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#74

 翌日。今日こそは大丈夫だ、というアイリスを伴って。アルバーマの中心街、アムリスへと移動をする。


 ……が、


(うーん、まあ、昨日よりかは、結構落ち着いてはいたけど)


 お世辞にも、落ち着いた運転とは呼べない状態の箒であった、アイリス。

 当然ながら、それを最も痛感しているのはアイリスではあり。しょぼん、と。凹んでしまっている。


「ひとまず、俺はアルバーマ男爵のところに話しに行くけど。アイリは――」


「わ、私もお供しますのっ!」


 なにか、大きな焦りに駆り立てられているような。そんな表情を浮かべているアイリス。

 どうしてそんな状況になってしまっているのか。それのほうが心配ではあるものの。しかし、


「わかった。それなら、一緒に来てもらおうか」


「はいっ!」


 浩一の言葉に、アイリスはそう答えると。ぎゅっと確かめるようにして、その拳を握りしめていた。

 それが、変な空回りであるとか、空元気ではなければいいけれど、と。

 少しの不安を感じながらに、浩一はアルバーマ男爵の邸宅に向かった。






「今日はわざわざ、それに、急に時間をつくってもらってすみません」


 浩一とアイリスがアルバーマ男爵の元を訪れると。彼と一緒に、フィーリアも臨席している様子だった。


「いや、構わないよ。コーイチ殿。君からの要請なのだから、ある程度ならば都合をつけるというものだ」


 鷹揚としながらに、大きな笑いをしながら、アルバーマ男爵がそう言う。相変わらずではあるが、いろいろと大きな人間である。


 ……まあ、単純に浩一のことを信頼してくれている、ということでもあるのだろうが。アルバーマ男爵は浩一の後ろにアレキサンダーが立っていることを知っている、ということも大きいのだろう。


 しかし、昨日にアルバーマに戻ってきたばかりで。その際に一緒に連絡を入れて、その翌日に対応してくれる、というのは単純にありがたい話ではある。通常だとありえないスピードだろうし。


「それでは、いろいろと話をしていこうか。お互いに、共有したり、擦り合わせたりしたいことがあるだろうし」


 しっかりとこちらを見据えながらに、アルバーマ男爵はそう言ってくる。

 アルバーマ男爵は現在、浩一たちに協力をしてくれている立場ではある。もちろん、互いに利があるからこそ協力をしてくれているのだが。それでも、いや、だからこそ、しっかりと情報の共有は重要ではある。


 ……とはいっても、正確にはこの場にいるフィーリア伝いである程度は伝わっているのだろうが。しかし、代表者である浩一が伝える、ということが。形式上だけであっても重要ではあるだろう。

