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04:プールの怪異

急いで書いたので、見直ししてません

余裕があったら手直し予定

白さも眩しいセーラー服を着た女子たちがもつれ合うように歩いていた。

きゃっきゃうふふ、とさんざめく声も若やいでいる。


彼女たちからしたら有り触れた朝の風景。


だが、ここにその日常の貴重さを知っている少年…いいや、少女がいた。

薫だ!

少女の姿の薫である。


彼…もとい彼女はこの光景をガン見しつつ、神に感謝していた。

薫は凡人である。どうしようもないほど、普通の一般的な、むしろ平均よりも下の少年である。

だからこそ、彼は知っているのだ。

今。

この瞬間。

この時を逃せば、お嬢様学校の生徒を間近で凝視できる経験は2度と来ないということを!


「おっはよ!」


と登校中の女生徒の1人が、友人に背中から抱き着いた。

そのまま抱き着いた生徒は友人の胸を揉むと


「あんた、ま~~た大きくなったんじゃない?」

「なんだよね、困っちゃうんだけど」


揉まれた方も慣れているのか、とくだんの抵抗もなく応えている。


見ていた薫は雷でも喰らったみたいなショックを受けた。


女子校特有の距離感はフィックションじゃなかった!


そして考える。

もしかして。俺が同じことしてもスルーされるんじゃね?


『あ、友達と間違えちゃった。ごみ~~ん』


てへぺろり。

とでもしとけば、ワンチャンあるんじゃね?


だって俺、女だし!

いけるいける、いけるって!


