62、大国に隠された神殿
吸血鬼達は自らの勝利を微塵も疑ってはいなかった。
いくら魔王とはいえ子供の魔族、魔力が優れた上級魔族である吸血鬼という種族が負ける事はない。それも吸血鬼は5人は居るのだ。
1人だけで人間の軍を殲滅出来る程の力がある、それが5人もいれば負ける訳がない。手強いのは魔王だけ、後に居るのは小さい竜とただの人間の女で恐れる必要などない。
とにかく魔王を潰せば自分達の勝利に揺るぎは無いのと同時に魔王軍を滅ぼす事が出来て自分達が新たに魔王軍を築き上げられる、その野心を持って吸血鬼達は襲いかかって来た。
ザシュッ
「ぐはっ!」
向かって来る吸血鬼にカリアの大剣が振るわれ、吸血鬼の礼服が切り裂かれ腹部から血が流れるのと同時に青い肌がさらけ出される。
「血……血ぃぃ!?高貴なるこの私が血を流すだとぉ!?」
吸血鬼からすれば人間という種族は下等な存在であり餌に過ぎなかった。人間の女の血を吸おうとカリアへ迫ったのだが血を流したのは吸血鬼の方となった。
下等な人間相手に血を流す、これは吸血鬼のプライドを深く傷つけており怒りのボルテージが急上昇する切欠になりカリアを本気で殺そうと目の前に居るカリアをキッと睨む。
「!?」
しかし目の前に居たはずのカリアの姿は無い、何処だと右を左を見回していくと…。
ドスッ
「がはっ…!」
吸血鬼は背中から剣を刺され、腹部から剣の切っ先が生えてきた。後ろを見ればカリアが背後へと回って剣を突き刺していた事をようやく理解したが同時に彼の死が訪れ、地面へと横たわる。
「おのれ!」
「!」
仲間の吸血鬼が倒され、もう一人の吸血鬼が魔法の詠唱へ入ろうとしていた。いかにも近距離が得意そうな大剣持ちの勇者相手に近距離で挑むような事はしない、高い魔力で遠距離から魔法を放ればいかに勇者だろうが倒れないはずがない。
だがカリアは相手が魔法を唱えると思ったその刹那に地面を蹴って一気に吸血鬼との距離を詰めて大剣を横へと薙ぎ払うように振り抜く。
ズバァァッ
「ぐああ!」
後少しで魔法を唱えられるところまで来ていた、だがカリアはそれを許さず吸血鬼を切り裂き吸血鬼は自らの血で作られた海へとその身を沈めて力尽きていった。
「うぐぅ……な、何故だ。何故高貴なる私が負けるのだ……」
可能な限りの高度な魔法をぶつけてきた吸血鬼、だが目の前の魔王には全くそれが通じなかった。高レベルな炎の魔法を撃ったがそれ以上の炎に魔法ごと飲まれて吸血鬼の礼服は身体ごと燃やしていき、戦っているシュウの方は息一つ乱れてはいない。
「何故もなにも、単純な実力差ってやつだよ吸血鬼君」
不敵に笑うシュウは巨大な炎の弾を作り出していた、それを見た吸血鬼は自分の身の危険を感じ恐怖するようになる。
「ひっ……ぎゃあああああああ!!!」
ゴォォォーーーーーーーーッ
巨大な炎の弾に吸血鬼は飲まれ、魔王の圧倒的力を感じながら灰も残らずこの世から消え去った。
上級魔族である吸血鬼。普通の魔物よりも強力な力を誇るはずの彼らだが、相手が悪すぎた。
カリアとシュウの力の前に全く歯が立たず次々と数は減っていく。
「そ、そんな……悪夢だ……我々は上級魔族だぞ!?それが何故こうもあっさり倒される……」
「おい」
「!?」
信じられない様子の吸血鬼、酷く動揺していたようで目の前まで迫っていたカリアに声をかけられるまで気づく事が出来ていなかった。
カリアに迫られ声をかけられると吸血鬼はびくりと身体を跳ねさせた。
「此処にヴァントの国王ベーザはいないようだが、何処に消えたのか分かるか?」
「そ、それは…………」
「正直に話しちゃった方が良いんじゃない?」
「!?」
シュウにまで迫られて勇者と魔王の二人がかりで吸血鬼を問い詰めにかかっている、もう残っている吸血鬼は自分一人。どう足掻いても一人でカリアとシュウを倒せる訳が無い。
「……此処の、地下に神殿があるんだ」
「神殿?このヴァント王城にそんなものが?」
他の城よりも巨大さを誇るヴァントの城、何か隠された物があるのかと思っていたら城の地下に神殿があるとはカリアは初耳だった。
「この地は元々……古の化け物を封印した場所で、ヴァント王国がその場所を守るという意味も込めて国を興して神殿を城で隠していたらしい」
吸血鬼から出た古の化け物、それを封印。ただならぬキーワードをカリアとシュウもそのまま聞き捨ては出来なかった。
「それ、デーモンロードだよね?キミ達が復活させようとしている」
「そこまで分かっていたのか……!ああ、そうだ。上の連中……ガーラン様とアス様は古の化け物デーモンロードの復活に躍起になっている」
