56、堕ちた咆哮
「撃て!撃てー!!」
ヴァント王国領内にある砦、そこは以前にオーク達の大軍の襲撃に遭っていて傭兵団の活躍によって凌ぐ事が出来た。
だが今回はそれとはレベルの違う大軍が攻め込んで来て砦を守るヴァント騎士団は皆が動揺しながらも敵襲に対応し砦に備え付けられた大砲に弾を装填させ、敵を狙って発射させていく。
ドォォーーーーンッ
弾は魔物達へと命中。所々が吹き飛ばされていき、骨が辺りに飛び散って地面に落ちる。砲弾を喰らったのはスケルトン達だが彼らが倒れても後ろから続けてスケルトン達がやって来る、何度倒れても倒れても起き上がり砦へと迫る。
「くっ…!次の弾だ!早く撃て!」
「お、お待ちください!そんなすぐに連発は無理ですから!」
大砲の一撃による火力は強い、ただ装填に時間がかかり連発で放つ事は中々容易ではなかった。そして早々に弾を用意している所に…。
「遅ぇよ!」
「!?」
大砲がスケルトン達へと向かれている間にバルバ率いる空の軍団が砦へと素早い強襲を仕掛け、乗り込んで来た。
「オラオラーー!!」
ズババッ
「ぐわぁ!」
「ぎゃああ!」
剣や槍を持ち、砦に乗り込んで来たバルバへと二人がかりで騎士は武器を振りかざそうとするがそれよりも早くバルバの剣が二人の騎士を切り裂く、大砲の装填に集中していたのもあって対応が遅れて素早く切り替える前に空の軍団がその命を次々と狩り取り続ける。
「おのれ鳥野郎が!焼き鳥にして食ってくれる!我に炎の力をもたらせ、メガブレイズ!」
騎士団の中に魔法の使い手がおり、騎士は炎の魔法の上位を唱えると両手から炎の渦がバルバを飲み込もうと迫って来た。
ボォォォーーーーーッ
「ギャァァァーーー!」
「は……ざ、ざまあみやがれ!」
炎に飲み込まれた魔物が悲鳴を上げている、渦の中で焼かれての苦痛からによるものだ。自分の魔法が決まった、これに騎士は勝ったと思いニヤリと口元に笑みを浮かべ言い放った。
「なーにがざまぁ、だって?」
「へ…!?」
騎士の左肩を誰かに軽くポンと叩かれ、騎士は振り返る。そこに居たのは焼かれたはずのバルバ。彼は何も喰らってないのか無傷のままだ。
どういう事だと戸惑いつつ騎士は自分が炎の魔法で焼いた獲物を確認してみる。ハッキリと悲鳴上げて喰らった所は影ながら見たはず、残像などの類いではない。
先程喰らっていた物、その姿が明らかとなれば喰らって燃えていたのはバルバではない手下のバードマンだった。
同じバードマンの種族なので喰らったのがそれでバルバだと思い込んでしまっていたのだ。
「ちょっとは良い夢でも見れたか?じゃあそのままあの世に行ってな」
ザクッ
「が…」
バルバは騎士の背中に剣を突き刺し、それが腹から剣の切っ先が生えて来て剣は貫通。そして剣を引き抜けば腹部から多くの血が流れて騎士は地面に倒れ息絶える。
「砦の人間どもを皆殺しにしとけ!一人も逃すんじゃねぇぞ!」
バルバは部下へと命令し、砦の人間を皆殺しにするよう言った後に自らも残りの騎士を剣で葬り去り続ける。
砦が空の軍団の強襲によって制圧されるのは時間の問題、砲撃はその間止んでおり魔王軍は砦へとバルバ達と合流する為に進軍を続けた。
「ふうー、皆お疲れ…」
砦の前にクレイは来ており、砦に騎士や敵はもういない。身の安全が保証されればこうして自ら姿をクレイは見せると大砲の壁となっていたスケルトンへと労いの言葉をかければスケルトン達はそれぞれ骨をカタカタ鳴らしながら応えてみせた。
いくら大砲が強力とはいえ不死のスケルトンにはいくら撃ち込まれてもクレイの魔力さえ切れなければ動かし続けられる、今回は不死身の軍団に目を向けさせて囮にしてのバルバ達の機動力に優れた空の軍団の強襲で砦をすぐに攻略してみせたのだった。
「予定よりも早い制圧でしたね」
「はっ、俺を甘く見るんじゃねぇよ!」
砦を制圧後、ミナが砦の内部を観察しながら制圧はもう少しかかると想定していたがバルバとクレイがそれよりも早めに終わらせた。
「アムレートの大砲も良いけどヴァントの大砲もこれ良い感じ…!砲身が綺麗だし」
「……意味分かんねぇって、同じじゃねぇか」
クレイは砦内にある備え付けの大砲へと駆け寄りじっくりと大砲を眺める、その目は輝いておりバルバは呆れ気味。こういうのが好きな者には微妙な違いも分かるものなのかもしれない。
「で、魔王様達はまだかしらぁ?」
「ロウガ領内で休憩しておりゼッド達の軍団と合流後に彼らが先行する中で来られる予定です、その後ろはターウォの者が引き受けてくれていますので」
マリアンもミナと共に来ており、シュウやカリアの姿が無い事に辺りを見回しているとミナが説明。自分達がまずは先行して砦を落とす露払いの役目を果たしていたのだ。
