07:アネモネのステージ その2
「そういえば」と薫が思い出したように言った。
特訓1日目、というかマネージャーから言い渡された当日のことである。
「アネモネの持ち歌って、俺まだ聞いたことないっスわ」
「はぁ? あんた、なに言ってんの?」
「アネモネに持ち歌なんてありませんよ」
スズメと志保の言葉に、薫は小首をひねった。
「何でっスか?」
何でもなにも、とアネモネのお姉さん組3人が口ごもる。
「もしかして君。アイドルって誰でも持ち歌があると思ってるのかい?」
「違うんスか?」
ハァ、と3人が溜め息をつく。
ニャハハ、と笑ったのはニキだ。
「カオくんはなーーんにも知らないんだなぁ」
「おっと、ずいぶんと偉そうじゃんか。なら、ニキは知ってるのか?」
知ってるよ。ニキは胸をはると言ったのだ。
「持ち歌ってのは売れてるアイドルにしか貰えないんだよ!」
瞬間、レッスンスタジオが凍り付いた。
ゴホン、と咳払いをしたのは里だ。
「まぁそのさ、歌をつくるのだって無料じゃないわけだ。作曲家の先生に作詞家の先生、他にも演奏してもらわないとだし、録音だってある。ざっと思いついただけでも、それだけの人にお金を渡さなければならない」
「ああ、つまり掛かった費用を回収できるだけの人気のあるアイドルしか駄目ってことっスね」
「だから言ってるでしょ!」
つまり、とニキは薫の言葉を真似て
「アネモネは人気がないって!」
「その通りだけど、な~~~んで得意げなのよ!」
ニキの背後に立ったスズメが女児のほっぺをムニムニとこねくり回す。
ひぇめほぇ~。というニキの嬉しそうな悲鳴を他所に、志保が言った。
「3ヵ月もアイドルをやってるんですから、それぐらいのことは知ってると思ってました」
「いや~~~、アイドルなんてちっとも興味がないもんで」
そんな薫の言い分に
あんたねぇ。
君って奴は。
ハァ。
ニャハハハ。
ニキ以外の3人が呆れた。
「誘っといてなんだけど、なんでアイドルやってんのよ?」
「そりゃ、皆さんみたいな美人とイチャコラできるからっス」
キモ! と図らずもアネモネ4人の声が重なる。
「というわけで、アネモネに持ち歌なんてないの! ではどうするか?!」
ズビシ! とスズメが里を指さす。
え? あたし? と狼狽えたものの、里は答えた。
「オリジナルがないなら、既存のものを使うしかないだろうね」
ね、の部分で手の平をうやうやしく志保に向ける。
「既存のものといっても、なんちゃらラックがありますから、基本的に青プロの曲しか使えませんけど」
はいはーい! と志保のあとをニキが続けた。
「だからね、アネモネは『内緒・く・だ・さ・い』と『背中ごしのロンリネス』のふたつをステージでやってるんだよ」
しんがりは薫だ。
「なんスか、それ?」
聞いたことないっスね。という薫に「知る人ぞ知る、て歌だからねぇ」とスズメが説明をした。
遡ること日本経済華やかなりしバブル時代。
青プロも絶好調だった。その波に乗ってオリジナル・ビデオ・アニメとタイアップ。青プロに在籍するアイドルをOVA『オメガシティ24』に登場するアイドルの声優として起用し、同時に楽曲も主題歌・エンディング・挿入歌とあわせて6曲を提供したのである。
「『内緒・く・だ・さ・い』と『背中ごしのロンリネス』は、それぞれ、そのOVAのパート1とパート2の主題歌なわけ」
「パート2?」
オメガシティ24はめっちゃ売れた。令和でさえ続編がつくられる超有名アニメの元祖をつくったスタッフが再結集という触れ込みに加え、変形ロボと美少女アイドルにSFという設定が、当時のおたくの心をグワシとキャッチしたのである。
「パート1は過去1売れたOVAらしいですよ」
「ということで、パート2もつくられたってことだね」
ほ~ん、と聞いていた薫は「でも」と純粋な疑問をぶつけた。
「そんなに売れた割には、オメガシティ24でしたっけ? 聞いたことなかったっスね」
それねぇ、とお姉さん組の3人が溜め息をつく。
売れたといっても、しょせんはアニメ好きにだけだったのだ。ぶっちゃけてしまえば、オメガシティ24は界隈でこそ有名でも、一般では埋もれてしまったのである。それこそネットのある現代でも意図的に掘り起こさなければ、まずお目にかかれないほど深くに。
「へー、でも面白いってのは確かなんスよね。どっかのサブスクで見れるんスかね?」
