50、勇者の怒りと癒し
「お父様!お父様!」
ミーヤはライザンへと涙ながらに呼びかける、しかしライザンの反応が無い。
かなりの出血でトマホークによる傷は思ったよりも彼を重傷へと追い込んでいる。
「な、なんだ!?あの国王、邪魔をして…!あいつが勝手に飛び出して来たんだからな!?」
タウロスはまさかライザンがトマホークの餌食になってしまうとは思っていなかった。自分へと言い聞かせるように自分は悪くないと戸惑いながらも新たに剣を抜く。
戦はまだ続いており、タウロスは今度は自ら馬を操り襲いかかって行った。
「ライザン国王が…!」
そこにターウォの軍も到着、一番で来ていたレオンはそこでライザンの瀕死の重傷を、その原因となった通ろを見ていた。
あのヴァント王国の者が斧を投げた事による傷。
本来ならばレオン達ターウォは敵の懐で裏切り魔王軍を包囲する役目を与えられている。今がチャンスの時かもしれない、今ならシュウを倒せる所まで行ける。
だがライザンが娘を庇って倒れ、娘であるミーヤは悲痛の表情で呼びかけ続けている。それに対してヴァント王国の者は構わず攻撃しようとしているのが見える。
数多くの自分勝手で権力や自らの保身にしか関心の無い王が多い中ライザンはまともな王であり、かつては先代の王、つまりレオンの父親共々ライザンと更にミーヤ共々交流があった。
更に自分を認めてくれているシュウの事もあり、彼は討つべき敵なのかと揺らいで迷いが最近生じていた。
本当にこのやり方で良いのか、シュウを、ライザンを、ミーヤを、このまま何もかも見捨てて本当に覇王の道を進んでいいのか。
本当に討つべき相手は誰だ?
心で己自身へ問いかける。
顔を伏せていたが上げてレオンはキッと前を睨みつけるように見据えた。
「聞けぇ!ターウォの騎士達!そしてロウガの者達!ヴァント王国はロウガ王国を裏切った!たった今副団長のタウロスがライザンを亡き者にしようとしたのがその証拠だ!」
「!?」
「これが奴らの本性だ!裏切り者のヴァント王国騎士団を討ち滅ぼせ!」
キリアム大草原でレオンは大声でヴァント王国騎士団、タウロスを指差してターウォの騎士達に滅ぼすべきはヴァント王国だと伝える。
「おおおーーーー!」
ターウォの騎士達はヴァント騎士団へと突撃を仕掛け、交戦に入る。
「な!?お、お前ら何でだ!」
「黙れ裏切り者が!」
予定では彼らはターウォが魔王軍を裏切り、彼らと共に魔王軍を袋叩きにするつもりだった。
しかし今彼らは裏切り者とされ魔王軍だけでなくターウォからも追撃を受けてドラゴンと戦い、一太刀浴びせたヴァント騎士に対して横からターウォ騎士がヴァント騎士の腹部へと剣を突き刺していた。
「がはっ……!」
ヴァント騎士は吐血し、致命傷に至ったようで落馬してそのまま息絶える。これでターウォもヴァントへと刃を向けて既に後戻りは出来ない所まで踏み込んでいた。
「その選択ならば、それに合わせ剣を振るうまで!」
ホルクに迷いは無い、レオンがその道を行くなら自分は彼が歩めるよう剣を取る。
そしてヴァント騎士達を纏めて愛剣ですれ違いざまに横薙ぎで振るって次々と落馬させていくのだった。
「うおおお!」
同じく後戻り出来ない所まで踏み込んでいたタウロスはゼッドへと斬りかかる、あくまで戦場で起きた事故。ライザンが仮に自分のせいで死んだとしてもそれは不可抗力というもの。そちらを狙って斧を投げた訳ではない、だから自分は悪くないと心の中でそう何度も連呼していた。
これは魔王軍を倒さない限り晴れる事の無い闇なのだと。
だが、その暴挙を許さんとする者が立ち塞がる。
ザシャァッ
「ぐわああ!」
すれ違いざまにタウロスの胴を狙って横薙ぎ、あまりに早い太刀筋で心の動揺も影響していたかタウロスはそれに対する反応、対応が遅れていた。
勇者カリアの大剣が鎧に守られているはずのタウロスの胴ごと斬り、落馬によって地面へとタウロスは落とされる。
腹部から流れる血を抑えつつ彼は見上げる。何があったのかと、すると目の前に映る顔にタウロスは驚愕した。
「ば、馬鹿な…!お前、勇者カリア……!」
「…………」
カリアは無言でタウロスを見下ろしており、タウロスは深手を負いながら自分を斬りつけたのはカリアだと理解する。それと同時に何故ヴァント王国に刃を向けるのだと疑問と怒りが湧き上がる。
