53、人と魔の共存する世界へ第一歩
「英雄騎士キリアムが魔と協力?そのような話は聞いた事が…」
「だろうな、その歴史が記された本は我が王家の方で代々伝わるキリアムが実際書いた物。世に出ている物は直接関わっていない者の手で書かれた…魔と協力の有無について記載されていたかの差ぐらいではあったが」
今までカリアが学んできた歴史ではキリアムが魔と協力など何処の歴史にも記されておらず、語る者もいなかった。
ライザンは視線をミーヤへと向ける。
「ミーヤ、あの本を此処に」
「え?でもそれは…」
「良い。勇者と魔王が揃う今この瞬間の為に本はあり、キリアムもそれを望んでいるのかもしれん」
王家に伝わる重要な本を命の恩人とはいえ気軽に見せていいのかとミーヤは躊躇したがライザンの後押しもあり、ミーヤは本を取りに部屋を一旦後にした。
「キリアムという男は実に勇敢であり、不利な状況の戦場でも彼は諦めず戦い続けた。私も幼い頃に先代の王である父から聞かされ自分もキリアムのように強くあるようにとこの年まで己を磨き高め続けてきた。だから私も最初は信じられなかったのだ、英雄である彼が魔と手を組んでいたという事が……」
目を伏せ、ライザンは幼い頃の事を振り返り語り始める。昔の彼は先代のロウガ国王から英雄騎士キリアムの事を聞かされ育ち、騎士の道を歩み始めていた。
「世間では魔物や魔族というのは悪であり討つべき存在というのが常識だった、だが……それを聞かされてからそれは本当に正しき事かと思うようになる。全部の魔物達が悪なのか?と」
ライザンの目はシュウへと向けられる、魔物や魔族を代表する魔王という存在。魔王軍として率いて各国を制圧し王族を滅ぼしている彼は世間としては滅ぼすべき悪と認定されるだろう。
だがライザンはシュウに対してそのようには思えなかった、少なくともそんな存在ならばわざわざ自分や娘を助けたりなどしないはずだと。
「私も……同じ事を考え魔王討伐へと向かいました」
その時カリアが口を開き語り始める。
「魔王軍が侵攻し、世界が汚されている。魔王を討てばこの世は清められる、そう思ってましたが……彼に会って話をしてそれは変わりました。討伐の時に共に来ていたヴァント王国騎士団長ベンが私を裏切り魔王共々亡き者にしようとした……ヴァント国王ベーザに命じられ、それを救ったのがシュウでした」
シュウとの最初の出会いについてライザンへと話すカリア。あの時はヴァント王国騎士団と共に魔王討伐を達成し平和を取り戻さんとしていた、魔王と共に勇者まで消すというベーザとベンの企みを知らぬまま魔王の前まで来てカリアは裏切られ、結果シュウに助けられたのだ。
そしてカリアは今まで考えていた事が間違いだったのではないかと思い、シュウと共に人と魔の共存の道を新たに歩き始めた。
「なるほど、勇者カリアとヴァント王国騎士団長ベンと一部の騎士達が行方不明となっていると聞いていたが……そういう事だったか」
カリアの話を聞いて行方不明について納得がいったようにライザンは頷いた。
「ベーザという男は何かと黒い噂の絶えぬ人物だった、ギーガ大陸で一番の強国であり最強の騎士団を有する一番の権力者であるが故に誰も強く意見や追求が出来ておらず好き勝手に過ごしていたようだが……此処に来て報いを受け始めてきたか」
元々ベーザに怪しい所はあった、だが深く関わった時に報復を皆が恐れていた。大陸一の強国を、最強の騎士団を敵に回してこの先無事でいられるのか。見て見ぬふりをするのが当たり前となり止められる者はいなかった、ライザンもこれにそろそろ物申しておこうかという時に魔王軍の侵攻が起こり始める。
「お持ちしましたわ」
そこにミーヤが古い本を持って再び部屋へと入って来た、その手に持つ本はだいぶ汚れている。つい最近の汚れではなく長年の時を過ごしての汚れだ。