との判断を下して、行動に移そうとした時だ。


「まーた、変なこと考えてるでしょ」


ドスを利かせた声が薫を引き留めた。


「お願いですから、厄介ごとは起こさないでください」


懇願するような声も釘を差す。


スズメと志保だった。



私立わたくしりつ叡泉えいせん女子学園。

幼稚舎から、初等部、中等部、高等部、さらには4年制大学まで揃った、日本屈指のお嬢様校である。


今回、スズメと薫は叡泉学園の制服を着て、紛れ込んでいた。


それというのも。


「もっかい確認するわ、怪異が発現したのはプールなのよね?」


授業が始まって、人気のなくなった廊下を歩きながらスズメが確認をする。


「はい、外にあるプールです」


叡泉学園には室内温水プールが2つと、屋外プールが1つある。

事件はその屋外プールで起こった。


「外のプールは基本的に水泳部が使うんです。もちろん冬場は使えませんから、あったかくなってきた5月の下旬に掃除をして、お水を張り替えてから使うんだそうです」


今年も同じだった。

掃除をして、水を張り替え、さあ使うぞ! というところで、けれど


「台風が来てしまって」


1週間、放置していたそうな。


そうして、ようやくのことプールを使ったのだが。


「何人も水の中で、その…お尻や胸をさわられたらしくて」


最初は悪戯かと思ったのだが、如何にもそういうことをしそうな女子はかぶりを振る。


『なら、どういうことよ!』


揉めそうになった時だ。


鈍感というか度胸があるというか、いまだプールの縁につかまって水に浸かっていた女子が


『きゃーーーーーーーーーーーー』


金切り声を上げた。


『お尻揉まれた!』


大慌てにプールからあがった彼女は言ったのである。


「それからは出入り禁止にしてるんですけど、だんだん生徒たちにも噂が広がって、それに放置しておくのも不味いということで…」

「志保に依頼が来たってことか」

「そういうことです。お恥ずかしい話ですが、学園としても内内で処理したいらしく」

「ま、いいんじゃない。さすがはお嬢様学校だけあって、解決金の払いもいいし。借金の残りも返せるし、わたしたちにとっても渡りに船って奴で、WinWinよ」


あはははは、と馬鹿笑いしていたスズメは、ふと


「花園薫。あんた、妙に静かじゃないの」


俯いている薫に視線を向けた。


「ナナ先輩…俺はね、マジで許せねぇんスよ!」薫は顔を上げると

「何人もの女子高生にそんな淫らなことを」


こぶしをギリギリと握りしめて


「おのれええええええ!」


血の涙を流さんばかりに言ったのだ。


「花園さん…!」


志保が感動したみたいに言うのに


「騙されちゃだめよ」


チチチ、とスズメが指を振って


「ほんと、羨ましいわよね」

「代われるもんなら代わりたいっス!」


誘導された薫がついつい本心を口にしてしまった。


スズメと志保がドン引きした視線を向ける。


「…な~んちゃって」


薫は誤魔化そうとするものの、2人は見向きもせずにスタスタと先に行ってしまった。


「七星先輩。怪異の正体は何だと思われます?」

「十中八九は浮遊霊でしょうね」

「ですが、それならわたくしだけでも祓えます。お2人が来たってことは…」

「保険よ、保険。ここのとこ続けて災難が起きてるから」


災難、ですか?

志保が問いかけるのを、スズメは肩をすくめていなすと


「それにね、今回の作戦の肝はあいつだから」


背後の薫を振り向いたのである。


「へ? 俺っスか?」






「ひどいっスよぉおおおおおおおおおおおお!」


薫は訴えた。心の底から訴えた。


何故なら。

件のプールにアームヘルパーを付けた状態で1人プカプカ浮いていたからである。

もちろん水着だ。セパレート・タイプの男女兼用のやつだ。


「これってイケニエっスよねえぇえええええええ!」


対して、スズメと志保である。

2人はプールの外縁がいえんにビーチチェアとパラソルまでおっ立てて、すっかり寛いでいた。

セーラー服のままである。


「人聞きの悪い。囮って言いなさい、囮って」

「それって同じじゃねっスか!」


言った直後。へーーーくしょい! 薫が盛大にくしゃみをした。


かれこれ2時間は浸かっているのだ。

いくら猛暑日だとはいえ、6月の上旬。

体はだいぶ冷えてしまっていた。


「さすがに可哀想じゃないですか?」


薫の『代わりたい』発言を引きずっていた志保も、良心が咎めたのか温情を口にする。


「じゃあ、休憩する?」

「するっス!」


根性ないわね、などと言っているスズメの声が薫にまで届く。


あまりにも酷い扱いだ。


が。

薫は特段に酷いと思ってはなかった。


なんども言うが、薫は女子にとことん嫌われる体質だ。

人はとことん嫌うと、無視をする。


なもんで、こうして対話できている時点で、ちょっと嬉しかったりした。


不憫である。


そのうえ、スズメは超のつく美人だし、志保はバインバインだ。


こんな関係は今だけだ。

大人になったら、こんなプレイはお金を払ってもできない!


薫はそう心得てもいた。


そうなのだ!

花園薫はプレイの一環として、今現在を楽しんでいたのである!


取り消さねばなるまい、不憫という言葉を。


彼は。

花園薫は。


ポジティブ・ド・変態、なのである!


おまけにタダでは転ばない。

九十九神のハンディカメラでバッチリ2人を撮ってもいた。


もっとも。

いまだ再生の方法が見つかってないのだが。


うっせ、おいせ。スズメと志保が、薫の胴体に括りつけたロープを引っ張る。


アームヘルパーを装着した薫はうまく泳げない。

なもんで、素早く非難できるようにロープが括りつけてあった。


「あ~~~、美人女子高生2人に引っ張られるのも、これはこれで得難い体験ですな~~~」


などと悦に浸っていた薫の太ももを何かがヒュルリンとふれた。


「ん?」


と思ううちにも、胸や尻に感触があった。


「きたきたきたきた! たぁすけてええええええ!」


へるーーーーーぷ!


助けを求めた直後、薫はものすごいチカラで水中に引きずり込まれた。


見ていたスズメである。


「ロープはまかせた!」


志保に言うや、ペットボトルの水をプールに注いだ。


聖水だった。


聖なる気配を嫌った怪異が水面に昇る。


「ケルピー!」


馬の姿をしたそれは、水辺に棲み、人を溺死させる妖魔だ。

ランクはD。


そんなモノがポコポコと何十と水面に起き上がった。


が、小さい。

まるで生まれたばかりのように小さかった。


「台風か!」


あれがケルピーの幼生を運んだのだ。

普通だったら、そのまま死んでしまう。

けれど、叡泉学園では何等かの条件がそろってしまったのだろう。


予想外にも程があるでしょ!