「何故だ!何故こちらに剣を向けた!?お前は勇者だろうが!魔王軍に味方するとは裏切りにも程がある……!」
「先に裏切ったのは、いや……最初から裏切っていたのは貴様らの方だろう」
ドスッ
「かっ……!」
そう言うと怒れるタウロスにカリアは剣を突き立て、とどめを刺した。
野心を抱く副団長の最期は勇者の剣によって迎えたのだった。
「余計なお節介を……おい!?」
守られた形となったゼッド、カリアへ何か言おうとする前にカリアはすぐに深手を負ったライザンとミーヤの元へと走る。
その姿を見送った後にゼッドはヴァント騎士団と魔王軍が繰り広げている乱戦へと参加し、その力を振るっていった。
「……無事だったか、ミーヤよ……」
「お父様!どうして、どうして!?」
ライザンの意識はありミーヤの顔を見ていた、そのミーヤの顔は泣いており何も出来ないでいた。
「愛する娘を守るのは父親として当然だろう……騎士団長としては失格かもしれんが……」
「お父様!」
「私が倒れた後のロウガを、母さんを任せた………」
「そんな事おっしゃらないで!このままいなくなるなんて嫌ですわ!」
もう自分は助からない、そう思ってライザンは娘であるミーヤへと後の事を託そうとしている、それにミーヤは必死で首を横に振る。ライザンを失いたくない、死なせたくないと。
「シュウ!」
そこにカリアがタウロスを仕留めてすぐに駆けつけて来てシュウを呼ぶ。
「お前の回復魔法ならばライザン国王を!」
「……無理だよ、僕のヒーリングは魔物や魔族にしか効果が無いんだ。人間に施した所で効果は無い」
シュウはカリアの言葉に対しゆっくりと首を横に振る。
「なら、私が!ヒーリング!」
カリアはライザンの負傷した胸へと両方の掌を当てて回復魔法を唱えた。白い癒しの光がカリアの掌から発せられライザンの傷を癒しにかかる。
「安心してほしい、ミーヤ王女よ。ライザン国王は必ず助けてみせる!」
「!は、はい……!」
回復魔法を施しつつカリアは傍に居るミーヤ王女を落ち着かせる為に声をかけた、それにミーヤは涙しながらもコクンと頷き、見守る。
「……!(くそ、傷の治りが遅い……!私の魔法では駄目なのか……!?)」
ライザンの容態は回復を受けてはいるものの好転はしない、思ったよりもトマホークを受けた傷は深い。彼の元々の高い体力で何処まで持ちこたえられるか分からない。
カリアは元々この回復魔法は一人旅の時に応急処置として習得したものだ、僧侶の使い手より回復能力では劣りはするが簡単な傷を治すぐらいなら充分だった。しかし今回のような重傷はそうはいかなかった、小さな効果の回復魔法では進行を遅らせるだけで精一杯である。
「(僕の魔法では回復しない、かと言ってこのままカリアが回復魔法をかけ続けていても……)」
カリアの魔力の量をシュウは確かめていた。そこから感じられる魔力は普通の僧侶の回復魔力を下回る程であり、本業よりも劣るのは当たり前の事。
遅かれ早かれライザンはこれでは死が訪れるのに変わりは無い。
だが、娘が父の無事を必死に願い。勇者が懸命に助けようとして回復魔法をかけ続ける。
「(これで良い訳がない!)」
シュウに迷いは無い、カリアへ向けてシュウは魔法を唱えだした。
「ブーストマジック!」
カリアへとシュウが右の掌を向けると紫色の光が発生し、それがカリアを包み込むように光った。するとそれに合わせてカリアの掌から生じていた癒しの光が強く眩い輝きを放った。
ブーストマジック
使用者が対象者の魔力を一時的に底上げする物でカリアの魔力は今、シュウの魔力によって底上げされた状態だ。
「(これは、ライザン国王の傷が塞がっていく!)」
先程まで効果が薄かった回復魔法。しかしシュウの補助魔法を受けた事により高度な回復魔法に匹敵する程の効果を持つ物にまで一時的に進化、ライザンの胸の傷は出血が止まり傷が塞がっていき顔色は徐々に良い状態へとなっていく。カリア自身もこの回復の手応えを感じており手を緩めず最後まで油断せずに回復に務める。
勇者と魔王の共同作業が一国の人間の王を救う…。
まずは此処まで見ていただきありがとうございます、レオンが裏切るかと思いきやヴァント王国を裏切り者に仕立て上げたりカリアが怒りの一太刀を浴びせて王を回復。とにかくカリアを活躍させようと今回書きました。
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