74、女王パオドーラ
まるで教会のような外観の城、女王パオドーラが教会の主でもあるからこういう作りになったのかもしれない。
兵の案内で女王の間まで案内されて一行はその扉前までやってきた。先に兵が部屋の中に居るであろう女王へと話す。
「パオドーラ女王、ギーガ大陸から来たという者達をお連れしました。それとエミール王国のファイス王子もお見えになっています」
「お通ししてください」
扉の向こうから女性の声が聞こえた、それは若い女性を思わせる声だ。兵は扉へ向かって一礼した後に右へとずれてそのまま女王の間の扉を守るように槍を立ててその場に立っていた。
女王からの許しが出たという事なので代表してライザンが扉を開ける。
扉が開かれると玉座に座る女王に側近の二人、更に剣を持つ聖堂騎士二人が女王の間に居る。
奥に見える玉座に座る女性こそがパオドーラで間違い無いだろう。
純白の白いスリット入りのドレスを着ており頭にティアラを身に付けている。エメラルド色のウェーブがかかったロングヘアー、メリルと同年代の少女なのかと思わせるような童顔。
彼女が聖都ウェンデルを統べる女王パオドーラだ。
「遠路はるばる聖都ウェンデルへようこそいらっしゃいましたロウガ王国のライザン国王」
「急な訪問に応じていただき深く感謝いたしますパオドーラ女王」
微笑んでパオドーラはライザンや皆の訪問を歓迎し、ライザンはパオドーラに対して頭を下げて感謝を伝えた。
「そしてエミール王国のファイス王子、貴方も遊びにいらしたのですか?」
「あ、いえ…僕はただの案内人です…」
ライザンからファイスへとパオドーラは視線を移し、彼へと話しかけるとファイスは恐縮そうにしていた。
王族のやり取りをカリア、シュウ、メリル、ディーは少し離れて見守っている。此処は自分達の出番はなく大人しく待つのみだろうと。
「女王、今のギーガ大陸についてはご存知でしょうか?」
「確か魔王軍の侵攻によって各国が襲われたと…伺っております」
今のギーガ大陸、それについてライザンから問われたパオドーラ。グラン大陸にも魔王軍侵攻の事は届いていたようだ。
そして今この場にいるシュウがその魔王軍の頂点である魔王。正確には頂点だった、だが。隅に控える少年が魔王であると知れば大事になる可能性は非常に高く慈悲深い女王といえど協力してくれるとは考え難い。
なのでシュウが魔王というのはこの場は伏せておく。
「ギーガ大陸はかつてない危機に陥り、我がロウガ王国も飲み込まれる所でしたがかろうじて逃れ此処グラン大陸へと渡って来たのです」
魔王軍の侵攻から始まり、それ以前はヴァント王国を中心とした王族達の好き勝手な振る舞い。更に魔王軍以外の魔族達の介入、悪魔王デーモンロード復活の野望。そして多くの魔王軍が魔王を裏切る。
後半部分はカリアやシュウ達が知る出来事であり、それはライザンからパオドーラに伝える事は出来ない。それでも色々大変な戦いがあったのは事実だ。
「国が一つの力となっていればまた違っていたかもしれない、ヴァント王国のベーザ国王…彼に少しでも慈悲の心があったら……」
パオドーラとは正反対で慈悲とは全く縁が無いであろう今は亡きベーザ。彼を知るカリア辺りからすれば慈悲を持つベーザというのは想像しにくいものだが、パオドーラの言うように国が協力し一枚岩になっていれば強力な力を持つ魔王軍も簡単に侵攻は出来なかったかもしれない。
それがあそこまでの侵攻を許していたのは各国がバラバラで連携が全く取れていなかった証拠だ。
パオドーラはそっと目を伏せ、胸の前に両手を組んで祈るような仕草を見せる。
「それでパオドーラ女王、急な訪問で無礼を承知でお願いしたい。避難してきたロウガ王国の民を安全な場所に置きたいのだが私はこの地に疎い。良い場所があれば教えてほしいのです」
頭を深く下げてライザンはパオドーラへと自国の民を安全な場所に避難させたい。頭を下げる彼の姿は嘘偽りなく民の事を考える気持ちが現れていた。
「お、お願いします…!僕らエミール王国も出来る限りロウガ王国の皆さんに協力するつもりです…!」