 特に、アルバーマ男爵については馬車鉄道の試験的な運用と、蒸気機関車の開発についての全面的な協力をしてくれているのだから、なおのこと。


 現状での進展具合や諸々の開発状況。敷設が完了している線路の範囲など。現行についての話をして。

 その上で、ここからどのように進めていくのか、ということについてを互いに話し合っていく。


「……事前に聞いてはいたが、やはり蒸気機関というものの開発が最も厄介みたいだな」


「そう、なりますね。今もマーシャが頑張ってくれているようですが」


「まあ、そんなに急ぐものでもあるまい。もちろん、進展ゼロなのはアレではあるだろうが。どのみち、まだ線路の敷設も完全ではないのだしな」


 現状の馬車鉄道だけでも、それなりに実績が出ていることもあるし、と。アルバーマ男爵はそう付け加えてくれる。


「……さて。とりあえず、ひとまずしばらくの展望についての擦り合わせはできたと思っているんだが。これ以外についてはコーイチ殿からなにかあるだろうか?」


「それなんですが、実は王都に呼ばれたことについて、少し仕事が増えまして」


 ちょうどよいタイミングだろう、と。浩一はアレキサンダーから任された仕事についてを話す。


 それを聞いたフィーリアは想像をして、青い顔を浮かべて。アルバーマ男爵は「なかなか、無茶なことを言われたな」と、同情混じりの苦笑を浮かべてくれていた。


「それで、アレキサンダー様からはレーヴェ子爵家かフィーリッツ侯爵家から向かうといいだろう、と。そう助言を貰ったんですが――」


「なるほどな。レーヴェ子爵家ならば、当家から紹介することができるだろうな」


 全てを話すまでもなく、アルバーマ男爵はきちんと解釈をしてくれたようだった。ありがたい話ではある。


「そうだな。それならば……フィーリア、いけるか?」


「私ですか? ええ、大丈夫です。レーヴェ子爵のところであれば、私個人としても御令嬢と親交がありますし」


 コクリ、と頷いてくれているフィーリア。つまりは彼女がついてきてくれて、そのまま手伝ってくれる、ということなのだろう。

 たしかに鉄道事業としてのアルバーマ側の窓口を手伝ってくれているフィーリアなのだから、役割としては十分、ではあるのだが。


「あー……」


「なにか、問題があるかい? コーイチ殿」


「いや、フィーリアさんに問題がある、というよりかは、どちらかというと……」


 浩一がどう説明したものかと悩んでいると、隣で控えてくれていたアイリスが「私ですわ」と、そう口を開いた。


「コーイチ様の移動は私が代理しているのはご存知かと思うのですけれど。最近、少し制御がブレ気味でして。それで、思わず全力スピードで飛んでしまうことなんかがありまして」


 彼女自身気にしていることであり、なかなか答えにくいことではあっただろうに。アイリスはしっかりと、自分でそう説明をした。


 アイリスが浩一を連れて全力で飛ぶだけならば、浩一がなんとか振り落とされないように気をつけるだけで大丈夫なのだが。しかし、そこにフィーリアが伴うとなれば危険である。

 彼女に無理なスピードを出させるわけにはいかないし、それに付いて来れるとしても、無茶苦茶な魔力を持って飛んでいるアイリスの隣でフィーリアが飛ぶとなると、魔力の干渉による危険が及ぶ。


「なるほど、たしかにそれは危険かも知れないな……」


 顎をゆっくりと撫でながらに、アルバーマ男爵はそう答えた。

 馬車などで移動することも可能ではあるが、領内ならともかく領を跨ぐとなるとかなりの日数を要するだろうし、浩一やアイリスならともかく、フィーリアまでその時間を拘束するわけにはいかない。

 ならば、書状だけになってしまうが、と。そう妥協点での結論を彼が出そうとした、そのとき。


「あ、あの!」


 と、ひとつの声が割り込んでくる。

 ここまで、ほとんど聞き手に回っていた、フィーリアだった。


「フィーリア? どうかしたか?」


「お父様、それから、コーイチさん。その、ええっと」


 彼女は少し、悩みながらに。しかし、首を横にふるふると振ってから、意を決した様子で、口を開く。


「私、まだ、少し自信はないですけど。できるかもしれません!」


 バッ、と。立ち上がった彼女は。しっかりと、浩一へとその視線を向け。

 真っ直ぐな瞳を投げかけながらに、宣言をする。


「コーイチさんを乗せて、飛べるかもしれません!」


 力強いその言葉に、その場にいた他の全員が、思わず息を呑んだ。


「それは、本当か? フィーリア」


「た、多分、ですけど。……でも、練習、してましたから」


 そういえば、たしかに以前浩一もそんな話をされた覚えがある。

 まさか、社交辞令の類ではなく、本気だったとは思わなかったけれど。


「……なら、一度本当に飛べるかどうかは試してみないといけないのだろうが。けれど、事実であれば」


「はい、私がコーイチさんをレーヴェ領へと案内すればよいかと」


 どうでしょうか、と。フィーリアが浩一に確認をとってくる。


 浩一としては、連れて行ってくれるのであれば、ありがたい限りではあるし。……もちろん、貴族令嬢であるフィーリアを足役にするのはどうなのだ、という話もあるが、もはやアイリスの前例がある以上、ここまで来ると誤差ではあるだろうし。


 しかし、浩一がチラとアイリスのほうを見てみると、彼女はどこか複雑そうな心境をその表情に浮かべていた。

 なにか、彼女としても思うところがあるのだろうか、と。……申し出としてはありがたい話ではあるものの、断ろうかと考えていたとき。


「よいのではないでしょうか、コーイチ様」


 と。先に口を開いたのはアイリスだった。


「……いいんですか?」


「いいもなにも、コーイチ様のことですし。なにより、まだ私自身、体調が本調子ではないようなので、少し休んでおこうかな、と」


 そう言いながら、アイリスはニコリと笑顔を表情に浮かべていた。しかし、いつものように花が咲いたような爛漫な笑顔ではなく、少々無理をして作っているものなのだろう、ということは見て取れる。


「そういうわけなので、フィーリアさん。コーイチ様の案内を頼んでも良いですか?」


 どう、判断したものかと浩一が困っていると。アイリスが、そう、先に伝えてしまう。


 フィーリアからの返事は、もちろん了承。これで、解決、ではあるものの。


 浩一は、どこか引っかかるような心境を覚えていた。

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― 新着の感想 ―
ライバル出現・・・知ってた。 蒸気機関車は、蒸気機関に限れば、元々は鉱山の排水用だったから、 固定する動力ならば大きさの制限なしに作れるので、 それで何度か実験するのもアリだろうな。
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