57、狂い荒ぶるヴァント王国騎士団
「魔王様、もうじきヴァント王国領内へと入ります」
「確かこの先の砦で合流の予定だったね」
カリアとシュウとディーはアースドラゴンへと再び乗ってロウガ領内を抜けてヴァント王国に向け、移動を開始していた。
前にはゼッド達軍団がしっかりと魔王を守らんと護衛しており、ゼッドはシュウへとヴァント領内が近い事を伝える。
「しかしシュウ……体調は本当に大丈夫か?朝顔を合わせればお前の顔が赤くなっていたようなのだが」
「それは別に何も問題無いよ……」
ロウガ王国で一晩泊まり目が覚めて朝食時にカリアはシュウと顔を合わせていたらその顔が赤く、魔王でも風邪を引くのかと思いつつ体調を心配したがシュウとしてはそういう訳ではない。
ただ色々あって色々な意味で距離が近くなっただけだ、詳細はとても話す事は出来ないが。
「ガウ?」
カリア以上に何も知らないであろうディーはただシュウのマントにしがみついていた。
「む、砦の戦闘はもう終了しているか。ひと暴れ出来るかと期待したのだが残念だな」
ヴァント王国の領内へと入るとゼッドの乗るアースドラゴンが移動スピードを早めて先行し、最前列で前方の確認をした。砦が見えており予定ではあの砦で別の部隊と合流するという事だ、その部隊が苦戦していて戦闘が長引いていたらゼッドはひと暴れしようと考えていたがその必要は無かった。
それは砦の前に居る石人形が見張りをしている姿で分かる、今更見間違いようが無い。クレイの石人形だ。
「はーい、此処までの移動お疲れ様♪」
砦から出て来てマリアンは陽気に笑って皆を出迎える。
「皆の方がお疲れでしょ。砦での戦い、思ったより早く片付いたみたいで」
シュウの考えでも此処での砦は多少時間がかかると思っていたが、どうやらそのつもりは無かったとはいえ知らぬ間に過小評価してしまっていたのかもしれない。
改めて優秀な者達が魔王軍に揃っているとシュウは今更ながらそう思った。
砦へと入る一行、数々の魔王軍の兵士が砦の内部に待機している姿が見える、以前制圧したギガント大要塞のような規模ではないが砦には大砲が備え付けてあったりと流石世界一の強国が管理する砦とあって小規模とはいえ充実した作りとなっていた。
その中にクレイが大砲を色々といじっている姿が確認される。
「うん、良い大砲……流石最新ヴァント式は違うなぁ…この前のアムレート式はレトロ感強かったけどそれもまた良かったしギガント要塞のは性能が良いけど地形上の問題であまり活用出来なくてマイナスポイント大きい……」
小声でブツブツと呟き、機械好きなクレイを刺激させるような大砲だったようで彼の手により改造が施されていく。この大砲に魔法も込められるようにして魔法弾も撃てるようにする為だ。
とりあえず集中してるようなので邪魔はせずカリアとシュウは話しかけずその場を後にする。
「いよいよ戦いはヴァント王国、此処を落とせばギーガ大陸は我々魔王軍がほぼ手中に収める。言うまでもありませんが今まで以上に重要な戦となります」
砦の会議室は王国のような広い部屋ではない、だがそれでも利用するには支障は特に無し。むしろ王国の会議室が今まで広すぎたのが大半だ。巨体を誇るゼッドには少々狭苦しいかもしれないが。
魔王のシュウを筆頭に勇者カリア、参謀のミナ、そして魔王軍の長がバルバ以外に集結している。
「バルバの奴はどうした?」
「ヴァント王国の間抜け顔を拝みに行くとかなんとか言って偵察も兼ねて行きました」
ゼッドからのバルバの不在についてミナは説明、バルバの言う間抜け顔までしっかりと正確に伝えればそれにシュウやマリアンは笑いが吹き出しそうになる。
冷静沈着で真面目なのがミナの良い所だがバルバも自分の言う間抜け顔までミナから正確に魔王軍全体へと伝えられるとはあまり考えてなかったのかもしれない。
「世界一の騎士団を有すると言われますが既に騎士団長のベンは魔王様の手によって葬られ、副団長のタウロスも先のキリアム大草原で戦死。更に数々の優秀な騎士は我々が各国へと侵攻していく中で倒し、多くの同盟国も制圧。ヴァント王国の戦力は大国の戦力としては下の下まで落ちました」
手元にある資料に目を通し、改めて確認すればミナは今のヴァント王国の状態を説明。新たな戦力を補充する暇は与えず魔王軍はキリアム大草原での戦が終わって間も無く今回の砦を制圧し、次の王国そのものの攻略へと備えていた。
「可能性としては傭兵団の者達が潜み我らへと奇襲、一番の危険性があるとする点ならそれですね。それに合わせ姿の無いドラゴンライダーの襲撃……これに気をつければ王国の制圧は問題なく出来る、と考えます」
騎士団がほぼ崩壊している現状でヴァント王国で要となる戦力は傭兵団という事になるが、キリアム大草原の時はその姿は見かけなかった。それに加えドラゴンライダーを見かけたという報告も無い。
勿論カリアとシュウ、前線で戦っていたゼッドも見てはいない。
「ではバルバが戻り次第に改めて……」
