52、知られざる歴史
「失礼、お見苦しい所を見せてしまいましたわね」
一通り泣いた後にミーヤはスッキリとした表情で再びカリアとシュウの二人と向き合い玉座に座っていた。
二人から見てミーヤは右端、そして母親で后のセティアは左端の席へと座っていた。中央がロウガ国王ライザンの座る玉座なのだろう。
「改めまして勇者カリア、そして魔王シュウ。それぞれが異なる立場であるにも関わらず二人で我が父、我が国の王ライザンを。更に私自身を救ってくれた事に心から感謝し、お礼を申し上げますわ」
カリア、シュウの二人へとミーヤは頭を深く下げて感謝を示す。
「私からもお礼を言わせて、カリアにシュウ。夫と娘を救ってくれて本当にありがとう」
同じく妻であり母親のセティアも二人に感謝の言葉を送る、ミーヤとライザンを救った事でロウガ王国全体を救った事に繋がったかもしれない。
もし失ってたら光を無くしたこの王国とセティアはどうなっていたか、あまり考えたくないものだ。
「しかし……大丈夫ですか?世間的に魔王である僕と親しくするのは不味いのでは」
歓迎してくれるのはシュウにとって悪くなく、嬉しい事だった。しかし大国ヴァントに近い場所に位置するロウガ王国がこのように魔王と親しくして大丈夫なのかとシュウは考えた、そのような事がヴァント王国に知られれば不味いのではと。
「心配いりませんわ、ヴァント王国とはもう同盟でもなんでもありません。元々国王ベーザには何かと黒い噂が絶えませんでしたし、むしろ手を切るにはこの上なく良い機会ですから」
ミーヤはヴァント王国とは手を切るつもりのようで、父に死ぬかもしれない程の傷を負わせた事が許せないらしい。
「それに、魔王シュウ。あなたの事はナジャスの者達から聞いています」
「ナジャスから?」
此処で出て来たのは意外にもナジャスという名、最近その街で世話になった事があるのでカリア達にとっても馴染みある場所だ。
「実は何度かお忍びでナジャスには何度か足を運んでいますの、あそこの海鮮料理が美味しくて我がロウガ王国にも取り入れたいぐらいで…と、話が逸れましたわね」
ナジャスの海鮮料理が気に入っているらしく、ミーヤはついその話を夢中で語りそうになったが一旦落ち着いてその話は此処で止めておく。
「それで交流ありまして、ナジャスの者が此処ロウガに来て私と話した時に言ってましたのよ。魔王軍は悪くない、自分達のような民を救い守ってくれた。特に魔法使いの可愛い子供が凄くて優しいと」
最後あまりいらないかもしれない情報までミーヤはきっちりと伝え、魔王軍が世間で言う恐ろしい存在ではない。それをミーヤは事前にこの前シュウ達の手で危機を救ったナジャスの住民から教えられていたのだ。
「可愛いのは私も同意するわ♪」
フフ、と面白そうに微笑むセティアの視線はシュウへと向けられている。
とりあえず褒められているという事でいいのかとシュウ自身は回りからの自分の評価に戸惑いを覚えつつあった。
「つまり簡単に言うなら、魔王でも魔王軍でも関係ないという事ですわ。私が勇者カリア、魔王シュウに感謝する気持ちはそれで変わる底の浅い物ではないのがご理解出来て?」
「ああ……とてもよく伝わったと思う、こちらこそ手厚い歓迎を感謝いたす」
「僕も、魔王軍を代表し感謝します」
立場がどうであれミーヤは二人に感謝する、それが一瞬たりとも揺らぐような事などない。カリアはそのミーヤに対し深く頭を下げて感謝し、隣に立つシュウも同じく頭を下げた。
「失礼いたします!」
そこに兵の一人が一言言ってから王の間へと入って来た。ミーヤの視線は兵へと向けられる。
「ライザン国王が二人の恩人にお会いしたいとの事でして」
「分かりました、勇者カリア、魔王シュウ。共に父の所へ行きましょうか」
玉座から立ち上がりミーヤはカリアとシュウを連れてライザンの元へと向かい、ずっと大人しくしていたディーは少し遅れながらも小走りでシュウへとついて行った。
王の間の上にある王の寝室、そこで今ライザンは治療しているようで二人が呼ばれたという事は会話をしても問題ないぐらいに回復したのだろう。思ったよりも早い回復力をライザンは持っているらしい。
ミーヤを先頭に階段を上がり、王の寝室の前まで来ると扉をノックする。入るように言うとミーヤは扉を開けて室内へと入りカリア、シュウも続きディーもシュウに静かにするよう言いつけられてから寝室へと入っていった。
「お前達が私とミーヤの命を救ってくれたそうだな」
ベッドに腰掛け、二人程の医療者が後ろに控えている状態で国王ライザンは出迎えていた。
戦場で着ていた鎧は今は脱ぎ、胸には包帯が巻かれている。50を超えるライザンだが腕や身体を見れば逞しい筋肉に覆われ鍛え上げられてるのが伝わった。
戦場に今でも現役で立ち続ける騎士王の異名を持つ男、負傷した姿になってもカリスマ性は失われてはいない。
「身体の方は大丈夫なのですか?」
「なあに、心配には及ばん。治療が良かったのか少し安静にしていればもう大丈夫だそうだ、ただこのまま寝たきりというのが退屈でかなわんがな」
