73、上陸、グラン大陸
海の大蛇シーサーペントを人々の知らない間に倒し人知れず危機を救った勇者カリア、魔王シュウ。そして古の悪魔王デーモンロード。
本来ならまず有り得ないこの組み合わせ、しかしだからこそ普通はシーサーペントを倒すのは強国の騎士団でもってしても至難の業だったのだがいとも簡単に巨大な魔物を葬り去る事に成功していた。
ロウガ王国の皆に余計な危険や負担を与えずグラン大陸へと船は前進し続ける。
最大の障害はあのシーサーペントだったのだがそれもいなくなった事により障害はもう無い、食料も余裕を保った状態でグラン大陸までもうすぐ。
人々からすれば何も問題無い、むしろ快適な船旅と言ってもいい船上生活だったかもしれない。
その陰に勇者と魔王の活躍があったのだが二人もそれを公にする気は無く、誰もその活躍を知らぬまま目的地はようやく見えてきた。
「よう、見えてきたぜ!グラン大陸がよ!」
威勢のいいドラークの声が船内で響き渡る。
多くの人が集うホール、そこにロウガ王国の民の中にライザンの姿があった。ドラークから大陸が見えてきたと聞いてライザンは甲板へと向かい、ドラークもそれに続く。
甲板へ出て来るとライザンの目には大陸が見えていた。何日か続いた海、海面ばかりしか見ていなかったがそれもついに終わりだ。
「グラン大陸か……久しいな、いずれまた行くつもりではあったのだがまさかこういう形で再び此処を訪れる事になるとは」
「感傷に浸ってるところ悪いけどよライザン、船はすぐ上陸するぜ。国の皆を安全に大陸の地を踏ませるまで気は抜けねぇ」
「うむ、そうだな」
大陸へ到着、しかし此処で油断はせず最後まで安全に確実に民を新天地へと導く。それが国王ライザンとしての役目。
ライザンは気を引き締め直した。
グラン大陸の港街ザパール
ギーガ大陸の港街ナジャスと同じように海沿いに作られた街で互いの大陸を繋げ行き来するのに必要不可欠な存在、この街も海の幸が豊富に取れてそれを扱う海鮮専門レストランが有名だ。
大型船はザパールの船着場に止まり、これで船は無事にギーガ大陸からグラン大陸へ到着した事を意味する。
ロウガ王国の民が続々と船から降りていき彼らをライザンやミーヤにセティアといった王族が先導、幸いと言うべきかこの街はナジャスよりも大きな港街であり大勢の客が宿泊出来る大きな宿屋がある。
ひとまず長い船旅で疲れているであろう民はそこで休ませる事にした。
これから行動するには彼らを連れて歩くのは何かと不便でありまずは聖都ウェンデルに居る女王へこれからについて相談し力添えしてもらう。
それには国王ライザンは必ずウェンデルへ向かわなければならない、そして仲介役としてエミール王国の王子ファイスも同行。
「ライザン国王、私も同行させていただきたい。あなたはまだ傷が癒えて間も無い、護衛役としてお守りする」
カリアはライザンのボディガードとして彼を守るつもりだ。ライザンとて元々は剣の達人であり騎士団長でもある王にして武人、そんな彼はまだ傷が癒えて日が浅い。万が一の事があって彼を失うわけにはいかない。
「僕も行こう。国王の身は確実に守らせてもらうよ」
更にシュウもカリアに続いてライザンを守ると護衛役を自ら進んで受ける。ボディガードが勇者と魔王、世界中を探してもこれほど強力な護衛は早々無いだろう。
「ガウー」
そこにディーが声を上げてシュウの足元に当たり前のように居た。
「ああ、ディーったら遊びに行く訳じゃなく魔王様は大事な用で行くのに…なら魔王様とディーをお守りする為一緒に行きます!」
本来ならディーと留守番のはずがディーの方がシュウと行きたいらしく離れないのでメリルは自分も同行してシュウとディーを守ろうと張り切って腕を回した。
「うむ、皆感謝する。心強く頼もしく思うよ」
ライザンは頷き一同の同行に感謝する。自分一人では隣に居るエミール王国の王子を守りきれないかもしれない、何があるか分からないので強力な護衛は実にありがたい。
一部ライザンの護衛ではない者も混じってはいるが。
「俺は此処に残って王女様やお妃様、それに住民達の護衛しとくよ。魔族の連中が来ても返り討ちにしといてやるからさ」
「私も情報収集の為この街で調べ物を進めておきます」
アードにミナは同行せずザパールに残ってミナは情報を集め、アードは街の守り。それぞれ得意な部分を活かしての留守番だ。
また何時バルバ達魔族が迫ってくるか分からない。そうなったらライザン不在でミーヤにロウガ騎士団だけで相手を迎え撃たなければならず、強力なドラゴンライダーと参謀が居てくれれば安心だろう。
「ミナ、頼んだよ」
「任せたぞアード」
カリアとシュウがそれぞれに声をかけた後、ライザンやファイスと共にザパールを発つ。此処からはグラン大陸を知るファイスの案内で行動する事になる。
幸いザパールから聖都ウェンデルまではさほど危険な道のりではない、平原を抜けて緩やかな坂を上り途中の森を抜ければウェンデルはすぐだ。
