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#19

 ここに来るのは、いつぶりだろうか。

 このヴィンヘルム王国に迷い込んでからというもの、あっちにこっちにと多忙に過ごしてきた。浩一が頭の中でカレンダーを(そら)んじてみるも、どうにもあたりがつかない。

 それほどに、長くの間を過ごしている。とも言えるが。


 森の中に着地して、カンテラに灯をつける。こういう場所で、手軽にパッと明かりの確保ができるのは本当に便利だと感心する。

 とはいえ、利便性云々で言うなら。間違いなくアイリスがしているそれのほうが便利なのだろうが。ぷかぷかと彼女の周りを浮かぶ光の球に、浩一はそっとそんなことを思う。


 浩一とアイリスは、お互いの光が見えなくならないように気をつけながら、少し距離をとって捜索を始める。目的は、光っていたなにかの特定。

 あるかどうかも確かではないそれは、探し続けるには少し不安は伴うものの。しかし、浩一にはなんとなくの確信として、あるんじゃないかという気持ちがあった。


「状況に、聞き覚えがありすぎるんだよ……」


 浩一とアイリスが出会った森で、光が発生した。これだけなら、確信まで行くには少し弱いだろう。

 だがしかし、これらの情報をもう少し正しく言って見るならば。


 浩一がこの国に迷い込んだときの森に、浩一がやってきたときと同じく、光が発生した。


 その、聞き覚えのある状況に。もしかしたら同じ、あるいは似通った現象が発生しているのではないかと。そう思ってしまう。


「コーイチ様! こちらですわ!」


 しばらくの捜索の後、そんな声が静かな森の中を走った。

 そちらを向くと、光がゆらゆらと揺れていて。アイリスが呼んでいるのだろうということが察せられる。


 浩一はカンテラで足元を照らしながら、転ばないように気をつけて歩き進める。ある程度進むと、距離も近づいてきたようでアイリスがなにか喋っている声が聞こえてくる。

 大丈夫ですの? であるとか。あるいは、怪我はなさそうですわね。だとか。

 更に近づくと、状況もハッキリと見えてきて。同時、アイリスの方からも浩一が到着したことに気がついた。


「コーイチ様! こちらの女性が、ここに倒れて」


 その、既視感のある光景。……ただし、見る側と見られる側と、全くの逆側からではあるものの。しかしそれに、自身の予想があたっていたことを確信する。

 だがしかし、それと同時に。現実は予想を更に超えて、驚きを与えてくる。


「しかし、変わった服装ですわね? どこの方でしょうか」


「アイリ、ちょっと下がって」


 倒れている女性に不思議がっているアイリスを少し後退させ、代わりに浩一が近くに寄る。

 どうやら気絶しているのか、あるいは寝ているのか。どちらかはわからないが現在意識がない様子である。


 浩一はその女性の頭をすっと片手で持ち上げ、自身の近くに寄せると。


「おい、風花(ふうか)。起きろ」


 と、そう呼びかけて。女性の頬をペチペチと叩き始める。

 突然のその行動に、アイリスが驚き。浩一のその行動を止めようとする。

 元より力は込めていなかったため、アイリスの制止により浩一の手は簡単に止まる。

 大丈夫ですよ、心配しないで、と。そう言う浩一にアイリスがそんなわけ無いでしょう、と言い返そうとした、そのとき。


「ううん……」


「やっと起きたか」


 女性が少し身体を捩らせ、ゆっくりと、その顔を上げる。

 目も開いて。どうやら、ちゃんと気がついたらしい。


「それで、どうしてお前がこんなところに――」


「浩一ッ! やっと見つけた!」


 予想だにできないこと、というのは起こり得るもので。まさかそんなことになるとは思っていなかった。

 おかげさまで力は込めていなかったため、向かってきたそれの動きのままに、俺の身体も動くことになる。


 女性の身体が浩一の身体に覆いかぶさるようにして、もとい、抱きつくようにして。そして、それを受け止める準備をしていなかった浩一もろとも、そのまま倒れ込んでしまう。


「痛つつ……おい風花、なにするんだよ」