ライザンの怪我を心配するカリアだがライザンは思ったよりも元気そうだった、強靭な肉体と体力によって此処まで回復出来ているのだろう。
「お父様!私が言うのも変ですが大人しく寝ていてくださいね」
「うむ……まさかお前にそう言われる日が来るとは」
勝手に起きて何処か移動しそうな父親ライザンにミーヤは移動しないよう注意し、そう言われて弱った感じのライザンは大人しく従うしかなかった。
「ともかく感謝しよう、勇者カリア。そして………」
カリアを見た後にライザンの目はシュウを見た、シュウは真っ直ぐその目を見返しライザンと向き合う。
何かを見極めんとしているライザンの目、長く人生を歩き戦場で生きて来た男の目は魔族の少年をどう見ているのか。
「魔王軍の頂点に立つ魔王にしては邪悪さというものを感じられん、その目は正しき者にしか持つ事の出来ん目だ。本当に……魔王なのか?」
「結構言われるけど、僕は魔王だよ。今までの魔王がそんな感じでも全員がそうなるとは限らない、人間と同じさ」
本当ならばライザンは魔王を倒す人間側だった、つい先程までは。だがまさかその魔王に娘のミーヤ共々命を救われるとは思ってもいなかった。
魔族ではあるが人間の子供とたいして変わらぬ容姿、これが世間から恐れられる魔王というのがライザンには信じられなかった。姿だけでなく彼の持つ目に邪悪な感じが無いのだから。
どちらかと言うとあのヴァント王国騎士団副団長タウロスの目の方が邪悪のように思えた程だ。
「ロウガ国王ライザン、魔王軍は何かと国を制圧してきて人類を皆殺しにしてるとかのイメージが付いているかもしれないけど……僕達の目的は世界を支配したり征服したりとかじゃない、魔族が暮らしやすい世の中を作る為に今まで行動してきた」
シュウはライザンへと魔王軍の目的について語り始める、それはミーヤにも聞いてほしいのか時折彼女の方にも視線を向けたりしている。
「ただ、そこに居る勇者カリアと出会い……人と魔が共存していく世界を目指すようになった。ちゃんと人間にも僕達のような魔族の話を聞いてくれる人も居ると知って、人間と魔族は分かり合えるかもしれないと、そう思うようになったんだ」
カリアとの出会い、それが元々は魔族の暮らしやすい世の中を作るという目的から人と魔の共存を目指す道を歩く切欠となった。その時の事を思い返しつつシュウは話を続ける。
「人が全員良い奴、悪い奴という訳じゃない。魔も全員良い奴、悪い奴という訳じゃない。両方とも変わらない、そんな変わらない種族同士が共に共存しても不思議じゃないと思う。支配するような世界よりも共存して共に暮らして生きていく生活の方が、色々楽しいだろうし」
全員が善人ではない、悪人ではない。それは人も魔も同じだ、良い奴がいれば悪い奴も居る。だったら似た種族同士争うよりも共存した方が良いだろうとシュウの言葉をミーヤもライザンも黙って聞いていた。
「だが、結果として多くの命を奪った事に変わりは無い。これを戯言と思うか受け入れるかはそちらに任せるよ、ただ僕は人と共存する世界を作って行くにはロウガ王国は欠かせないと思ってる。国も街も全部がしっかりしてる此処は人の街の要なんだから」
無理に分かり合おうとは思ってない、結局は多くの人間をその手にかけた事実は動かせないのだから。シュウはその答えは今は求めずその場から去ろうとしていた。
「……古の時代、人と魔は共存していたと聞く」
語り始めたライザンの言葉、それはシュウの足を止めさせた。
古の時代に人と魔が共存しデーモンロードを封印したというのはエルフの女王ヘラから聞いている、此処でライザンからそういった話が出てくるのは予想していなかった。
「キリアム大草原にあるキリアムの由来については知っているかな?」
「それは確か古の時代に魔物の大軍が草原を抜けて国を侵略しようとしていた所にキリアムという名の騎士を中心とした少数精鋭の騎士団が魔物の大軍を倒した事で、伝説となってその名が付けられたとか」
カリアが先にライザンの問いに応える、それは歴史を学ぶ本でも載っており一般的な知識としてそう知られ伝えられている。
「世間ではその歴史で知られている。だが……語られていない部分があったのだ」
「え?」
「英雄騎士キリアム……我がロウガ王国を作り上げた私の先祖であり、彼は書き残していた」
キリアムはロウガ王国を作った人物でライザンの先祖にあたる。娘のミーヤにとっても先祖で二人とも英雄騎士の血を受け継いでいるという事になる、歴史の英雄の血筋を受け継ぐ者が此処に居る事にカリアは驚きつつ話を聞く。
シュウも去ろうとしていたが足を止めて振り返り話を聞く体勢だ。
「彼もまた、魔と協力して共に侵略してくる魔族を倒したと」
まずは此処まで見ていただきありがとうございます、英雄の話については語られていない知られざる事がつきものと思い英雄騎士キリアムの世間が知らない事を語る回でした。
こういうちゃんとした王をこの作品で書くのが全然無いので不思議と新鮮に思えましたね。
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