67、制圧間近
古の時代より恐れられてきた怪物デーモンロード
時を越え、古の悪魔王は再び目覚めた
世界は再び混沌に陥るのかと思われたが、魔王シュウがデーモンロードと話し合い分かり合って協力を得る事に成功したのだった。
企む魔物達は死に、ヴァント王国は騎士の暴走に国王ベーザの死亡で壊滅状態。一番の厄介事だったデーモンロードについての問題さえ解決すれば後はヴァント王国の制圧も時間の問題だった。
「しかし、協力してくれるのは良いのだがそのまま共に行動は……どう見ても目立つだろう」
カリアはシュウの元へと駆け寄り、ディーも近寄って行った。間近で見れば際立つデーモンロードの巨体。常識外れの魔力を持つだけでなく巨大なドラゴン並の体格を誇るデーモンロードは確実に目立つ。街中にいれば騒動となるのはまず間違い無いはずだ。
「魔族の少年。その杖、いいか」
「え?」
デーモンロードはシュウの持つ杖を指差しながら言うと次の瞬間デーモンロードは光に包まれ、シュウの杖の先端へと光は向かって行った。
「う!?……何があった?」
「目立つと言うからお前の持つ杖に身を隠させてもらった」
「!?杖から声が!?」
光の眩さにシュウは思わず右手を顔の前にやると、デーモンロードの姿は消えている。そう思っていたらシュウの杖からデーモンロードの声がした事にカリアの表情が驚愕へと染まる。
「杖に宿るなんて、そんな事出来るんだ?」
「自分でも知らんがそういう事が出来るらしい」
デーモンロード自身も何故これが出来るのか分からないがカリアやシュウとしてはとりあえずこれで目立つ悪魔王を隠せるので助かる形となった。杖に宿ったにも関わらずデーモンロードは普通に会話出来るようで、これも悪魔王の持つ超魔力が可能とさせる業なのだろうか。
だとしたらやはり規格外、魔力に優れたシュウも杖に宿るなどという真似は出来はしないだろう。
「よし、では此処を出るとしよう」
カリアの言葉にシュウは頷き、二人とディー、そして杖に宿るデーモンロードと共に神殿を出て此処まで来た道を戻る形で歩いて行った。
此処を次に出る時は無事に帰還のつもりだったのがそれだけに留まらずデーモンロードが加わるという想定外過ぎる土産まで手にしての帰還だ。
魔王軍の者達がこれを聞けばどんな反応を見せるのか、更にデーモンロードについて教えてくれたエルフの女王ヘラがデーモンロードと共に居る姿を見れば普段冷静な女王も大変驚くかもしれない。
その事を想像するとシュウは面白そうだなと思えて小さく笑ったのだった。
「うるぁぁーーーー!」
ザシュッ ザシュッ
ヴァント王国の領域内、その空で戦いは繰り広げられてきた。大勢の鳥の魔物ブラッドバード、集団で襲いかかって来たがバルバ率いる空の軍団が空の戦いで後れを取るはずがなく、同じ魔物だろうがバルバは容赦せず次々とブラッドバードを自身の持つ剣で屠っていった。
ズバッ ゴォォーーーッ
更にバルバ達には今回協力な助っ人が付いていた。ドラゴンライダーのアード、彼女は赤いドラゴンと共にブラッドバードを倒し続けている。アードの剣術、赤いドラゴンのブレス、ドラゴンライダー単騎で騎士団一つに匹敵する程の戦力を持つという嘘偽り無い力をもってして空を制圧していた。
「こっちは終わりだ、そっちに残党いるなら手伝うぞ」
「誰に言ってやがる!こっちに雑魚なんざもう残っちゃいねーよ!」
バルバとアード、その周囲にはもう魔物は残ってなく1匹残らず地面へと叩き落としており空の戦いは幕を閉じたのだった。
ピシュッ ピシュッ
地上では狂った騎士団とワーウルフ達と魔王軍で混戦が繰り広げ続けていたがそれも終止符まで迫っている。前線のゼッドが力の限り暴れ続け、圧倒的な白兵戦の強さを持って騎士団とワーウルフの数を同時に減らし続けていた。
テシ達エルフは弓矢で遠くからワーウルフを狙って正確に矢で体を射抜いている。
「終わりは近いよー、あとちょっと!」
テシが仲間達を鼓舞する言葉をかけ、自分も含めて盛り上げていけば連続で弓矢を撃ち続ける手を止めず遠くから獲物を仕留める。主にワーウルフがターゲットだが騎士が近づいてきたら狙いをそちらへと変えて矢を放っていた。
「うおおお!」
ズガッ ザンッ
ワーウルフや狂った騎士が纏めて吹っ飛ばされ、斬られ倒れていく。ゼッドの戦斧を止められる者は今この戦場で存在しない、よって彼の突進を敵が止める術など無い。
一人、また一人と倒されゼッドの周囲の敵はもう誰一人として立っている者は気づけば存在していなかった。
今回の戦いでもまたゼッドは多くの敵を倒し竜の軍団を率いる長として恥じない戦果を挙げたのだった。
「終わりみたい、もう上も下も僕ら魔王軍以外に立っている敵はいない……」