「そん時はカオくん、ボクも呼んで!」
ニキも見たことないのかよ。という薫の言葉はけれど
「「「 だめ! 」」」
という3人の声に押しつぶされてしまった。
ええええええ。とニキが膨れっ面をする。
「なんでなんで、なんでボクだけ見ちゃダメなのさ!」
「駄目だから駄目なの!」
実はこのオメガシティ24。グロイのだ。おまけに、あっはんうっふんシーンもあった。
現代ならR18だろう代物だったのである。
もちろん。スズメと里と志保はオメガシティ24を見ていた。
見ていたからこそ、8歳のニキに釘を差しているのである。
「ともかく!」とスズメは声を張り上げた。
「今から『内緒・く・だ・さ・い』と『背中ごしのロンリネス』を4人で通しでやってみせるから、花園薫はよっく見ておきなさい!」
よっく見た。
薫は4人のことをよ~~~~く見た。
エロ目線で。
乳と尻とふともも、それにチラ見するヘソを瞬きも忘れてガン見した。
もっとも、そんな邪なものは見ているうちに無くなってしまった。
ガン見したからこそ、彼女たちのダンスの上手さが分かったのだ。
あれ? このなかに俺が混ざるのって、無理じゃね?
と思ってしまったのだ。
フ~~、と約9分間のダンスを終えた4人が汗を拭く。
「どうよ?」
とスズメに訊かれて、薫は「すごかったス」素直に答えた。
「キレッキレで、それでいて4人で揃えるとこはバッチシで」
んでも。
「思ったんスけど、そこに俺が入るのって無理ゲーじゃないスか?」
「そんなことありませんよ」と言ったのは志保だ。
「花園さんはこの3ヵ月、みっちり基礎をやりましたよね?」
「というか、基礎しか習ってないっス」
「それで良いんですよ。わたくしたちの見せたのだって、その基礎を連続させたものなんですから」
「そうなんスか?」
「ま、ちょっとだけアレンジを加えてるから、ぱっと見にはそうと見えないだろうけどね」
「ボクでもできるんだから!」
ニキが言うが、薫は知っている。
この8歳児は規格外なのだ。
なんせスズメや里といった運動神経がはっちゃけている2人に付いて行ってる時点でおかしいのである。
とてもじゃないが、薫は自分と同列に扱うことなどできなかった。
と。ピンときた。
「九十九神を顕現させたらいいんじゃないっスか?」
そうしたら運動神経だって上がる。
「あ、それNG」
スズメが両手の人差し指をクロスさせた。
「アイドルはステージで九十九神を使っちゃ駄目なのよ」
「素の状態のパフォーマンスでないと、公平じゃなくなってしまうだろ?」
「ちなみに違反した場合は罰則がありますから」
軽いものならボランティア活動。
重くなると、アイドルからの永久追放。
「だったらやっぱし、無理じゃないスか? できる気がしねース」
その後ろ向き120%な発言に、スズメは深々と溜め息を吐いた。
「あんた男でしょ。ちっとは前のめりな気概をみせて、わたし等に良いとこ見せようとか思わないわけ?」
「質問に質問で返して申し訳ないんスけど、俺が良いとこ見せたら、みなさんは惚れてくれたりするんスか?」
ないわね。間髪入れずスズメがキッパリと。
里は肩をすくめて。
申し訳ありません。と志保。
カオくんは面白いんだけど…ちょっと。最後にニキ。
「ほーらな! ほーーーらなぁ!」
薫は駄々っ子のように言った。
「あーーーー、モチベーション下がるわぁ!」
わーーかったわよ! とスズメが声を張り上げた。
「あんたが歌って踊れるようになったら、わたしたちが何でも言うこときいてやるわよ」
へ? と薫がハテナを浮かべるうちにもスズメは言い切った。
「どうよ? これでやる気ぶち上がったでしょうがよ!」
ちょ、ちょっと。
勝手に何を言ってるんですか。
里と志保が物言いを入れるも
「スターになるんでしょ! こんなとこでつまづいてらんないでしょうが!」
というスズメの言葉に、2人とも口をつぐんだ。
「いいん…スか?」
おそるおそるといった感じで薫が確認をする。
「女に二言はないわ!」
「まっとうな範囲でならだよ」
「あんまり、その…エッチなのはなしですからね」
「ちなみに、カオくんは何をお願いするつもりなの?」
薫は考えた。
そして思い出す。
ダンスレッスン初日に覚えた失望を。
あの日、薫は期待していたのだ。
なのに…。
なのに!
