75、勇者と魔王の盗賊討伐
聖都ウェンデルから北東にある荒野、そこに古びた城は建てられていた。何時の時代の物なのかは分からないが規模からして小国だった城と思われる。
汚れが目立ち、人が生活した事で汚れた物ではない。今此処に住んでいる者はおらず時間が経過した事による物だろう。
荒野の城はこのまま更に時が経てばいずれは城そのものが崩れ滅ぶかもしれない。それが自然の流れ。
だがその流れに割って入り我が物顔で城に入り浸る一味が現れた。
「おい酒だ酒だー!」
城の玉座にふんぞり返って座る男は子分に酒を持ってくるよう言うと持ってきてもらった酒瓶を開けてグビグビと勢いよく喉を鳴らして美味そうに飲んでいる。
他にも男のように酒をかっくらう者が居れば骨付き肉にかぶりつく者も居た。
男達はこの城を根城にしている盗賊団。金品を盗み取り、力の無い者が相手の時は力で強奪し自分達の金にする強盗も平気でやっている。
「はぁ~、飯と酒にはありつけるが何か物足りねぇなあ。男ばっかで良い女がいないせいか」
「でしたらお頭。今度は聖都ウェンデルに居る女でもさらってきましょうか?女王とかめちゃ良い女らしいですからねぇ」
「馬鹿!それであそこの騎士達を敵に回すのは面倒だろうが、リスクの大きい事はしねぇよ。まあ…良い女なのは同意するけどな」
「あ~、駄目スかぁ…マジ俺の好みなんだけどなぁ。確かにあそこの騎士の野郎どもは女王を滅茶苦茶慕ってて命も惜しまないって聞いてますからねぇ…」
盗賊団は男ばかりで今度は女をさらおうかと考えていた、それで目をつけたのが女王パオドーラ。男達が欲しがる程に魅力的であるが立ち塞がる騎士団が大きな障害となってそこまでは踏み切れないようだ。
「守れるならそこの騎士になるのも良いけどな!そんで惚れさせて女王も権力も俺の物っつーのも悪くねぇ」
「それ最高っスね!一生安泰だ!」
男達が女王を好き勝手する、そんな下品な話で盛り上がっている時だった。
「ぶはっ!」
突然盗賊団の一人がやってきたかと思えば地面にひっくり返って倒れる。酒の飲みすぎで酔ったのかと最初思ったが男は傷を負っている。
「おい!どうした!?」
盗賊団の頭が席を立ち負傷してる手下へと駆け寄った。
「ば………化け物みたいに強ぇ奴ら……」
男に傷を負わせたその相手に対してカタカタと震えた声で何があったのかを伝える、化け物みたいに強い奴らが来る。男が伝えられたのはそれぐらいだ。
「化け物みたいに強いだぁ…?おい、まさかウェンデルの騎士団が此処に目ぇつけて俺ら潰そうって腹じゃねぇだろうな!?」
「ええ!?そうなったら俺らヤバいですぜ!早く逃げないと!」
何やらヤバい事態だと感じた盗賊団は酔いが覚めていた、ウェンデルの騎士団が来たら一網打尽にされる。早く逃げなければと。
そんな行動を起こす前に手下に傷を負わせた張本人達は盗賊団が入り浸る部屋へと乗り込んできた。
「……なんだぁ?てめぇら」
部屋へ入って来たのは二人、更に1匹。一人は長身の人物で鎧兜に身を包んで大剣を持っている、もう一人は杖を持っており黒い半袖シャツと短パンに黒マント。魔法使いらしき子供だ。その足元には子供のドラゴンが居る。
いきなり入って来た見知らぬ連中。まさか手下はこいつらにやられたのかと盗賊団の頭は倒れてる手下と目の前の者達をそれぞれ見た。
騎士らしき大剣を持つ者はともかく子供の方はどう見ても強そうに見えない、それは子供のドラゴンに対しても同じ事が言える。
手下はこの大剣の奴にやられた、盗賊の頭はそう判断した。なら連れの子供を捕まえ人質にでもすれば大剣使いの身動きが取れなくなるはず、そう考えていると手下の一人が「あっ!」という声を上げた。
「て、てめぇら!?あの時のガキどもか!?」
「ああ。何か何処かで見た顔かと思ったら山の方で叩きのめした人だったね、というかあの時見た顔…よく見ればまあまあ居たんだ」
盗賊の一人が二人を知っている。そして魔法使いの子供の方が喋りだした、叩きのめしたという事は彼は一度この二人に負けている。
二人はマード山脈を根城としていた山賊と思っていたようだ、しかし実は此処の盗賊団の一味でありギーガ大陸へと稼ぎに来ていただけに過ぎない。
最もそんな事実は彼らにとってどうでもいいことだが。
そして他にも数人が知っていた。二人を知る彼らはギーガ大陸へと稼ぎに行ってた連中でありボロボロとなってこのグラン大陸に戻ってきた事を覚えている、ギーガ大陸に行っていた組はよく見れば震えていて二人に対してトラウマがあるように見えた。