そのケルピーが一斉に散ろうという素振りを見せている。


「させるか!」


スズメはあらかじめプールの四隅に設置しておいた道具を起動させた。


アイドル七つ道具のひとつ。

結界で守る像。略してマモゾウである。


マモゾウが鈍く輝き、ドーム状の結界を構築する。


その時だった。


「花園さんの心臓が動いてないです!」


薫を引き上げた志保が悲鳴を上げた。


「AED!」

「無いんです!」


屋外プールは古い建物で、AEDの設置が遅れてしまっていた。


「心臓マッサージでも何でも、おねがい!」


スズメはマモゾウの維持で精いっぱいだった。


志保は泣きそうになりながら、それでも授業で習った通りに人工呼吸をしようとした。

薫の唇と、志保の唇が、重なる。


ちゅ、ちゅば、ちゅーーーーーーーーーーーーーー






ん、鼻から甘い吐息が漏れる。

快楽。


全身に気力がみなぎる。

横溢。


その2つの、極大の刺激に、志保は仰天して唇を離した。


ペタリと腰が抜けて座り込み、弾みでメガネが落ちる。


は、ははは!


誰かが笑っていた。


ハハハハハハハ!


気持ちよさげに大笑いしていた。


「ハハハハハハハハハハハハハハハハッ!」


志保は己が笑っているのだと気づいた。


見れば、薫は少年の姿に戻っている。

胸も上下して、息もしていた。


「ナニコレナニコレナニコレ!」


志保は立ち上がると、空を見上げた。


無性に叫びたい!

喚きたい!


「花園薫は!?」


スズメが叫ぶ。


「無事っしょ!」


そうギャル言葉で応えた志保は、幼生ケルピーの群れを向いた。


「やったろうじゃん!」


髪に留めていたこうがいを手にした。

団子にまとめていた髪がハラリと崩れる。


このこうがい池之宮いけのみや志保の九十九神だ。

名は『想い留め』。


固有能力は対象の動きを封じる


「影留め!」


ケルピーの群れの動きが止まった。


群れ、である。

それも幼生とはいえランクD相当を、志保は封じた。


「ナーーーーーイス!」


スズメがマモゾウに一気に神力を込める。


カッとマモゾウが輝いた。

赤くなり、あかくなり、過剰に注がれる神力に耐えられずバーストした。


爆発が水面を叩き、結界が割れる。


やがて煙がおさまると、プールにはもうケルピーは残ってなかった。






目を覚ますと、美少女が2人、覗き込んでいた。


「気分、悪いことない?」


心配そうにスズメが訊く。


目眩めまいがするとかありませんか?」


メガネをかけた志保も気遣う。


薫はそんな2人をまじまじと観た。

無言のまま、装着していた九十九神を顔の前に持って来て撮影する。


「白とベージュか…」


途端、スズメと志保は自らの胸に目を遣った。


爆発が水面を叩いたせいで、2人とも水を被っていた。

今は初夏だ。

夏服のセーラー服を着ている。


つ・ま・り。


透けていた。


本来なら志保はインナーを下に着けているのだけど、胸が大きくなってしまったせいで去年の物が窮屈で着れなくなってしまったのだ。

ならばスズメはといえば、彼女はベスト派だった。けれど残念ながら叡泉学園指定のベストは借りてこなかったのである。


2人が同時に胸を両手で隠す。


「「 この! 」」


腕が振りかぶられ


「「 デバガメぇ! 」」


クリティカルヒット!


薫は再び意識を失ったのであった。



今回のプラマイ


-)マイナス

破壊されたプールの修繕費  100万円

マモゾウの弁償       400万円(保険で実質無料


+)プラス

怪異の解決金        100万円

Eランク妖魔の秘石×42 4200万円

4300万円のうち、アネモネの取り分は129万円


さて、ここでスズメさんにコメントをいただきましょう。


「プールの修繕費は痛かったけど、これで借金は返済したわよ!」


うはははははは!


とのことです。

志保がメイン回なのに、スズメに喰われてしまった


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