そのためか途中でザパールからウェンデル、ウェンデルからザパールへと行き来する人の姿を見かける。
大勢の民を安全な場所まで避難させる事を考えると距離が短く危険の少ない道というのは実に大助かりだ。
夜になれば野盗などの危険性は増すだろうが昼の明るいうちに移動を済ませれば問題無く、わざわざ危ない橋を渡る必要も無い。
何かあれば事前にカリアやシュウで問題を一掃させる。
それだけの力がこの勇者と魔王にはある。
「ねえファイス王子様、ウェンデルの女王様ってどういう感じの人ですかー?慈悲深いっていうと凄い優しそうな人とか?」
森へと入った一行、後は此処を抜けるのみであり道中で先頭を歩くファイスに後ろからメリルが興味本位で聖都ウェンデルを統べる女王について聞いてきた。
「ウェンデルの女王はパオドーラという方で、あの人は…教会の主でもあるんだ。簡単に言えばシスターのお偉いさん…て感じかな」
「女王で教会の主、中々それは珍しいね」
ファイスからの説明に変わった肩書きを持つ女性と分かりシュウも興味ありそうに話を聞きつつ森を歩いていた。
後ろからついて来るディーは時々つまずきそうになりながらしっかりとシュウから離れず歩く。
「女王パオドーラを慕って教会と城で協力して聖堂騎士団という強力な騎士団も作られてね…あの人の影響力は大きいと思うよ…」
「ほう、そんな強い騎士団なのか」
「女王を守ろうと日々厳しい訓練を積み重ねてると聞いてるから…弱いという事は無いはず…」
強い騎士団に今度はカリアが反応を見せる。ギーガ大陸の騎士団は大体知っているが教会と協力して女王の為に編成された騎士団というのは聞いた事も見た事も無い。
守るべき者の為に努力を惜しまない、それは確実に強き騎士団と言えるだろう。聖堂騎士団というのは。
ギーガ大陸にずっといたらおそらく知らぬまま、お目にかかれずだったかもしれない。新大陸に来ると新たな発見があるものだ。
そういう話をしている間に森を抜けると聖都ウェンデルはすぐ目の前にあった。
街よりも先に目に付く巨大な建物。それは十字架をモチーフにした城でありまるで城というより一つの大きな教会を思わせる。
此処に女王パオドーラが居るのだ。
一行は街へと入り、城を目指す。
ウェンデルの街はザパールの時もそうだったが結構賑わっており活気ある街、教会のような城があってお堅いイメージのある場所と思っていたがそうでもない。
昼間から酒を楽しみ、軽食をとって談笑する人々の姿は他となんら変わりはない。
そして街には見回りの為歩く騎士の姿があった。城と同じように兜の顔部分が十字架となっていて騎士の素顔は見えない。重装騎士に近い重量感ある鎧を纏っている、日々努力を惜しまず鍛えているという事なので屈強な肉体を持っていると考えていいだろう。
その騎士団が守る女王、パオドーラの居る城。此処の扉前に一行はファイスの案内で来ていた。扉の左右にそれぞれ聖堂騎士団が守る。
「止まれ、此処は女王パオドーラ様の城。お前達は何者だ?」
一行を見覚えの無い者と聖堂騎士は警戒し扉の前に立ち塞がる。
「突然の予定も無い訪問で失礼、私はギーガ大陸のロウガ王国から来た国王ライザンだ。此処の女王パオドーラ殿に是非お目にかかりたい」
「ロウガ王国のライザン国王……?それにその者は…」
警戒する聖堂騎士の前に1歩前に進むライザンは自らの身元を明かし、訪問の要件について伝える。ライザンの話を聞いた後に聖堂騎士はファイスの方へと視線を向けた。視線を向けられたファイスはおどおどしている。
「少し待て、お前は此処で見張ってろ」
「ああ」
二人のうち右に居る聖堂騎士がもう一人に見張るよう伝えた後に扉を開けて一人城の中へと入っていった。おそらく上の者に確認しに行ったのだろう。
少し時間が経過すると城に入っていた聖堂騎士が戻って来る。
「女王パオドーラがお会いになるそうだ、慈悲に感謝し通るがいい」
騎士達が扉を開けるとそれぞれ1歩下がり通って良いという意思を見せた。パオドーラに会う事が許されたのだ。
「この子とかは城の中駄目かな?」
「女王は魔物だからといって差別したりはしない御方だ、それにその魔物は見た所ドラゴンとはいえ子供だろう。構わん」
通る前にシュウは騎士達へとディーも城の中に入っていいかどうか確認すると、思ったよりも懐が深いようでディーも城に入って良いとの事だ。
こんな見知らぬ土地で一人取り残されるのはディーとしても寂しいだろうから助かる。駄目だったらメリルが一緒に残って外で待つ所だった。
人々が恐れるであろう魔物まで受け入れる女王パオドーラ。
慈悲深い彼女と会う時はもうそこまで来ていた。
まずは此処まで見ていただきありがとうございます、数話ぐらいかかりましたがやっと新天地グラン大陸にまでやってきました。
新たな大陸でどういった事になるのかお楽しみに!
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