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03:山で勝負 Bパート

脳味噌がけるかと思うほどの快感。

同時にチャクラに圧倒的な神力が注ぎ込まれる。


もっと、欲しい。

もっと!


里がさらなる悦楽を求めんと、無意識のうちに舌を差し入れようとした時だ。


「喰わせろおおおおおおお!」


鬼婆が吠えた。


それで里は正気に返った。

名残惜し気に唇を離す。


するとどうしたことか。

少女薫が、少年へと戻ったではないか。


「そういうこと」


ち、と里はハシタナイと思いつつも舌打ちをせざるを得なかった。

スズメが薫を無理くりにアネモネに加入させた理由が分かったからだ。


「そりゃ、これだけのチカラがあったら」


アネモネに引き入れたくなるのも道理だわ。


それに薫のこの不可思議をスズメが秘密にしていたことも、腹ただしかった。


まぁ、秘密にしたがるのもわからなくはない。

あの自分が自分でないモノに書き換えられる快楽を、自分だけのものにしたい。

その気持ちは、体験をした1人だからこそわかる。


それにバフの代償はキスなわけで…。

クラスメイトのなかにはキスをしたとか初体験を済ませたとか、性事情をひけらかす子もいたが、里はそういったことを口にするのをはばかる性格だった。


ちなみに里のファーストキッスだが。

今まさに、済ませたてしまったところだ!


鬼婆がニタニタ笑っている。

追い詰めたとでも思っているのだろう。


「Cランク妖魔か」


一般人では対処不可能。

マッシュルームでも5人グループなら全滅覚悟で退魔可能。


それが鬼婆だ。


「なにが幽霊よ!」


協会の下調べが杜撰ずさんすぎる。


言いざま、里は遠く転がっていたボードにむかって「おいで」と手の平をうえに向けて手招きした。


浮き上がったボードが超速度で走り、ゆぅるりと里の手におさまる。

普段ではできない芸当だ。


里はボードに乗ると、鬼婆に向かった。


どうしたって負ける気がしない。


鬼婆が両腕を振りおろす。

それを里はエンドオーバーでかわすと、後ろに回り込み、バックサイドターン。

チックタックで加速して


「君のことは忘れない!」


高さ1メートルを超えるオーリーで体当たりをした。


鬼婆の体が吹き飛び、沢に突っ込む。

見ているうちにも、妖魔は赤黒い光となって消え去った。


「Cランク妖魔、倒せちゃったんですけど」


我が成したことながら、里は信じられない気持ちで呟いた。






ゆっくりと薫は目を覚ました。


「起きました?」


視界にはいった里が、見たことのない柔らかな表情で言う。


「ええ、はい」


と困惑しながら薫は、どうやら自分は里に膝枕をされているのだと理解した。

後頭部がやぁっかいのだ。


里が愛おし気に薫の頭を撫でる。


夢、なのだろうか?

だが、それにしてはリアルだった。


「ちょうどよかった。電車が出る前に起こそうと思ってたから」


なるほど、電車が停まっていた。

夕暮れの迫る駅舎で、薫はベンチに寝かされていた。


「あの~、里先」

「サッちゃん」


状況を訊ねようとした薫は、遮られてしまった。


「家族はあたしのことを、サッちゃん、て呼ぶんです」

「は、はぁ?」

「あなたは、あたしの初めての人だから…」

「初めて、スか?」


訳が分からずに繰り返すと、里は頬を赤らめて自分の唇に指を添える。


「唇がどうかしたんスか?」


キュ、と里の眉が上がった。


「憶えて…ないの?」

「なにを」


スか? とまで続けられなかった。


里が急に立ち上がったからだ。

ゴチン、と後頭部がベンチにぶつかる。


「痛って~~~」


たんこぶをさすりさすり顔を上げると、里が怒っていた。

それはそれは怒ってらっしゃった。


「君は! 君って奴は!」


握った拳をブルブルとさせていた里は、けれど何をするでも言うでもなく、背を向けて電車に乗った。


ドアが閉められ、電車が出発する。


残された薫はしばらく呆然としていたけれど


「へっくしゅ!」


とクシャミをしたことで、これは現実なのだと認識した。


「してみると、何処から夢で、何処からホントだったんだ?」


たぶん。

里先輩の膝枕が夢で、ベンチに頭をぶつけたあたりからが現実だったんだろう。


薫は納得すると、時刻表を探し見た。


「えーと、次の電車は…」


2時間後の21時。


6月の頭である。

初夏とはいえ、日が暮れると肌寒くなる。


薫は膝を抱えるようにして、電車が来るのを待つのであった。


「へーーーくしょい!」

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