61、王国を根城にする魔物達
ヴァント王国領内は地上も空も戦いが繰り広げている、騎士団と魔物達がそれぞれ入り混じって戦い騎士は時々同士討ちを行い数は自ら減らしつつ戦う事を一向に止めない。それは魔王軍ではない魔物の方にも襲いかかる。
「ガーーーー!」
「ぐお!?てめえ何すんだこらぁ!」
剣を振り回す騎士に刃を寸前のところで自らが持つ剣で防ぐワーウルフ、見境無い騎士がそのままワーウルフに襲いかかり剣での鍔迫り合いとなる。
「フン!どらぁ!」
戦斧で纏めて騎士達をなぎ倒して行き、そのまま奥に居たワーウルフにも迫り真っ二つに斧で切り裂いた。騎士達とワーウルフが迫ろうがゼッドの勢いは止まらない、むしろ戦闘すればする程に勢いが増して行くようだ。
「来るなら来い!俺は逃げも隠れもせんぞ!」
竜の猛将は真っ向から大軍へと向かって斧を持ち突撃する。
「おーおー、張り切ってるなぁ竜の大将さんは」
ゼッドの突撃を後方からテシは眺めており、敵が次々とゼッドによって倒されていく姿がよく見える。
「とりあえずこれで地上の方は安泰っと!」
そう言うとテシは上空から襲いかかって来たブラッドバードへと素早く弓矢を放ち、一撃で矢はブラッドバードの翼を射抜き地面へと叩き落とす。
ブォンッ ドガガガッ
「ケェェ~~~!」
空では赤いドラゴンが尻尾を振り回しブラッドバード達に叩きつけ、その竜に乗るアードもブラッドバードの翼を剣で斬り機能性を失わせて地面へと落下させていった。
竜とアードの息はピタリと合い、空中戦でブラッドバードを寄せ付けず。地上も空も竜が止まらぬという展開になりつつあった。
「竜が味方で良かったぜ…敵だったらなんともゾッとする話だ」
その光景を自分へと向かって来たブラッドバードを剣で切り裂いて返り討ちにしたバルバはアードやゼッドが味方で良かった、心底そう思い安心するのだった。
いくら血気盛んなバルバでも竜に簡単に勝てると思う程自惚れはしない、そんな相手とやりあったら命がいくつあっても足りないからだ。
そして今は共にブラッドバードを撃退しているアードとはひょっとしたら剣を交えていたかもしれない。空中戦には自信を持つバルバだがドラゴンライダー相手となると正直結果はどうなるか分からず、ただ言える事は味方だと頼もしい。
空中も制圧出来るのは時間の問題だ。
ヴァント王国前で大激戦が繰り広げられる中でカリアとシュウとディーは王国の街へと入る。
一度カリアはこの街に訪れた事はあった、ヴァント王国で開催された武術大会。あそこで圧倒的強さで優勝しカリアは勇者と認められ人々に期待される存在となり魔王軍討伐へと旅立つ切欠の出来事だった。
世界一の大国とあってその街も広く建物も多く建てられている、だが今この街には足りない要素がある。
人が一切いない事だ。
「住民達がいないね……」
「騎士団があのようになってしまったのだ、全員ヴァントから出たかのかもしれない。暴走した騎士団辺りが殺したのならその辺りに遺体でも無ければ変だ。」
街の中を移動するも人に出会う気配はない。普段ならば大勢の住民達が暮らしているはずだが人の気配が感じられず、遺体もない事から騎士団の手によって殺されたという可能性は低そうに思える。
代わりに殺気立つ気配はカリアもシュウも感じ取る事が出来た。
「ウウウー!」
「コロスコロスコロスー!」
街にも狂ったヴァント騎士の姿があった。これまでと同じように彼らも先程見た騎士達と同じように狂い果てていて自我は既にない。それぞれ剣や槍を滅茶苦茶に振り回している。
その刃はカリアへと向けられた。
ズババッ
「ガァァっ!」
「ガハァッ!」
目を細めてカリアはそれぞれの騎士へと大剣を横薙ぎに振るって鎧ごと胴体を斬り、狂った騎士達は自らの血で流れる海へとその身を沈めてそのまま動かなくなった。
「迷わず成仏せよ……」
彼らへとカリアは小さく祈ってから再び駆け出してシュウも続き、ディーもシュウにしっかりとついて行く。
「此処だね、ヴァントの王城は」
シュウとカリアが見上げるその先、威厳ある大きな城が二人を出迎えるように建っていた。
今まで何度も王国の城という物を見てきたが流石世界一の大国というだけあってヴァント王国の城はかなり巨大で、まるで大要塞を思わせる。