吸血鬼はガーランとアスの部下、これでデーモンロード復活を企む主な人物はその2名と確定。しかし色々と喋ってくれる吸血鬼で二人としては助かる。上の者達にそこまでの義理などは多分無いのだろう。
「じゃあ、魔法薬については?ヴァントの騎士達が取り返しつかない程に狂い果ててたんだけど」
シュウはワイバーンを強化したりヴァントの騎士を暴走させた魔法薬についても何も知らないかと問い詰める。
「人間にはどういう効果があるのか、実験していたんだよ……どうせ敗戦濃厚で死を迎えるだけの騎士なら好きに使った方がお得だって。それで奴らの食事や飲み水に魔法薬を少量混入させた、その為か効果が出るまで時間差はあったが全員あの通りだ」
魔法薬を騎士達に飲ませた方法として食事や水に混ぜさせた、そして少量の為に即効性は無かったが時間が立つと効果が現れ最終的には全員が暴走していたのだ。
「けど、それで俺達にまで見境なく攻撃するようになって味方であるはずなのに狙われる……ただそれでも上の二人はこれで良いとばかりにその状況を改善しようとはしなかった、正直それで変だと疑いもしたもんだが……感づかれたら生かしておく訳が無いだろうから黙っておくしか方法は無かった」
上の二人、ガーランとアスはそれでも良しとしていた。先程会ったアスも自らが騎士に襲われていたのにまるで焦ってもいない、こうなる事を予測したかのようだった。
こんな事がデーモンロードの復活に繋がると言うのだろうか。
「お、俺の知ってる事は全部言った!もうお前らにもあの上の奴らにも関わりたくないから俺は逃げる!」
吸血鬼は一通りの情報を言った後に慌てながら足をもつれさせつつも逃げて去って行った。これに追撃しようとは思わない、もはや彼は何処にも所属していない魔族となったのだから始末の必要は無い。
「地下に神殿があるという話だったな、そこにベーザ。そして多分アスとガーランも居るかもしれない…か」
「デーモンロードに関わる重要な場所だ。ひょっとしたら封印されている本体そのものがある可能性も……行こうか」
彼らがこの城に居るとしたら城の地下にある神殿、カリアとシュウは共に地下へ行く事を決めて王の間を出る。それにディーも後に続いて走る。
2階から1階へと降ると地下へと進む階段は見当たらない、階段はまた別のところにあるという事なのだろうが探すのにあまり時間はかけられない。グズグズしていたら連中がデーモンロードを蘇らせるかもしれないからだ。
目覚めたら今のカリアとシュウで太刀打ち出来るのか分からない、それ程の強さと思って間違い無いだろう。何しろ大国一つを消し飛ばす程の力を持っているのだ。警戒するに越した事は無い。
「ガウーー」
「ディー?」
その時ディーが吠える、するとディーはそのまま走り出してカリアとシュウもそれに続いて走り、ディーについて行く。
ディーが走りたどり着いた先にあるのはヴァント王国の厨房、流石と言うべきか広く立派な厨房でありメリルが此処に居たら目を輝かせていたかもしれない。
見たところ階段らしき物は見当たらない。
「ん?……何かこの棚、不自然だな」
カリアはその時多くの食器がしまってある食器棚に目が止まる、他の棚はきっちりと奥に収まっているはずがこの食器棚だけ不自然に中途半端な形で前へと出ている。これに怪しいと感じてカリアは食器棚を力任せに押して横へとずらしていった。
「あ」
シュウが思わず声を上げる。棚をどかした所の奥にある壁に階段があった。下へと降りる階段で上へと行く階段は無い。
おそらくこれが神殿へと通じる隠し階段なのだろう。
「ディー、お手柄だ」
「ガウ」
カリアはディーの頭を撫でて褒めた後に先頭で階段を降りていき、シュウとディーも続いて降りて行った。
地下へと続く階段は長く、中々階段の終わりが見えて来ない。どれくらい降りたのか、一行はようやく階段を下り終えるとそこは小部屋となっており、目の前に扉が一つあった。
カリアが率先して扉を開ける、何が飛び出しても大丈夫なように剣を抜くようにはしている。
そっと扉を開けると、カリアの目に飛び込んで来たのは……。
「!ベーザ……」
それまで広がっていた城の構造とは違う作り、空気感も変わったような気がする。此処がいわゆる神殿という所なのだろう、だがその変化を感じ取る前にカリアの目に飛び込んできたものがある。
それはうつ伏せとなって血を流しピクリとも動かないヴァント王国の国王、カリアとシュウの二人を同時に亡き者にしようと企んだベーザ本人だった……。
まずは此処まで見ていただきありがとうございます、上級魔族だろうが変わらず蹴散らす勇者と魔王。そして地下で変わり果てた宿敵の姿……物語はまだ続きます。
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