今こそ、あの時の気持ちを晴らす時だった。
「レオタードを着て、ダンスレッスンをして欲しいっス!」
言った。
言ってしまった。
ダンスレッスンでレオタードを切るなんてのは大昔の話。
それこそ平成どころか、昭和時代だ。
むしろ今時は体の線が見えない、ダボっとした服装が主流だった。それかジャージだ。
実際、アネモネの5人は上はTシャツでボトムはジャージなのだ。
時代の流れ。
んなことは薫だって理解してる。
でもレオタードに期待しちゃったのだ。
もしかしたら、て思っちゃったのだ
だって、男の子だもん。
「てへ」
と薫が照れ隠しをするのを、スズメ、里、志保、それにニキの4人がドン引いた視線で見る。
ち、と舌打ちしたのは誰だったのか。
「集合!」
スズメが、薫を除いたメンバーを集めて円陣を組んだ。
ボソボソと何語をかを話し合う。
薫は期待に顔を輝かせて、その場でそそくさと正座をした。
そうして話し合いが終わった4人が、薫の前に並ぶ。
「レオタード、やってやろうじゃないのよ」
「あっざーーース!」
薫はその場で平伏した。
「けど、花園薫。あんたわかってんでしょうね? 出来なかったら、どーなんのか!」
う、うス。
薫は恐くて顔を上げられないのだった。
そうして始まったのは、まさしくスパルタだった。
スズメたちはもはや遠慮はいらないとばかりに、ビッシバッシと薫を調教…もとい特訓したのである。
「1回で歌詞ぐらい憶えんさい!」
「お腹から声を出せって、何度言わせるつもりだい?」
「…変態」
「カオくんさ、エッチなのはいけないんだからね。うちのクラスの男子もスカートめくりしてたけど、先生に注意されて、パパとママも呼びだされて、みんなの前で泣きながら『ゴメンナサイ』したんだよ?」
とりあえず、薫は歌に関しては初日で合格点をもらえた。
もっともプロには程遠い『それなり』レベルだったが。
「時間が無いんだから、しかたない。精度はおいおい上げていけばいいわ」
とはスズメの弁である。
次の日。2日目はダンスだ。
「どうして、そこで左右が逆になるのよ!」
「笑顔がなくなってるよ、笑顔が!」
「…生きてて恥ずかしくないんですか?」
「カオくんのこと今日の学校で友達に言ったら、みんな『気持ち悪い』て言ってたよ。やっぱりエッチなのはいけないことなんだよ、ねぇ、聞いてる、カオくん?」
竹刀をもったスズメと、ハリセンをもった里の、容赦ない指導に加え、ニキの純粋な諫言である。
さすがの薫とはいえ、志保からのご褒美が無ければ心が折れていただろう。
だけど、見事に薫は遣り遂げた。
ダンスで合格を貰えたのだ。
「あんた、自分で言うほど運痴じゃないじゃない」
スズメは言ったが、実のところ薫がいちばんに驚いていた。
うすうす勘づいていたのだが。
女バージョンの体のほうが運動神経がいいのだ。
もっとも今までは男の体の感覚が先だってしまって、うまいこと使えていなかった。
それが、この日のダンスレッスンで遂に目覚めたのである。
むりくり体を動かしまくったおかげで、女性の肉体の違和感を克服したのだ。
というか、だ。
1日8時間にも及ぶ女体化で、薫は本人も気づかないうちに、ひたひたと女側へとシフトしつつあるのかも知れなかった。
「これなら、思ったより苦労しないかもね」
などとお気楽な言葉は、3日目になって消えた。
ダンスと歌唱の両立。これが薫には出来なかった。
跳びはねているうちに歌詞を忘れ、歌っているうちに振り付けが疎かになってしまうのだ。
金曜日。学校が終わって直ぐにスタジオに入ったにもかかわらず、19時の閉館時間になっても、薫にうまくなる気配はなかったのである。
「続きは明日。本番は午後からだから、それまでに何とかしましょう」
ということになって解散になった。
1人。帰路についていた女薫は、けれど焦ってはなかった。
もしも出来ないようだったら、自分は抜ければいい。そう考えていた。
ぐぅ、と腹が鳴る。
「買い食いしちゃいますか」
軍資金はある。
何処から引っ張ってきたのかといえば、アイドルの給料である。
しかも支払われていなかった過去分もふくめて、いっきに貰ってしまったのだ。
というわけで今の薫は小金持ちだった。
毎日3食、白いおまんまを食べているほどなのだ!