だが狂った騎士にワーウルフといった者達が城の前に居るのを見ると今や強国の城は単なる化物の巣窟と化しているようだ。そこには大国としての威厳など微塵もない。
「一気に行くぞシュウ!」
「勿論」
「ガウ!」
ディーまで意気込む中、勇者と魔王はヴァント王城へと踏み込んだ。そしていきなり出迎えたのは魔物達、ワーウルフの集団がそれぞれ武器を構えていた。
「たった二人で来るたぁ自殺にでも来やがったかぁ!?」
「血祭りにあげちまおうぜぇー!」
「よく見ればちいせぇ竜までいやがる、あいつもやっちまおうぜー!」
剣の刃を煌めかせ、カリアとシュウ。更にディーまで狙うつもりだ。ワーウルフにとって彼らは獲物と認識されてしまった。普通の人間からすれば逃げたくなる恐怖感があるだろう、魔物に狙われるというのは。
だが今回に関しては後に恐怖するのはワーウルフの方、この時彼らはそんな事は微塵も思っていなかった…。
「フン!はっ!」
ザンッ ガシャッ
「ぎゃあああ!」
「ぐええ!この……何だこの…………人間は……」
剣や槍、斧を持ち、それぞれの武器を振り落とすワーウルフにカリアは大剣で受け止めつつワーウルフの腹を剣で切り裂き、振り下ろして身体を真っ二つに斬りおろし確実に自身の剣でもってワーウルフの数を削り取っていった。
「ぐわぁぁーーー!」
「うおおお!身体が!身体が燃える!」
ゴォォォォォォ
地獄の炎を自在に操るシュウの高等な炎魔法。ワーウルフにも魔法の使い手が何体か居るがシュウの魔法、その魔力にとても対抗は出来ずに威力に押し負けて彼らは炎に焼かれ灰も残らず消えていった。
「自殺にでも来た……その言葉お返しするよ、そんな程度の実力で魔王に勝てるとでも?」
大勢のワーウルフが焼かれる光景、それをあまり見る事はなくシュウは視線を外しカリアの方を見た。向こうの方もあらかた終わっておりワーウルフの軍団が倒れ、カリアは息一つ乱れていなかった。
獣の軍団も勇者と魔王の相手にならず、二人はその屍を踏み越えて王の間を目指す。
国王ベーザが居るのであればそこだろうと。
先程の広間に戦力を集中させていたのか、城内は意外と敵は出て来ない。何処かに潜んでいる可能性もあるので油断せず注意深くカリアとシュウは進む。
「確か以前城に来た時、王の間はこの2階にあった。もうすぐのはずだ」
以前カリアはこの城に招待されており城の構造があれから変わってさえいなければ記憶の通り辿って行くと着く、そう考えておりカリアが先導する形となっていた。
「あの扉、此処だ」
カリアにとっては見覚えのある他とは違う大きな入口の扉、王の間の扉というのは大抵こういった大きく立派な作りをしている。
「国王ベーザか……彼は正気で出迎えるのか、それとも騎士のように自らも狂っているのかな?」
「どちらにしてもこんな状況にまでなってしまっているんだ。正気だろうが奴はもう狂ってるも同然だろう」
散々騎士達の暴走を見てきているシュウ、頂点に立つベーザはどういう姿を晒すのかと考えているがカリアにとってはどちらだろうがベーザは既に狂っており王としてはもう終わりだときっぱり言い切ると扉の前に立つ。
「覚悟するがいい、国王ベーザ!!」
ドガンッ
カリアは強引に扉を蹴り開け、王の間へと入る。シュウとディーもそれに続き中へ入るとヴァント城の王の間はやはりと言うべきか他の城のと比べ広々として豪華絢爛と言っていい作り、天井のシャンデリア等いくらかかっているのか。
だが、カリアの言葉に反応は誰もしていない。
王の間には誰の姿もなく玉座にも誰もいない。
「何?どういう事だ……」
「こういう事だ!」
バタン
その時カリアが蹴り開けた扉が勝手に締まる。カリアもシュウもディーも扉には触れていない。
「ククク、わざわざ死にに来るとは……我々吸血鬼に会う前に騎士やワーウルフに殺された方がまだ幸せだったと後悔するだろう……」
声は天井から聞こえてきた、上を見上げれば数人の貴族の礼服を纏う男達が魔法で宙に浮かんでいる。
吸血鬼、上級魔族であり高い魔力を持つ種族がカリアとシュウの前に立つ……。
まずは此処まで見ていただきありがとうございます、あっちもそっちも戦いが繰り広げられて戦いの連続。魔物達の力まで加わったヴァント王国相手なので簡単には終わらない、という予定です。
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