42、それぞれの思惑
「大将の首は討ち取った!もう向かって来る奴はいねぇか!?」
オークキングのバガスを斬り、魔物達は統率を失ったのに対してドルムは魔物達に対して叫ぶ。
それに向かって来る魔物はおらず勝ち目が無いと見てオークは逃げ出し、残ったブラッドバードも恐れて飛び去って行った。
「おおし、終わったか!」
最後のオークを殴り倒したザック。戦いが終わってガッツポーズ、混戦をずっと戦っており何体ものオークをその手で倒してきており隣に居るローレも無言で剣を収める。彼もザック同様混戦の中オークやブラッドバードを斬り続けてきた。
「ふう…勝ったのは何よりですが、それ以上に怪我人が多いですね」
多くの負傷した兵が出て回復の出来る僧侶ガンスターは負傷兵に回復魔法を唱え続けており、負傷した者だけでなく今回の襲撃で死亡した者も出ている。戦場には何度も出ておりこういった事は初めてではない、ただそれでも慣れはしない光景でありガンスターは小さく息を吐く。
体を張って仲間達や砦を紫のワイバーンから守ったモーザの回復も後でしなければならない、いくら守りが強かろうがあのブレスを受け続けて全くの無傷という事はないからだ。
「ああ~疲れたぁ!」
戦いが終わりカーロンは地面へと座り込む、空を跳ぶ敵を今回思うように射抜く事が出来ずストレスだったが地上のオークへと狙いを切り替えて地道に確実に1体ずつ仕留めていた。
「大丈夫か!絶対助かるからな!?」
アーガスは同じ仲間である騎士の傷に包帯を巻いてガンスターの治療が来るまで応急処置に専念する、出来る事なら全員救いたかったが戦死者が出て彼にとって無念だった。
「なんとか終わったか…とりあえず無事に切り抜けられた…」
攻撃魔法や補助魔法を使い続けて魔力の残量がほぼ空っぽに近いウィザ、杖を支えに立っているだけが精一杯の状態。それだけ彼も必死だったという訳だ。
「おい、駆けつけるならもっと早く来いよ!そしたらもうちょっと早く楽に行けたかもしれねぇのによ!」
戦いが終わってすぐ、ザックがアードの姿を見つけると詰め寄って行った。姿を見るのはあの国王に呼ばれての集結以来になる。
詰め寄って来るザックにアードは黙って彼の方に視線を向けた。
「大体俺らは迫っ苦しい兵舎で過ごさなきゃならないのにお前だけ何で別…!」
この機会に元々不満を持っていた事まで今の状況とは無関係にも関わらずザックは言い放とうとしていた。
「遅くなったのは悪かったな、ヴァント王国の方に大勢のブラッドバードが飛んで行くのを見て放置したら大変な事になると思ってそっちを掃除していたんだ」
「何…!?」
遅れた事に謝罪の言葉を入れつつアードは遅れた理由について空の魔物達がヴァント王国に飛んでいったのを見かけたからだ。その相手をアードが努め、ブラッドバードは残らず葬り去ってこの戦場に駆けつけて来たという訳だ。
「つまり、此処は囮で本当の狙いは城への奇襲が狙いだったって訳か?俺らは現にその知らせを受けて此処に来たんだからな」
さっきの魔物達の狙いは此処で暴れて戦力を引き付けて来る事、ドルムは有り得ない事ではないと思っていた。戦場で戦い続ければそういった囮作戦を目にしたり時に自分達がそれを実行するのはよくある事。特に珍しい訳ではない。
「放置してたら王国はおそらく全滅、だったな」
「っ……!」
ローレが言葉少なめにアードのブラッドバード殲滅がいかに重要だったか語り、ザックはこれに何も言えなくなった。
自分達が目の前の敵に必死になってる所に単独で別行動し敵を倒した後に駆けつけ魔物の要であろう大物を倒す、ドラゴンライダーだからと特別扱いを受けて気に入らないという所があって簡単に認めるのはプライドが許さなかった。
だが目の前の功績は認めざるを得ない。
「伊達に特別扱いを受けてる訳じゃない、て分かったろ?」
「うっせ…!」
ドルムはそんなザックの気持ちが分かってたのか軽く言葉をかけてから彼の肩を叩く。
「(俺達は魔王軍を倒す為に結成された精鋭部隊、この程度の敵に遅れをとってられるか)」
剣を収め、アードは自分のドラゴンの方へと歩み寄り労うように身体のお腹辺りを撫でてあげた。
傭兵部隊の騎士団全滅の危機、更に王国へ敵襲の危機を事前に救った功績は大きく国王のベーザも他国に自慢が出来ると鼻高々だろう。
そして他国は他国でヴァント王国の総合力の高さに安心し策略も含め魔王軍を殲滅出来ると安心していた。
更に言うなら戦いが終わった後にどうヴァント王国に取り入ろうかと、自分達の立場や地位の事も考え始めている。
「ヴァント王国に腕利きの傭兵集団?」
「ハッ、その者達が魔物達の襲撃を跳ね返したそうです。特にドラゴンライダーと呼ばれる者の腕は別格だそうでして」
傭兵達の魔物撃退の活躍は此処、海の都市王国であるターウォの耳にも届いていた。城内にある王の間にて兵の一人が玉座に座る少年国王レオンへとアード達傭兵の活躍を一通り報告し終える。
「報告ご苦労、下がれ」
「ハッ」
兵は敬礼した後に王の間を後にしてその場にはレオン一人だけが残った。
「ドラゴンライダーとか何時の間にそんな存在が味方するようになった…これに計画に狂いが生じるような事は…いや、大丈夫か」
レオンはブツブツと呟くように俯きながら小声で己に言い聞かせているようだ、元々レオンは魔王軍だけでなく王国騎士団もろとも纏めて裏切って消すつもりでいる。それがヴァント王国の方に何やら厄介そうな者達が加わり、最初の計画に狂いが生じるかもしれない可能性が出て来た。
それについて自分で改めて確認していった所だ。
「どっちにしても魔王軍に王国軍、どっちも消えてなくなれば天下は我が国…魔王にヴァント王国、どっちにもこの世界の覇権などくれてやるものか…!」
魔王も大国もどちらも亡き者にしてターウォが、自らが頂点に立つ。それこそが真の平和の近道だと信じて疑わず作戦決行へ向けてレオンはその野心を燃え滾らせていく…。
「…………」
そしてレオンは気付いていなかった、今の言葉を影で聞いている何者かにその野心を聞かれていた事を…。
まずは此処まで見ていただきありがとうございます、傭兵団の中でザックとか特に喋らせやすいなとつい最近気がついた今日この頃。
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