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#94

「コーイチ様、こちらです!」


「わかってる。ちゃんとついていくから無理に引っ張らないでくれ!」


 お昼ごはんも食べて元気いっぱいといった様子でアイリスが浩一の手を引きながらに森の中へといざなう。

 それ自体は約束もしていたし構わないのだけれども。勢いよく、かつ、森の中という悪路の中を引っ張られてしまうと、どうにもつんのめりそうになってしまう。


 アイリスも、しばらく進んだ頃合いでそのことに気づいてくれたようで。少し肩を落としながらに謝ってくれる。

 まあ、彼女の性格上、気持ちが前のめりになってしまった、というような話ではあるのだけれども。


「ふふっ、やはり、仲がよろしいのですね」


 一緒についてきていたフィーリアが、いくらか遅れてやってきながらにそう言ってくれる。


 ちなみに、風花たちはお昼ごはんの後片付けをしてくれている。浩一も手伝おうとしたのだけれども、案の定というべきかまたかというべきか、追い出されてしまった。

 ちなみに、ルイスやレオに加えて、マーシャも後片付けに参加している。


「まあ、俺自身、随分とお世話になっていますしね」


 フィーリアにはヴィンヘルム王国へとやってきた詳細な経緯については伝えていないが、遠方から諸事情あってやってきて、アレキサンダーのもとで厄介になっている、ということは伝えている。


「そのときから、ずっと頼りにさせてもらってるので」


 浩一がそう言うと、アイリスはどこか照れくさそうに笑ってみせる。


「ええ、とてもお似合いに見えますよ」


「ほ、本当です!?」


 フィーリアが言ったその言葉に、食い入るようにしてアイリスがそう反応する。

 そんな、気になることだったのか、それ。


「はい。まるで兄妹のような、そんな仲の良さを感じます。……なんて、少し失礼だったでしょうか」


 そう言ってみせるフィーリア。

 たしかに浩一の立場からアイリスのことを妹扱いするというのは不敬にあたるのかもしれないが、しかし、フィーリアのいわんとすることもよくわかる。

 浩一自身には妹や弟はおろか、兄や姉もいない身ではあるものの。なんとなく、アイリスからの接され方がそういうものに近いのだろうな、と感じることは多い。

 体感としては、風花との距離感に近いだろうか。

 なんなら、アイリスの行動は浩一のより近くで興味津々に接してきているあたり、殊更妹の属性が強いように思う。


 浩一がそう納得している傍らで「兄……妹…………」と、先程の食いつき様がまるで嘘のように、打って変わって落ち込み気味になっているアイリス。

 やはり、直接に妹扱いするのは不敬にあたるのかもしれない。気をつけよう。


「兄妹といえば、フーカさんはコーイチさんのお姉さん……ではないんでしたね」


「……その点については、すみませんでした。風花が、ややこしい物言いをしていたようで」


 浩一がアルバーマ男爵との協力関係を結んだとき、王都での用事が残っていた浩一に先立って風花がアルバーマ領に向かっていたが、その際に風花は自身のことを浩一の姉であるとフィーリアをはじめとした関係者たちに告げていた。

 浩一がアルバーマに再度訪れた際にはひどく驚いたし、誤解を解くのにまあまあな手間を要したのが少し懐かしい。


 おかげさまで、未だに一部の人間にとってはややこしい事象となってしまっている。


「まあ、いろいろと空回りすることはありますけど、間違いなくいいやつではありますよ」


 風花は姉であろうと立ち居振る舞いを行っている――まあ、風花のそれが姉っぽくあるかについては審議だが。

 そういったことだって、彼女なりに浩一のことを気にかけてくれているからのことである。

 ただ、そのせいで無理を押し通したりするような性格も持ち合わせてしまっているのだが。


「もし、気がついたら。少し風花のことも気にかけてやってください」


「もちろんです! フーカ様も大切なお友達ですから!」


「ええ。コーイチさんにとって大切な方は、私にとっても大切ですからね」


 浩一のその頼みに、アイリスに続いて、フィーリアもそう言ってくれる。

 なぜか、アイリスが謎にフィーリアに対して「むむむ」と眉をひそめていたが。


「ありがとうございます。……風花のやつ。俺が無理をするな、と言ってもあんまりまともに取り合わないんで」


「……まあ、そうでしょうね」


「フーカさんの方が正しいですね、ええ」


 アイリスとフィーリアが、なぜか、口を揃えて風花の方に同情する。

 解せぬ。











「おねーさん、こんな感じでいい?」


「うん、ありがと。マーシャ」


「えへへ、お皿を拭くくらいなら私にもできるもんね」


 ぺかーっと、明るい笑顔を浮かべながらにマーシャはそう言う。

 その手にはタオルが握られている。


 そんな彼女の隣では、同じく洗った皿の水気を拭き取る役目をしていたレオが「俺のほうがいっぱい拭いたぜ!」と謎の自慢を繰り広げていた。

 なお、対抗心を燃やそうとしたマーシャだったが、当のレオの方が即座にルイスによって「レオくん、もうちょっと丁寧に拭こうね」と連れて行かれていた。


「しかし、まさかマーシャから手伝いを申し出てくれるとはね。あなた、家事の類苦手でしょ?」


 風花がそう言うと。あはは、とマーシャが苦笑いをする。


「もしかして、服を汚したことを気にしてるの?」


「……まあ、それがないとは言わないけど」


 事実として、マーシャはこの短時間で二度も服を汚している。そのことを気にして、せめてやれることくらいは、と考えたのかとも思ったのだが。

 どうにもはっきりとしない回答を見るに、それだけではないらしい。


「うーんとね、私自身、こう、はっきりとわかってるわけじゃないんだけどさ。なんか、おねーさんが大変そうだなって」


「……それは、段取りとか片付けをやってるからってこと?」


 マーシャのその言葉に、風花は一瞬言葉を詰まらせながらに、そう聞き返す。


「それも、なくはないんだけど。こう、なんていうのかな。ものすごく徹底して、おにーさんに仕事をさせないようにしているというか」


「まあ、それはそうね。そうでもしないとアイツちゃんと休まないだろうし」


 せっかく浩一に休めという名目で与えている休日だというのに。手伝わせてしまっては本末転倒になりかねない。

 そもそも、身体を休めろ、自分の時間を確保しろ、という意味合いも含まれているのが今回の休みなのだが。こうして付き合わせてしまっているアイリスたちに退屈じゃないように、と気を回させてしまっている時点で完全に休めているのか、というと難しいが。

 まあ、浩一の性格上。このあたりまで縛り付けてしまうと、却って気に揉みすぎるのだろうが。


「……それもそうなんだけどね。こう、なんていうのかな。そうじゃないなにかもあるような気がするんだよね。おねーさんの、おにーさんに対する接し方がちょっと、違うような?」


「なに? 私が浩一に対してなにか気を持ってる、みたいなこと?」


「えっ!? そうなの!?」


 マーシャが目をまんまるに丸めながらにそう言う。

 そんな彼女に「なんでそっちが聞き返してるのよ」と風花は小さく笑う。


「まあ、そんなことはないから安心なさい。私にとって浩一は弟みたいなものだからね」


 ふふ、と。風花はそう言うと、マーシャの頭を優しく撫でる。

 なぜ撫でられているのかはわからないけれど。撫でられるのは嬉しい。


 でも。


(……なんか、違う気がするんだよね)


 いったい、なにがどう違うのか。それがそもそも、わかってないけれど。

 うーん、と。マーシャは首をかしげていた。

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