後方で石人形やスケルトンを指揮していたクレイ、前線の戦場での戦いの音が小さくなり戦が終わり間近というのが分かり軽く一息ついた。
「ええ。これで終わり……か」
マリアンもクレイと同じく後方から魔法での支援を担当しており戦いが終わると分かればそれだけ短く呟いた。
「じゃあ……魔王様も制圧する頃だから僕達も行かないと……」
「ちょっと待って」
何時もの流れならシュウが王国を制圧し、長が集まるという流れでありクレイは王国へ向かおうとしていた。だがそれに待ったをかけるかの如くマリアンは声をかけた。
「その前に、行く所があるから付き合わない?」
「……………信じられません」
ヴァント王国の王城、吸血鬼達と戦った王の間にカリアとシュウにディー。そしてバルバ、ゼッド、ミナ、テシとそれぞれが集結。
ミナはシュウから今まで起きた事について聞いていた。その中でデーモンロードが協力し杖に宿るという話は冷静なミナにとっても衝撃だったのだろう、言葉を少し失った後にその言葉を発した。
「あの古の時代に暴れてやがった大悪魔が魔王様と話し合って……そんで今その杖の中?マジで言ってんですかい?」
「色々信じられないだろうけど、マジな話だよ」
呆然としながらバルバはシュウの持つ杖へと視線を向ける、そこに今デーモンロードが宿っているとの事だ。巨体のまま移動しては目立ちすぎるので一時シュウの杖を家のような状態にしているものである。
「いやいやいや、これはヘラ様知ったら多分ひっくり返るよこれ!あのデーモンロードがこれからの共存する世界の実現に向けて協力してくれるなんて、有り得ないにも程があるってー!」
興奮気味にテシは腕をぶんぶんと振り回し、ヘラに是非今のデーモンロードを見せたいなと思っている様子だった。
当時のデーモンロードを唯一知るであろう古からの証人が見たらどういう反応を見せるのか。それはシュウだけでなくカリアも見てみたいとちょっと興味は湧いてくる。
「まだ受け入れがたい事実ではありますが、最大の障害はこれでなくなったという事に変わりはありませんね。ヴァント王国も滅びた今、このギーガ大陸は魔王軍の天下となったと言って良いでしょう」
「天下というか支配のつもりは無いけどね。ひとまず大きな戦いは終わり、これからはおそらく人と魔の共存する世界に向けて色々とやる事は多くて忙しくなるよ多分」
ひとまず悪魔王は味方についてくれた、そう考える事にしたミナは切り替え今の状況を整理する。ヴァント王国は滅びて対抗する人間の勢力はもうほぼ無いと言っていい。世界最強の強国が魔王軍に屈したとなれば他の国がそれで諦めてくれて軍門に下る確率がある、そうなれば無駄に血を流さず戦いは終わるというものだ。
シュウは王の間にある玉座へと歩く。
彼がそこに座る事で魔王軍はこの王国を制圧した、そういう意味を持つ。そしてこの後は魔王軍の兵士達の前でシュウが直々に言葉をかける。
そして少しの休息を取り、人と魔の共存世界。その実現の為にカリアとシュウは動き出す事になる。
色々な事が起こったギーガ大陸での戦い、カリアとシュウが出会い勇者と魔王という立場であるにも関わらず二人は人と魔の共存する世界の実現の為に手を組み共に障害となる人間達の国へと侵攻し制圧を繰り返す。
ただ人間の国の中には魔王軍へ味方する国もあった。
海上都市の王国ターウォ、その国を統べる若き国王レオン。傭兵ホルク。
古の英雄の伝説が語り継がれる王国ロウガ、国王レオン。王女ミーヤ、后セティア。
更にエルフの里の女王ヘラ、その部下テシ。そしてドラゴンライダーのアード。
協力する皆の力があってこその魔王軍の大国制圧へと繋がる事が出来た。
これまでの事を振り返りつつシュウは玉座の近くまで来ていた。後1歩、シュウが、魔王軍がヴァント王国を制圧する証明となる。
だが。
「…………グゥゥゥゥゥ……」
「クォォォォォ……」
何か様子がおかしいのがこの場に二人程いた、何やら低い唸り声を上げている。カリアが思った一瞬だった。
『ウォォォーーーーーーーーーーーーー!!!!』
「!?」
突然二人はそれぞれ武器を持って玉座の前にいるシュウへと突進していった。これに気付いてシュウが振り返ると彼の顔は驚きへと変わっていた。
テシも、ミナも、そしてディーも驚いてしまう。
驚かない訳がない。
魔王軍の長である二人、バルバとゼッドが魔王軍の頂点に立つシュウへと突然攻撃しに行ったのだから……。
まずは此処まで見ていただきありがとうございます、ヴァント王国が滅びこれで全部終わるかと思ったら……とんでもない展開となりました。
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