「油ギトギトのホットスナック食べたい気分だ」
薫は周囲を見回したが、手近にあるコンビニは好きな商品が置いてある店じゃなかった。
「少し歩いたけど、スタジオの近くのコンビニに戻るか」
てくてく歩いて、来た道をたどる。
目的のコンビニの脇にある路地から店舗の正面に出ようとした時だ。
「どう思う?」
話し声が聞こえた。
「無理、だろうね」
「ここにきて、って感じですね」
スズメに里と志保の声だ。
コンビニの前にはベンチがある。そこに座って喋っているのだろう。
薫は思わず息をひそめてしまった。
「どうする?」
スズメの問いかける声。
「しょうがないでしょ」
里が
「もともと無理があったことですし」
志保が言う。
察するに自分のことだと薫は見当した。
ステージ当日に外すかどうかを話し合っているのだ。
そりゃそうだよな、と思う。
見事なまでに足手まといなのだから。
ホッとする。
同時に、頑張ったのが少しだけ馬鹿らしくも感じた。
「じゃ、いさぎよく明日は玉砕ということで」
あっけらかんとスズメが言った。
「しかたがないさ。これが今のアネモネの実力なんだし」
「ですね。悔しいですけど、時間が足りませんでした」
薫は理解するのに時間がかかった。
「あいつには、まっとうな手順を踏んでステージに立ってほしかったけどさ」
「それはまぁ、そうだね。特にこの3日間の頑張りを見てたから、余計に思うよ」
「初めてのステージが失敗で、アイドルに嫌気が差したりしないでしょうか?」
彼女たちは言っていた。
薫をステージに立たせると。
「それは分からないけど。でも、レオタード見せてやりゃ、へこんでるもんも回復するでしょ」
「違いない」
足手まといのせいで散々な結果に終わるだろうけど、それでも仲間はずれにはしないと。
言っていた。
じゃあ帰りますか。
3人が立ち去る気配がした。
薫は。その場で動けずにいた。
情けなかった。
結局のとこ、ホンキじゃなかったのだ、俺は。
いざとなれば逃げる気満々で。
「へちょいにも程があんだろ…」
薫は顔を上げた。
「やるしかねー!」
スタジオはもう閉まっている。使えない。
だから薫はスタジオの前にある公園に足を向けた。
「俺だって、アネモネのメンバーなんだ!」
スマホで『内緒・く・だ・さ・い』と『背中ごしのロンリネス』を流しながら、ひたすらに踊る。
踊りながら、歌う。
「はぁ、はぁ、」
汗を滝のように流しながら、薫はうずくまっていた。
既に時間は深夜の1時。
なのに、ちっとも上手くなりはしなかった。
「ポンコツさに笑けるわ」
呟いた声がかすれている。
歌いすぎだ。
靴のなかがネチョネチョする。
マメが潰れたのだ。
だけど、それでも。
薫は立ち上がった。
「みんなをガッカリさせらんねぇ」
花園薫という少年は、婦女子に嫌われる。
ハブられ、無視をされる。
女子がそういう態度を取れば、異性の目を気にする一部の男子は追随した。
おかげでイジメられていたこともある。
そんな薫にとって、アネモネは初めて受け入れてくれた場所だった。
裏切れない、と思うのだ。
4人に見劣りしないチカラをつけなければ、と強く思うのだ。
そして。
九十九神というものは、強い想いに呼応する。
「なんだ?」
薫は己の九十九神が訴えているのを感得した。
ハンディカメラを顕現させた途端。
チカラを授かったのが分かり、使い方も分かった。
目の前にスズメが浮かび上がる。
日中に撮影しておいた、スズメの映像だ。
そのスズメがダンスを始めると、自動的に薫の体もまた動いた。
コピー。
撮影した対象とまったく同じ動作をする能力だった。
「へ、へへへ」
薫は笑った。
今の自分にうってつけの能力だったからだ。
コピーで繰り返し踊るのだ。
それこそ、息をするのと同じくらい、何も考えないで体が動くほど、体に刷り込むのだ。
そうしたら歌に集中しても、問題なくなる!