ミナがそこまで言いかけた時に砦の出入り口付近が何やら騒がしく聞こえて来る、これにシュウは席を立ち様子を見に向かいカリアに他の者達も後に続く。
「会議どころじゃねーって!あいつら狂い果てやがったんだよ!」
砦の入口で魔族の兵士の胸ぐらを掴んでガクガクと揺らすバルバの姿があった、様子を見る限り相当なまでに取り乱しているように思える。
「バルバ、偵察から帰って早々騒がしいね。そんなに面白い間抜け顔でも拝めたのかな?」
シュウは冗談混じりにバルバへと軽く笑ってそう言うがバルバの顔は冷や汗をかいており、普段の彼からは想像がつかない。向こうで一体何が起こったか、これを見たシュウの笑みは消える。
「魔王様……ヴァント騎士団の奴ら、暴走しやがったんですよ!うずくまったかと思ったら急に獣みたいに吠えて仲間同士で斬り合いを始めたりと!」
「暴走だと?」
シュウの後ろに立っていたゼッドが反応、話を聞く限りヴァントの騎士が狂って訳の分からない行動に走ったという事だが世界最強であろうヴァント騎士団の一員がそんな狂いに狂った行動に走るのがヴァントの騎士を知るカリアには想像がつかなかった。
「…悪い夢か、それとも幻惑の類いの魔法にでもかけられた?それでありもしない幻を見たとか…」
「んー、そうは言ってもバルバからは幻惑の魔法に関する魔力は特に感じられないわね。対象者じゃなく場所の方かもしれないけど」
クレイもにわかには信じられず、幻覚を疑うがマリアンがバルバの様子を見て何か魔法でもかけられた痕跡が無いか探ったが特にそういった物は見つからない。
「だから幻でもなんでもねぇって!本当に目の前で狂って吠えて味方同士で斬り合いをしてたんだよ!」
相当信じらない物を見たバルバはその光景を見たと必死に皆へと伝えていた、嘘や冗談を言っているようにも見えない。しかし本当にそれが起こったのかと信じきれない。
「ま、魔王様!」
そこに今度は魔族の兵士が慌てた様子で砦へ駆け込んでくるとシュウの前に跪き、報告をする。バルバといい今日は慌ただしい日だ。
「空から竜が、竜がこちらへと向かって来ます!」
「竜?」
報告を受けるとシュウは外へと出てカリアも剣の鞘を手に何時でも剣を抜けるようにしておく。
空に大きな影、それはどんどんと砦へと迫り来ており姿はその時明らかとなる。
大きな赤い竜。その背に人が乗っている、世界でも滅多にいないと言われる竜使い。ドラゴンライダーに間違いなかった。
敵襲かとカリアは剣を抜く。
「待て!戦いに来たんじゃないんだカリア!!」
「!?」
竜の背中に乗った者が高めの声で叫んだ、それもカリアの名を。その言葉を受けてなのかカリアは剣を振るおうとする手を止めた。
「何者……?ドラゴンライダーというのは分かってる、一体カリアとどういう関係が?」
赤い竜が降り立ち背に乗っていた者も地面へと降りる。ボサボサの赤髪で黄色いヘアバンドを額につけた中性的な顔立ち、人の方を見ただけではドラゴンライダーとは分からないだろう。
シュウは二人が何やら知り合いのように見えて赤い髪の人物へと尋ねる。
「その者の名前はアード、私と同じ……孤児院出身だ」
「孤児院の?」
以前カリアは孤児院について話していた、親がおらず孤児院出身のカリア。そこでは孤児院の子供達と友人になったのだとシュウはそれを思い出す。
「そう、俺もカリアと同じ所で過ごして育ったんだよ」
「しかしお前がドラゴンライダー……昔は剣を振るう所など見た事無かったのだがな」
改めてカリアはアードの姿を見た、昔の友がまさかこうなっているとは正直思ってはいなかった。
カリアからすれば面影があり懐かしく思い、かつて共に過ごした孤児院での日々を思い出させる。
「と、カリア。昔話をしに来たんじゃないんだ」
話を突然打ち切りアードは深刻そうな顔でカリアとシュウの二人へと告げる。
「まもなく此処にヴァント王国騎士団が迫ってくる、それも普通じゃない狂った状態の連中が……」
「何!?」
それは先程バルバが動揺しながら伝えていた事と同じ、ヴァントの騎士が狂っている。バルバと違い冷静にアードはそれを伝えたのだ。
「グァァァーーーー!」
「ゴァァーーーーー!」
「グゥオオオー!テキコロス!ノコラズコロス!」
馬に乗らずヴァント騎士達は大勢でシュウ達の居る砦を目指して雄叫びを上げて向かっている。
まともな騎士としての行進ではない、途中で味方同士が武器で斬り合い殺し合いを展開しているのが所々に見える。そういう事を行いつつも歩いてきている光景は異様にも程がある。
ゾンビか何かを思わせる程の不気味さ、今の彼らには秩序も自我も、騎士としての誇りどころか人としての心すら失われていた……。
まずは此処まで見ていただきありがとうございます、暴走っぷりを際立たせようと全部セリフをカタカナにしたりと益々騎士団がやべー奴らと陥っていきます。
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