「何ビビってんだてめぇらは!?こっちは頭数は勝ってんだぞ!」
そんな彼らに喝を入れるように怒鳴る盗賊の頭は行けと指示、10人以上居る自分達が圧倒的有利であり相手が強かろうが負ける訳が無い。
「来るみたいだよ、じゃあ…やっちゃおうか」
「話し合い出来そうな相手には見えなかった。そのつもりだ」
しかし彼らは最後まで知らなかった。
片方が勇者であり片方が魔王であるという事を、様々な相手と戦場で戦いグラン大陸に来る前にシーサーペントを沈めた事を知らないまま敗れ去る事になる…。
「ぐはぁっ!」
「ぎゃあ!」
「げは!」
向かって来る盗賊達をカリアは次々と大剣で峰打ち。戦いのプロである騎士をも倒すカリアからすれば素人に毛の生えた程度の強さを持つ盗賊など敵ではなかった。
「ぎゃああああああ!」
それは向こうで盗賊の頭を軽い雷の魔法を当てて気絶させているシュウにも言える事だった。
「あー、ちょっと強すぎたかな?あまり加減出来なくて悪いね、生きてる?」
雷の魔法で黒焦げとなった盗賊の頭。シュウは彼の頭を軽くコンコンと杖で叩いてみる、反応はあったのでとりあえず生きているようであり戦いはこれ以上無理なのは明らかだ。
圧倒的な力の差、結果は盗賊達が全員倒れておりカリアとシュウがこの城に来て盗賊団を相手にしてから数分ほどで彼らは盗賊団が根城としている城を制圧。
ウェンデルの聖堂騎士団が問題視していた盗賊団はカリアの手で身動き出来ないように縛り付け、シュウが彼らと共に移動魔法でウェンデルまで戻り騎士団に盗賊団を突き出したのだった。
急に街に捕らわれた盗賊団が出現した事に住民達は驚いており、シュウとディーが見張りを担当しカリアは急いでシール達騎士団を呼びに走る。
「まさか、こうも早く連中を捕らえて問題を片付けるとは……キミ達は一体何者なんだ?」
「ライザン国王を守るただの用心棒だ」
「右に同じく」
「ガウ」
近衛騎士隊長シールの指示で部下の騎士達は盗賊団を連行、気絶したままの連中が運ばれてくのを見送った後にシールは改めて向き合い盗賊団を捕らえた者達に聞いた。
こんな短時間でたったの二人(と1匹)で盗賊団を片付けるなど並の実力者ではない、一体何者なのかと。
シュウはともかくカリアは勇者として知られるがウェンデルの方まではその噂は届いていないようでカリアの事は知らないようだ。
なのでカリアとシュウは正体をあえて伏せて用心棒だとシールの前で言い切ってディーもそれに合わせて声を上げた。
「どちらにせよあの盗賊団には困っていた、被害が拡大する前になんとかしようと考えていたがその前に問題を解決してくれて感謝する。聖都ウェンデルとザパールを繋ぐ道もこれでより安全となる事だろう」
シールは問題を早々に解決してくれたカリアとシュウに対して頭を下げて礼を言う。
「いや、それよりこれでロウガ王国の者達をあの城に住まわせる事に問題は無いだろうか?」
「それは勿論だ。しかし住民全員となるといくら城とはいえ…そこまで入り切るのかという不安はある」
カリアは改めてロウガ王国の者があの城に住んでいいか確認をするとシールは首を縦に振る。盗賊団の危機は去ったが後は城に全員住めるのかという新たな問題が出てしまったのだ。
一国の住民全員となれば相当な人数、それに城に住むにしても人の手による修繕の必要があった。
「修繕か…何処かに腕の良い大工でもいればいいけどね」
「大工ならこの街に良い腕を持つ者が居る、居るのは確かだが……」
これから大工探しかなとシュウはディーと遊びつつも今やるべき事について言うとシールの方から大工に心当たりがあるらしい、ただその表情は冴えない。
「シール殿、何か問題でもあるのだろうか?」
「その大工というのがなんというか変わり者でな…気に入った仕事しかしない。今のウェンデルの城を建てたのも変わり者の大工が仕事してくれたおかげだ」
変わり者の大工、難しそうな人物だが女王の居る城を建てた程の腕前を持つならばあの古びた城の修繕も出来るのかもしれない。
それなら会ってみようとカリア、シュウの二人はシールから大工の場所を聞いて目的地へと向かうのだった。勿論ディーも共に付いて行く。
まずは此処まで見ていただきありがとうございます、勇者と魔王による盗賊退治は少しだけで終わりました。彼らとの実力差の結果でこうなったという所ですかね、此処に来るまでの相手達が色々化け物だったりとかもありましたから今回はこれぐらいで。
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