キリアム大草原での戦いの後、すぐにミナは攻め込む事を提案。ヴァント王国の戦力を大きく削り、攻めるなら今が好機と見て魔王軍はヴァント王国へ向けてすぐに進軍を開始、迎撃が整わぬ内に砦を早々に攻略し作戦は当たった。
注意するべきは傭兵団のみと考えられ、何しろ向こうにはドラゴンライダーが居る。キリアム大草原の時はどういう理由で姿を見せて来なかったのか知らないがそのおかげで想定よりも楽に魔王軍がこの戦を制していた。
どんな事情があるにしてもこれは魔王軍にとって最大のチャンス、此処で総攻撃を仕掛け一気にヴァント王国を落とせばギーガ大陸をほぼ手中に収める事が出来ると言っても過言ではない。
「さあて、それならもうひと仕事して来るかな。奴らの間抜け顔拝むついでに偵察でもしてくらぁ」
「それは助かりますので是非お願いします」
「躊躇無しかよ。まあ良いけどな!」
砦での戦いをこなした後だというのに物足りなかったかバルバは軽くヴァント王国へ飛んで偵察にでも向かおうと言い出し、ミナはこれに後押し。偵察して得られる情報は貴重なので非常にありがたいと考えているのだろう。
バルバは砦を出て自身の翼を羽ばたかせ空へと飛び去って行った。
「しかし魔王様と勇者ちゃんがまた一緒にねぇ、こっそり付き合ってたりして?」
「それは私に聞いているのですか?」
「女同士だから恋愛話くらい良いでしょー」
砦の状態を把握しようと辺りを確認する作業のミナにマリアンはそれを手伝わず木箱の上に座ってミナを見ながら恋愛話で華を咲かせようとしていた。
だがミナにそんな気は全く無いのだが。
「魔王軍に身を置いて少しですが、私は未だに貴女の事がよく分かりません」
「あら、どうして?」
マリアンの方を見ずにミナは彼女に対して今思っている事を告げる、ミナ自身も冷静であり読めない方だがマリアンもまたミステリアスで表情はミナよりも豊かではあるが奥底では何を考えているのか分からない。
「あまり戦いに出向きに行かないにしては高い魔力を誇りガーランの襲撃を跳ね返しています」
「戦いは好きじゃないけど可愛い子を守るなら綺麗なお姉さんは凄いパワーを発揮するのよ♪」
「そういうものですか?」
「そうよ♪」
明るく笑うマリアン、その様子をミナはちらっと見ていた。
やはり読めない。心の奥が、一体それは本心なのかそれとも別で何か考えているのか。
しかしマリアンの事をシュウは魔王軍の長として迎え入れている、ならば信用されているという事かとミナは追求は程々にしておく。
「……」
ミナの姿をマリアンは静かに無言で眺めた後にふいっと視線を外した。
「さあさあ、ヴァント王国の雑魚連中は今頃恐怖で震えてる頃か?魔王軍に攻め込まれるのが怖くてたまらないってか、ハハハ」
鼻歌混じりにバルバは呑気に自身の翼による空の旅を楽しみ、ヴァント王国へと一直線に飛んでいた。
魔王軍はもうじき総攻撃を仕掛ける。そうなれば戦力が削りに削られている今のヴァントは終わり、今の大国は風前の灯を迎えつつある。
この攻撃が終わればヴァント王国は滅び、ギーガ大陸は魔王軍がほぼ手中に収める。
最期となる王国を攻める前にこの目で見てやろうとバルバはもう目的地の前まで来た。
「ああ?なんだ、怖くてうずくまってやがんのか?見張りもまともに出来てやしねぇ…」
空からバルバはヴァント騎士の姿を見つける、二人が立っていたがいずれの二人も地面にうずくまり身体を震わせていた。
想像以上に恐怖があって見張りすら出来ていないと嘲笑うバルバ。
だがその時、異変が起こる。
「ぐ……ぐ……」
「あ?」
うずくまっていた騎士が突然立ち上がり、バルバは何だとその姿に注目する。
「グゥオォォォーーーーーーーーーーーーーー!!!!」
突然騎士が狂ったように叫ぶ、それは人間のものとは思えないまるで獣のような雄叫び。白目を剥き出し、涎も垂らしており完全に自我という物が無いように思える。
「ガァァァーーーーーーーーーーーーーーー!!!!」
その時もう一人の騎士も叫び、そして更に叫ぶ騎士へと向かって武器を振りかざす。
「グゥオァァ!」
「ガーーーー!」
完全に狂っている、人間同士が互いの武器で斬り合うように見えてこれは理性のない獣と獣の争いだった。
互いが傷ついても構わず彼らは争い自ら傷つき血を流していく。
「な、なんだ……なんだよこれは……!?」
異様過ぎる光景、バルバはあまりの光景に呆然と見つめるしかなかった……。
まずは此処まで見ていただきありがとうございます、最後に暴走する騎士。滅茶苦茶やべー感じで書きました、もう理性とか自我とか何もかもかなぐり捨てた人はこういった獣となるのかとイメージしつつ。
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