「あ、ごめん。思わず、つい。……じゃなくって、なにしてるってのはこっちのセリフなんだけど!?」


 なにやらお怒りの様子で、こちらになにがしかを物申したいと。正直そんなに心当たりがあることはないのだが。

 そんなことを思っていると、控えめな声で「えっと、あの?」と。

 その声に、浩一も、女性も。同時にそちらを向く。


「そちらの方は? コーイチ様の、お知り合いなのです?」


「ああ、すまないアイリ。ええっと知り合いというか」


「家族よ!」


「幼馴染だ」


 彼女の言ったその言葉に、浩一がすかさず訂正を入れる。むう、とむくれる女性だったが、さすがに初対面の人間にその冗談は洒落にならない。

 おかげさまで、アイリスは首をコテンと傾げてしまっている。


「アイリ。えっと、こいつは風花。雪城(ゆきしろ) 風花ってやつで、俺の幼馴染だ」


「フーカ様、でよろしいのでしょうか?」


 様は不必要な気もしなくはないが、浩一にもつけているあたり、アイリスの呼びやすい呼び方なのだろう。そう思い、浩一は特に指摘しないでおく。


「それで、風花。いったいどうしたんだ?」


「どうしたもこうしたも、全部浩一が急にどこかに行っちゃうのが悪いんじゃない!」


 風花はそう言いながら、浩一の肩に手を掛け、その身体を前後に大きく揺さぶる。抗議の意があってのその行為なのだろうが、首周りが痛いのでやめてもらいたい。

 だがしかし、彼女のその言葉に。浩一は合点する。完全に失念していたが、そういえば――、


「大学の教授から、浩一が突然講義に来なくなったって連絡を受けて。連絡しても繋がらない、部屋に行ってももぬけの殻」


 すっかり頭から抜け落ちていたのだが、元の世界で考えるなら浩一は失踪しているわけで。

 そして、行方不明になっていた浩一を探していたら、風花がここにたどり着いた、と。


「浩一のスマホの位置情報(GPS)が途切れたところを探してたら」


「……なんか聞き捨てならないことが聞こえた気がしたが、まあひとまず置いておくとして」


 さて、どこから彼女に説明するべきだろうか。と。

 この世界が浩一たちのいた世界とは別の異世界である、ということとか。目の前にいるアイリスがこの国の王女である、とか。そういう話をするべきなのだろうが、どこから触れても彼女が仰天して、なおかつ、到底信じられないとでも言うだろう。

 だからこそ、風花に理解、納得してもらうためにどこから話していくべきかと考えていると。そんな浩一をさておいて彼女は立ち上がり、そして、浩一の手を取って。


「ほら、浩一! さっさと帰るわよ!」


 今期の単位は全滅かもだけど、事情を話せばなんとかなるかもしれないし、と。風花はそんなことを言いながら浩一の腕を引いて立たせる。


「帰る、か」


 そういえば、忘れていた。どうやって帰ればいいのかがわからないから、思考から抜いていたという側面も無くはなかったが。

 この世界は浩一にとって自分のいた世界とは別物なわけで。間違いなく、元いた世界が存在しているわけで。

 ふと、アイリスに視線を遣ると「あっ」と、同じく彼女も浩一と同じことに気づいた様子で。その表情になんとも言えない悲しみが宿っていた。


 帰り方は未だわからないままではあるものの、浩一を追ってやってきた風花が同じくヴィンヘルム王国に迷い込んでいる以上、同じくどこかしらには元の日本に向かうことができる場所があるやもしれない。

 浩一の失踪に関して、風花のように心配している人間も少なからずいるわけで。そうであるならば、どうにかして変える方法は考えるべきなのだろう。


 そのことを察してしまったがゆえに、アイリスも。なんともやり切れないような表情をしている。


 面倒な空気感だな、と。そう思いながら、浩一は頬をポリポリと掻いて。そして、


「風花。悪いが――」

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― 新着の感想 ―
またヒロインが増えた。ハーレムものだったんだこれ。
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