見る影もなく、
今では茶色のようなグレーのような薄汚い色に変わってしまっている。
それでも私達人類は、まだしぶとくこの世界の頂に君臨していた。
…都合の悪いことには、お約束のように全部目を瞑って。
「瑠璃ちゃんお願い」
スタッフに呼ばれて客と乾杯をしていた私はステージへ向かう。
六本木の会員制クラブ『MB』。
金持ちしか入れないこの店で、私はピアノ奏者としてアルバイトをしている。
広い店内の中央にピアノが置かれ、綺麗な衣装を纏い、BGM程度にピアノを弾く役目だ。
当然まともに演奏を聴く人なんていない。
ここは皆お酒を飲んだり、女の子と騒いだりするために来ているから。
ピアノは高級クラブを演出するためだけの、ほんのお飾りなのだ。
でもその方がいい。
私にそんな人を惹きつけるような腕がない事は自分でも痛いくらい理解している。
いつか本物のステージでリサイタルを開きたいとは思うが、
私の腕ではそんな事は夢物語に近いだろう。
けれど、もしかしてという希望を持ちながら、ここで修行を積んでいる。
ただ弾くだけなのにバイト代はびっくりする位貰えた。
今の時代にピアノが弾けるなんて無駄な特技を持つ人はごく僅かだから。
美味しいお酒と、客と女の子の空騒ぎと、無意味なピアノ。
そんなこの店が私はとても好きだ。
それに。
何より私には野望があった。