本はカリアへと渡され、カリアは本のページを慎重にめくる。古い本であり代々王家に伝わる本だ、扱いには充分に注意しなければならない。
そこに書かれていたのはキリアム自身が書いた日記のような内容だ、その日に何が起こったのかが書かれていて彼が騎士としてどういう訓練をしたのか訓練法も書かれている。ライザンもこれを見て自身で同じように鍛錬を重ねているのだろう。
ページを読み進めていると魔族の大軍が襲いかかって来たという内容の文章が出て来てカリアはそのページで目が止まる。
魔物の軍勢が侵攻してきたが我々の戦力は数として魔物達の半分にも満たない、これでどうやって戦えば良いのかと考えた。そこに思いがけぬ協力者が現れた、魔族のケイオスが協力をしてくれる事となり共に魔物へと立ち向かう。
「ケイオス……!?」
「!その名前って……」
ある魔族の名前が載っておりカリアはその名前に反応して驚き、シュウも同じく反応。それもそのはず、ケイオスという名の魔族はエルフの女王ヘラから聞かされておりデーモンロードを己の命と引き換えに封じこめた者だ。
その魔族ケイオスが英雄騎士キリアムとも関係しているとは思っていなかった。
ケイオスの立ててくれた作戦によって戦力で劣る我々が魔物達を倒し侵攻を止める事が出来た、ケイオスがいなければおそらく全滅していた事だろう。
魔族という身だが私はこう思う。
魔物や魔族、全員が悪という訳ではない。人間にも善悪がある、それと同じ事が彼らにもあるのに過ぎないのだと。
偶然にもキリアムの書き残していた言葉は今のシュウと似た事を言っていた。これが世間に出回っていない代々ロウガで受け継がれてきたキリアム自身の書いた日記。
これを見なければキリアムは魔族と協力したという事などずっと知らないままだったかもしれない。
「魔王シュウよ、この侵攻で多くの命を奪った事に悪いと感じるのであれば…………実現しようとしている人と魔の共存する世界。それを最後まで責任持ってやり遂げ実現させてみせるのだ、その為なら我々ロウガも協力は惜しまん」
「勿論、ロウガ王国の皆さんが協力してくれるのはこれからの世界において大変心強いと思うよ。僕らの方も協力する、かつてキリアムとケイオスが協力したようにね」
ライザンは右手を差し出し、シュウも近づいて右手を差し出し握手を交わす。ロウガ国王と魔王が互いに協力を約束した光景は昔の英雄キリアムと魔族ケイオスを思わせる。
古の時代から時を経て彼の子孫と魔王が今度は人と魔の共存の世界を作る道を歩み始めるのだった。
「じゃあ、今日のところはもう夜暗くなりますから御二方はこのままロウガに一晩泊まってくださいな。命を救ってくれたお礼という訳ではありませんけどせめてそれぐらいは……」
「よろしいのですか?」
「はっはっは、遠慮する必要など無い。我が城で構わなければ身体を休めて行くとよい」
ミーヤから今日は此処で泊まった方が良いと提案され、カリアは主であるライザンに確認するとライザンも豪快に笑って許可する。
「お父様はちゃんと身体を休めてください!二人の事は私にお任せを!」
「分かった分かった、ちゃんと休ませてもらおう」
ライザンにはちゃんと休むようにしっかりと言ってからミーヤはカリアとシュウ、そしてディーを連れて寝室を後にした。
「時代を超え、人と魔が再び手を取り合う…。あの勇者と魔王はどのような世界を我々に見せてくれるのか」
寝室にライザンが一人だけになると呟くように言うとベッドで横になる。
二人の若者がどんな世界を築き上げるか、自分はそれをしっかり見守らせてもらおうと心に決めて。
まずは此処まで見ていただきありがとうございます、人と魔の共存し暮らしていく世界への第一歩。ロウガ王国はその鍵を握るかもしれません。分かり合える王国が早々に無いので。
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