ライザンの隣に居るファイスも同じように頭を下げた、エミール王国全体の協力ではなく今はまだファイス個人の協力ではあるがファイスは出来る限りライザン達の力になるつもりのようだ。
「勿論、女神ルーヴェルは本当に困っている人を見捨てたりはしないでしょう。私も見捨てはしません、皆様に出来る限りの助力をいたします」
「本当ですか!?ありがたい、感謝いたします!」
「感謝の気持ちは私ではなく女神ルーヴェルにお願いしますね」
優しい微笑みを浮かべてパオドーラはライザン達に力添えをしてくれる、そしてライザンの感謝は自分ではなく女神ルーヴェルにしてほしいという願い。
彼女はこの世界を創り加護を与えたと言われる女神ルーヴェルに深い信仰心があるらしい。
という事は女神ルーヴェルの事を侮辱でもしない限りパオドーラを怒らせて敵に回すような心配はあまり無いのかもしれない。
こちらも別にその女神を侮辱する気など欠片も無いが。
「私はこれより祈りの時間がありますので、此処で失礼しますが…後の事は此処に居るシールにお任せしてあります」
パオドーラの右に控える男、緑色の短髪で年齢は20代ぐらいか年若い感じだ。此処の騎士達と同じく鎧を着ていて腰に鞘へと入っている剣を装備している。
「近衛騎士隊長のシールです」
シールと名乗る若き騎士は前へと進み出て一行へと挨拶、身長は180ぐらいあってカリアと似た背丈。この若さで近衛騎士の隊長を務めるのはかなりの実力者かもしれない。
「では、シール。彼らに出来る限りの事をしてあげてくださいね」
「はっ!」
後を任せパオドーラは玉座から立ち上がり奥の部屋へと入っていき、シールと他の兵達は女王の姿が見えなくなるまで敬礼をずっと続けていた。
「シール殿、急な訪問となってパオドーラ女王にも貴殿にも負担や迷惑をかけて申し訳ない」
改めてライザンは予定もなくいきなり此処ウェンデルに来た事をシールへと謝罪した。
「気にするような事ではありませんライザン国王。一国の危機を黙って見過ごすような事、パオドーラ女王はしない。女王の意思は我々の意思、聖都ウェンデルはロウガ王国への助力をお約束します」
パオドーラがそうするのであれば自分達もそうする、女王の為に動き働く。それが聖都ウェンデルとシールは言い切りロウガ王国への協力を約束した。
「それでは…多くの者が過ごせるような広い場所について何処か心当たりは?流石に何時までも港街ザパールに滞在し続ける訳にいかず、かと言ってこのウェンデルに全員移り住むというのも無理な話であろう」
「………」
シールへとライザンはこのグラン大陸に大勢が一時的にでもいいから良い場所はないかと訪ねると、シールは腕を組んで目を閉じ考える。
少しの時間が経過するとシールは目を開けた。
「この聖都ウェンデルから北東に少し移動した荒野に古びた城があります、ただ……」
「ただ?」
「最近そこには盗賊団が入り浸っていると聞きまして土地としては良いですが安全とは言えないですね…」
古びた城、そこを修繕でもすれば住めるようになるかもしれない。そして土地としては大勢が住むには良い場所、しかし盗賊団が居るという問題があり安全どころか危険の可能性が非常に高い。
だからかシールも難しい表情を浮かべている。
「つまりその盗賊団さえなくなれば最高の場所なんだね?」
「え?ああ、まあ…」
突然のシュウの発言に一瞬呆気にとられつつシールは答える。盗賊団という大きな問題さえ片付けば良い場所だと。
「問題を任せきりだったがこの問題に関しては任せておくといい」
「(え?え?この子供と女性は一体何をする気なんだ…?)」
シュウと並んでカリアも盗賊の事なら自分の出番だとばかりにこの問題へと向かうと言い出して二人は何をする気なんだとカリアとシュウを知らないファイスは二人の事を見ているしかなかった。
まずは此処まで見ていただきありがとうございます、カリアとシュウがあまり喋らず他のキャラが喋る回でもありました。
二人は強いけどこういう話し合いは王族で大人な人にお任せという。
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