九十九神が肉体強化に加えて、再生能力も上げているのだろう。
喉の痛みがひいてゆく。
もっとも潰れたマメの痛みは健在だし、疲労もえげつない。
だけど薫は止めようとは少しも思わなかった。
「あのバカ!」
午前8時。スズメは切れていた。
何故なら、花園薫に電話をかけてもつながらないのだ。
「まさか、バックレたんじゃないでしょうね」
扱き過ぎたという自覚はあった。
けど、ま、なんだかんだ平気なんじゃないか。という謎の信頼感があったのだ。
レッスンスタジオ最寄りの駅にいたスズメが、こうなったら薫の家に直接乗り込もうと考えた時だ。
スマホに里から着信があった。
「七星、いま何処にいる?!」
「スタジオの駅だけど」
「だったら早く来て! スタジオ前の公園!」
プツリと切れる。
「ったく」
なんだってのよ。ぼやきながらもスズメは自らの九十九神『未来日記』を顕現させると、ダッシュをした。
実はこれ、マナー違反なのだ。
アイドルは『緊急時以外の九十九神の使用は極力控えるよう』お達しされている。都内だけで何千人といるアイッドルである。おのおのが身体強化した状態で勝手をされては、一般人に迷惑が掛かり、ひいては混乱を招く。というのは建前で、目立てばファンを獲得できるだろうと、昔々バカをして悪目立ちしたアイドルがいたのだ。その繰り返しをしないよう、注意されているのである。
「今回は緊急だし!」
なんせ、里が焦っていたのだ。
もしか妖魔が出たのかもしれない!
車道を自転車もかくやのスピードで駆けて、スズメは公園に着いた。
里だけじゃない。
志保とニキもいた。
どうしたのか? とスズメは訊かなかった。
もう視界に入っていたから。
1人、踊っている薫の後ろ姿が。
いったい何時から踊っていたのか。
Tシャツには乾いた汗が塩になって浮かび、靴は血に赤く染まっている。
とてもじゃないが声をかけられなかった。
一種異様な鬼迫と共に、触れたら壊れてしまうような繊細な雰囲気があったのだ。
それに何よりも。
美しかった。
スズメのダンスに似たその動きは、けれどスズメの動作よりも遥かに洗練されて、目を奪った。
踊り終わったのだろう。
薫が息を吐き、ふッとみんなを振り向いた。
「もう…そんな時間か」
薫は初めて気づいたみたいにお日様を見上げてから、その朦朧とした視線をスズメたちに向け直した。
「やっと九十九神がなくてもできるようになったんス。みんなで合わせてもらって、いいっスか?」
そんなことよりも病院に。
そう進み出た里をスズメは手で制した。
「みんな、やるわよ!」
「七星! あんた何言って…」
「花園薫は! こいつはわたし達にホンキをみせた。だったら、わたし達も応えなきゃでしょ」
スズメと里が睨み合う。
見守っていたニキが進み出た。
次いで志保も薫の横に並ぶ。
里は。千切るように踵を返すと、定位置に付いた。
最後にスズメが真ん中に着く。
志保のスマホが音楽を流した。
5人がダンスをする。
一糸乱れぬ、統一された動きだ。
そして歌う。
薫は見事にダンスと歌を同時にこなした。
格段の進歩に4人が目を見張る。
出来なかったことが出来ている、だけじゃない。
出来ていたことが、さらに出来るようになっていた。
2曲が終わる。
「どうっスか?」
「カオくん、すごいよ!」
満面の笑みで褒めたのはニキだ。
「素晴らしかったです」
志保が同意する。
里はサムズアップし、スズメはといえば腕組をしておおきく頷いた。
「へへ」
と薫は照れ臭そうに笑って、膝から崩れ落ちた。
「「「「 ! 」」」」
アネモネのステージまで、あと10時間。
どうする、どーなる!?
ええ、ええ
メガゾーン23ですよ、大好きです




